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AI(機械学習)を活用して建物の省エネルギーを究める

日建設計総合研究所(NSRI)では、社会課題解決のために自主的・戦略的に研究を行うことが出来る仕組み『自主研究』に取り組んでいます。
このnoteは、NSRI自主研究の中からピックアップしてご紹介する第10弾です。興味がある、協働したい、という方からのご連絡をお待ちしております。

高橋 直樹 
日建設計総合研究所 環境部門
上席研究員

建物の省エネルギーを進めるための課題

建物の省エネルギーを進めるためには、建物関係者による継続的な取り組みが必要です。このとき実施される様々な取り組みに対する効果を評価するためには、エネルギーの基準値、いわゆるベースライン(BL)があるとわかりやすいと考えます。しかし、実際の建物設備の運転は、気象条件や建物利用状況などに応じて変化するため、有効なBLの設定が難しいことが大きな課題となっています。

そこで、AI(機械学習)を活用して、妥当性と汎用性の高いBL推定モデルを作成し、このBL値と実績値を比較することで、省エネルギーの取り組みを進める方法を考案しました。

図1 ベースライン推定のイメージ

まずは建物全体のエネルギーを推定してみる

ある病院の建物全体の電力量データを用いて、機械学習によりBL推定モデルを作成しました。このとき電力量(エネルギー)を説明する変数として、月日や時間、外気温や湿度、患者数等を設定しました。2017年度を学習期間、2018年度から2022年度をBL推定期間としました。
図2の通り、建物全体の電力量の実績値(青線)は2020年夏以降にBL値(オレンジ線)を上回っていることが確認できました。これは病院として新型コロナ禍による運用状況の変化を受けている時期と重なることがわかりました。

図2 建物全体電力量のBL推定結果

どのような用途が影響しているかを調べてみる

この病院では、16の用途別の電力消費量を把握しているため、建物の中でどのような用途が影響しているかをBL推定で調べました。BL推定の方法は、先ほどの建物全体と同様です。

図3は建物全体や用途別のBL値と実績値の差を示します。2021年以前は、建物全体の差(青線)は、主に熱源設備と熱源補機(ポンプや冷却塔等)、空気搬送(空調機等)の3用途の差と一致していることがわかりました 。
このことは、この3用途において省エネルギーの取り組みを行うことが、大きな影響力を持って建物全体の省エネルギーにもつながることを意味します。

一方で、2021年度以降は建物全体の差が大きくなっており、新型コロナ禍の影響を2017年度の推定モデルでは説明しきれないこともわかりました。新型コロナ禍の影響を受けて運用が大きく変わった状況下の取り組みを評価するには、新たな推定モデルを作成する必要があるということになります。

図3 建物全体と用途別電力量のBL値と実績値の差

空気搬送の用途のエネルギーを推定してみる

先に特定した3用途のうち、空気搬送用途の電力量のBL推定結果を図4に示します。2020年4月頃からBL値と実績値の差が生じており、新型コロナ禍への対応として空気搬送の用途に含まれる空調機が24時間運転していた影響が大きいことがわかりました。あらためて新型コロナ禍の前と比べて大きな運用の変化であったことを確認できました。

図4 空気搬送用途の電力量のBL推定結果

熱源システムの効率を推定してみる

先に特定した熱源設備と補機の用途の組み合わせを評価するために、熱源システムの効率(COP)をBL推定しました。ここでCOPを説明する変数としては、月日や時間、外気温や湿度、熱源での製造熱量等を設定しました。

図5に熱源システムのCOPのBL推定結果を示します。2019年度以降の冬期にBL値と実績値の差が大きいことがわかりました。詳しく調べてみると、熱源補機のうち冷却水ポンプの制御に不具合があることがわかり、制御を調整・改善することで省エネルギーにつながりました。

図5 熱源システムの効率(COP)のBL推定結果

おわりに

本研究では、AI(機械学習)を活用したBL推定により、気象条件や建物利用状況が変化する中でも、エネルギーの使用状況を把握し、省エネルギーの取り組みを効果的に行うための用途を特定し、具体的に機器やシステムの改善につなげるという流れを示しました。今後は、この方法を用いて、より多くの建物での省エネルギー化を進めていきたいと考えています。

なお、本成果は、名古屋大学施設・環境計画推進室の田中英紀教授との共同研究によるものです。

図6 AIを活用した省エネルギーの取り組みフロー


高橋 直樹(執筆者)
日建設計総合研究所 環境部門
上席研究員

脱炭素社会の実現に向けた継続的なエネルギーマネジメントを行っています。AI(機械学習)の活用は、その実現のための強力な武器であると考えています。

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