With / Afterコロナに適応する躯体蓄熱放射冷暖房+ One way換気のウェルネスオフィス
片岡 えり
日建ハウジングシステム 設計監理部 設備
新型コロナウイルスの流行が収まらない中、健康に意識が向いたニュースや商品などを見かけることが以前にもまして増えている気がします。全ての人の生活環境が大きく変わる中で、健康に過ごすことの大切さを一人一人が身にしみて感じているということだと思いますし、私もその一人です。
健康に過ごすということは、快適に過ごすことと密接に関係していると言えますが、快適な温熱環境と、新鮮な空気環境を実現する手法の一つとして躯体蓄熱放射冷暖房(以下 TABS:Thermo Active Building System)+One-way換気の空調システムをご紹介します。
図1 木陰で涼む人
放射冷暖房の快適性
放射冷暖房とは、水や空気によって冷やされた(暖められた)天井面や床面からの放射熱で、人やものを直接冷却・加熱し、室温調整することを言います。このような放射温度で作られた快適な環境は、みなさんにも馴染みのある夏の木陰の涼しさで実感できます。
木陰が涼しい理由は、日射を遮ることに加えて葉から水が蒸発することで葉そのものの温度が下がっていることにあります。頭上がひんやりとした環境面で覆われることで涼しく心地よい放射環境が自然に形成されるのです。私はこのような自然の心地よい環境を建物の中で作りたいと学生の頃からずっと考えており、TABSを導入した小学館ビルで実現することができました。
小学館ビルでのTABS
TABSでは建物の天井躯体に冷温水配管を埋込み、コンクリートを直接冷やすあるいは暖めることで、木陰の下の心地よさと同じ効果を居住空間に作り出すことができます。
図2 TABSの説明図
また、放射冷暖房は一般的には金属パネルと冷温水配管を組合せて行うことが多いですが、小学館ビルは建物の使用時間が長いという使い方の特徴に合わせて、コンクリートの躯体の蓄熱効果を活かしたTABSを採用しました。そのオフィス空間を魔法瓶のように外断熱で包み込むことで、高い省エネ性と快適性を両立することができました。
図3 小学館ビルの執務室内写真と熱画像
図4 一般建物と小学館ビルのエネルギー消費量の比較
図5 アンケート結果
With/After コロナの視点では、快適性に加えて感染症リスクを最小化するために新鮮な空気環境とすることも重要になります。一般的な対流式空調(エアコン等)では空気を冷却・加熱して循環することで室温をコントロールします。
一方、小学館ビルでは天井の放射温度コントロールに加え、補助的に循環空気の冷却・加熱を行うため、対流式空調と比較して循環空気の量を極めて少なくすることができ、結果として新鮮な外気の導入比率を高くすることが可能になります。
図6:空調風量に対する新鮮外気の割合比較
さらに、室内に導入する新鮮空気は居住域に近い床から吹出し、天井から吸込む「One-way」の流れとしているため、一般的な天井吹出し・天井吸込みの換気方式と比較して、新鮮な空気を居住者に効率的に届けることができ、かつ室内の飛沫拡散抑制の効果も高い換気方式ということができます。
図6 一般空調換気方式とOne Way空調換気方式の比較
おわりに
With/Afterコロナに求められる健康・快適な環境を実現するTABS+One-way換気の空調システムをご紹介しました。今後もより健康で快適な環境の実現を目指して、放射冷暖房・効率の良い換気システムの研究・実践に取り組んでまいります。
片岡 えり
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
日建ハウジングシステムに出向中。小学館ビル、伊万里有田共立病院、明治大学グローバルタワー、福岡高地家簡裁庁舎等の設計を担当。ASHRAE Technology Award First Place、ASHRAE Technology Award Engineering of excellence、空気調和・衛生工学会技術賞などを受賞。
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