オフィスで野菜を育てると会社に来たくなる?
三浦 梨紗
日建設計総合研究所 環境部門
研究員
出社したくなるオフィスとは
昨今、健康経営(注1)が注目され始め、従業員の健康意識を向上させるために次のようなサービスが広がっています。
健康的な社食の提供
従業員のヘルスリテラシー向上のためのセミナーの実施
オフィスビル従業員限定の会員制フィットネス
また、コロナ禍もあり、リモートワークが普及してオフィスでなくても働けるようになってきました。フルリモートを導入してオフィスを減らす企業もある一方、同僚と顔をあわせる機会が減ってコミュニケーションがとりにくくなったことを課題と捉え、オフィスに従業員を呼び戻す企業もあります。
そんななかで私たちは、『オフィスで野菜を育てると会社に来たくなる従業員が増えるのではないか?』という仮説のもとで、コロナ禍で課題となっているコミュニケーションの誘発、オフィスという空間に対するエンゲージメントへの影響について、実験により把握することにしました。
なぜ野菜を育てるのか?
「野菜を育てる」ことに注目した理由は次の3つです。
オフィス空間で育てる行為(種を蒔く、水をやる、収穫する、食べる…)を協働させることで、人とオフィス、人と人をつなげる
→園芸活動プログラムに参加することで、参加者間で交流が促進された報告もある(注2)オフィス空間に野菜が育つ姿(変化する姿)を見る仕掛けを創ることで、従業員のモチベーションを上げる
→水嶋・千葉らは「農作業」がもたらすストレス軽減効果をエビデンスとして示し、アグリヒーリングを提唱している。(注3)野菜を食べると健康につながるイメージがあり、従業員の健康意識も高められる可能性がある
→健康日本21(厚生労働省)では、野菜摂取量350g/日を目標としているが、全世代で足りていない調査結果がある(注4)
実験1では、「育成コミュニティ実験」として、研究メンバーとともに野菜の世話をするサポーターを東京オフィスと大阪オフィスの2か所で募り、社内SNSで野菜の生育状況を報告しました。
成長した野菜は、コロナ流行の合間を縫って収穫祭を実施しました。
社内アンケートでも、野菜を育てることについてポジティブな意見が多数ありました。
また、「普段一緒に業務をしないメンバーとも話す機会が増えた」、「サポーターなど明確な役割があると情報発信に積極的になれる」という声もあり、クラブ活動のようなチーム制でのコミュニティ構築も含め、多段階での参画の仕組みづくりの工夫が必要だということが判りました。
実験2では、実験1を踏まえて「行動喚起実験」として野菜をきっかけとした交流を増やすことを目的に、コミュニケーションボードを設置しました。
図4は、ある日の野菜の設置場所(ベジキット)の滞留人数の変化です。
野菜の周りの滞留人数は約4倍になっており、野菜を見るために立ち止まったり、周りで同僚と話す機会が増えたことが示唆されます。
ただ今回の実験では、物珍しさから集まってくれた可能性もあるので、継続させるための仕掛けも必要になると考えています。
また、野菜を育てる場に一緒に示すと相乗効果が見込める情報についても検討を始めており、オフィスの使い方、運営がデザインや経営に及ぼす影響について引き続き実験・分析を進めていく予定です。
働き方や働く場が多様化するなかで、オフィスの役割も日々変化しています。社員のコミュニケーション不足などの現状の課題解決にも向き合いつつ、 当社も昨年から導入したABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)をはじめとしたオフィスの使い方の変化にも柔軟に対応できるように、定性的・定量的な評価・分析結果を示していくことが大事と考えています。引き続き、様々な取組みを通じて、より良いオフィス環境を創造している皆さまへ「出社したくなるオフィスのあり方」を発信・ご提案できればと考えています。
三浦 梨紗
日建設計総合研究所 環境部門
研究員
2019年日建設計総合研究所に入社。学校や給食センター等、官民連携事業支援業務に従事。自主研究では、所属部門を超えた連携を図り、オフィスの使い方、運営がデザインや経営に及ぼす影響について引き続き実験・分析を進めている。
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