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「つな木」のエンジニアリング③|「つな木」ドームにおける構造検討
江坂 佳賢、石﨑 樹、瀬口 翼、畔見 徳真
日建設計 エンジニアリング部門 構造設計グループ
設計監理部門 デジタルデザイングループ DEL(NWL)
はじめに
Nikken Wood Lab(NWL)の構造設計者の視点から、「つな木」の特徴とつな木PJについて、全3回にて紹介するシリーズ。最終回の今回は、「つな木」の応用事例として、2020年に北海道帯広に設置した「つな木」ドームについて紹介します。クランプ開発と接合部実験、キューブ型の実大実験と構造検討に次ぐ、応用編となります。
(2回目の記事はこちら)
回転クランプ金具の開発とドーム型「つな木」
「つな木」の多様な使い方やフレーム形状を求めて、部材同士を自由な角度で接合できる回転クランプ金具を開発しました。その実践として取り組んだのが今回のテーマである直径約5.6mの「つな木」ドームでした。今回は、その検討プロセスを紹介したいと思います。
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(1)「つな木」の特徴を活かしたドーム形状の検討
「つな木」のエンジニアリング①にて紹介した通り、「つな木」の大きな特徴は、クランプ金具による部材の芯をずらした接合にあります。芯をずらすことによって簡便で確実な接合を実現していますが、ドーム形状を考える上でのポイントはこの芯ずれでした。
綺麗なドーム形状を作るには、この芯ずれを上手く吸収する必要がありました。また、誰もが簡単に組み立てられる「つな木」の魅力を維持するためには、短い材の繋ぎ合わせで大きな空間を架け渡す工夫が必要でした。そこで、この芯ずれを逆手に取った構造として、レシプロカルフレーム(相持ち構造)と呼ばれる形式を採用しました。
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(3本の相持ちによって1本では届かない距離を架け渡している)
レシプロカルフレームは部材を相互に重ね合わせることで、部材同士が互いに支え合って大きなフレームを架け渡すことができます。今回はその中でも特に、ダヴィンチ・ドームと呼ばれる幾何学形状を選び、回転クランプのルーズさと木材のしなりを活かせる形状としました。なお、この形状はかの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチによるアイデアとされています。
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(2)膜の展張方法と最適形状の検討
(1)でドームの形状が決まりましたが、ドームの周囲には雨風を凌ぐ外皮が必要です。ここでは、軽くて採光も確保できる外皮として膜を採用しました。ただし、膜は引張られた状態でないと形状を保持できません。そこで、次に膜を引張る展張方法を検討し、クランプ金具の簡便さとドームの幾何学形状を活かすことが出来るストラット方式(束で膜を面外に押し出して引張る方式)を採用しました。
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その際、膜の展張はなるべく全面を均等に引張ることが合理的とされるため、張力の入りにくい束から離れた部分(図5の寒色部分)にも張力が入るように膜の形状を最適化していきました。最終的には図5下図のように計44枚(A~Jの10種類)のパーツに分割し、これらを溶着して1つの大きな膜とすることにしました。また、張力が入りすぎてしまう突き上げ位置(図5の暖色部分)については、補強のために膜を2重にすることにしました。
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(3)実大実験と構造解析によるドームの検討
ここまで膜の検討を進めてくると、膜を支持するためにドームに必要な力(反力)が分かってきます。よって、次の検討としてドームがこの反力に耐えられるかの検証が必要です。ここでは、実大実験と構造解析にて検証を進めました。実験からは基本的な荷重に対する挙動と解析の妥当性の確認を、解析からは実験では確認できないより詳細な検討を行うことで、ドームが反力に耐えられるか検証し「つな木」ドームの構造を最終決定していきました。
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(4)ユニット化フレームによる効率的な設営
構造が決まれば後は設営を残すのみですが、最後に、設営時に加えた一工夫を紹介します。お気付きの方もいるかもしれませんが、今回採用したドーム形状には、同じフレーム形状が繰り返し現れます。そこで、そのフレームを先に仮組してユニット化することで、当日の作業手間を軽減することとしました。結果、完成まで1日の作業で「つな木」ドームを設営することができました。
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まとめ
今回は、全3回の最終回として「つな木」ドームの検討プロセスを紹介しました。「つな木」の持つ高いポテンシャルと、その中での構造的な工夫の面白さを感じていただけたら幸いです。
今後も「つな木」のさらなる可能性を発見し、木材利用の促進や森林資源の良好な循環に繋げて行きたいと思います。
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江坂 佳賢
日建設計 エンジニアリング部門 構造設計グループ 兼
設計監理部門 デジタルデザイングループ DEL(NWL)
ダイレクター
素材の特性を活用した構造設計を目指し、接合技術の開発等にも取り組んでいる。主な担当プロジェクトは、有明体操競技場、選手村ビレッジプラザ、九州フィナンシャルグループ福岡ビル、東京スカイツリーなど。構造設計一級建築士、技術士(建設部門・総合技術監理部門)。
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石﨑 樹
日建設計 エンジニアリング部門 構造設計グループ 兼
設計監理部門 デジタルデザイングループ DEL(NWL)
構造設計エンジニア。建物の構造設計のほかに地震時建物被災度判定システムNSmosや仮想地震体験システムSYNCVRなどの研究開発に従事。主な担当プロジェクトは、日本リーテック総合研修センター、選手村ビレッジプラザなど。
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瀬口 翼
日建設計 エンジニアリング部門 構造設計グループ 兼
設計監理部門 デジタルデザイングループ DEL(NWL)
構造エンジニア。専門は木質材料・木質構造。適材適所の木材利用を想って日々構造設計に取り組んでいる。家中の棚をDIYで作りきってしまい木材を余らせているのが最近の悩み。
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畔見 徳真
日建設計 エンジニアリング部門 構造設計グループ
構造設計エンジニア。膜構造の研究経験を活かし、つな木ドームでの膜形状の設計や構造検討ツールの開発を担当。まだ若手で構造設計での実績は少ないが、先輩の背中を追って日々奮闘中。
共同開発チーム
・株式会社日建設計(Nikken Wood Lab):企画、デザイン
・三進金属工業株式会社:クランプ製作・販売、ユニット販売
・江間忠木材株式会社、株式会社篠原商店:木材調達・加工
・株式会社もちひこ:外装膜製作・加工
リンク
・「つな木」公式サイト(https://tsunagi-wood.jp/)
・「つな木」オンラインショップ(https://kanehisa.official.ec/categories/4820191)