見出し画像

上手く伝えるには〜小説のちょっとしたコツ

小説のちょっとしたコツや小技をご紹介するシリーズ。

今回は「上手く伝えるには」です。


伝わらなければ存在しないのと同じ

ようやく完成した小説を読んでもらったら、相手から、

「よくわからなかった」
「理解できない」
「難しすぎる」

といった反応が返ってきて、がっかりすることがありますよね。

中には「相手の頭が悪いからだ!」と憤慨する人もいるかもしれません。


もちろんですが、この場合、相手が悪いと考えるより、伝えることに失敗したと考えた方が健全でしょう。

小説は、作者の頭の中にある物語を、読者に伝えることで成立します。

伝えることに失敗すれば、その小説は存在しないのと同じです。


せっかく小説を書くのですから、ちゃんと伝わった方がいいですよね。

そのためには、少し遠回りになりますが、そもそも伝えるとはどういうことなのかわかっておくといいと思います。


伝える=翻訳

結論から言うと、

  • 伝える = 翻訳する

です。


翻訳とは何かというと、

  • 相手の言葉に言い換えること

ですね。


ちょっとピンと来ないと思いますので、例を出して説明していきましょう。


新しい知識は新しいまま伝えられない

たとえば、まったく新しい情報を誰かに伝えたいとします。

わかりやすい例として、テレビのない時代に「テレビとは何か」を伝えたいとしましょう。


おそらく、いろいろ言葉を尽くしても、上手く伝わらないと思います。

なぜかというと、「テレビ」は存在していないからですね。

「テレビ」はまったく新しい知識なので、そのまま伝えることはできないのです。


では、どうすれば伝わるでしょうか?

簡単です。

こう言えばいいです。

「テレビは絵の出るラジオだよ」


当時の皆が知っている知識で、新しい知識を言い換えました。

ラジオという既知の情報で、テレビという未知の情報を表現したのですね。

新しい言葉を、知っている言葉に言い換えた、と言ってもいいでしょう。

これはつまり、翻訳です。


新しいものを、新しいまま伝えることはできません。

常に、相手が持っている既存の知識で言い換えなければならないのです。


小説も同じです。

伝えるためには、読者が持っている情報、知識、言葉で言い換える必要があります。

自分の頭の中にあるものを、ただ文章にすればいいわけではありません。

読者の言葉に翻訳するという意識が必要なのです。


上手く翻訳するには

ここまでで、伝えることが翻訳することだいうことは、なんとなくわかったと思います。

では、上手く翻訳するにはどうすればいいでしょうか?

簡単ですね。

  • 読者が持っている情報、知識、言葉をわかっておく


伝えるとは、相手の言葉に言い換えることですから、相手の言葉をわかっておくことが、上手く伝えるための条件になります。


では、読者の言葉がわかる、というのはどういう状態でしょうか?

具体的には、たとえば語彙だけのことを言えば、自分が知っている語彙と、読者が知っている語彙の差を把握している、という状態です。

差を把握していれば、「この言葉は使える」とか「これは多分使わない方がいい」と判断できるからです。


ですが、ここではもうちょっとおおまかに捉えてみましょう。

読者の言葉がわかるというのは、簡単に言うと、「読者を理解している」ということです。

この状態は、抱合関係で言うと「作者が読者を含んでいる状態」と表現できます。

図にするとわかりやすくなるでしょう。↓

作者と読者のサイズ


上手く伝えるためには、作者は読者を含んでいなければなりません。

たとえば語彙量で言うと、作者の語彙量は、読者の語彙量を上回っている必要があるということです。


この抱合関係は、すべてのことに言えます。

作者は、理解力も、語彙力も、表現力も、構成力も、発想力も、すべての面において、読者を上回っていなければなりません。

読者を上回れば上回るほど、上手く伝えることができます。


図の左のように、作者が読者と同じくらいの能力や語彙力しか持っていないとしたら、どうでしょうか?

おそらく、上手く伝えるのは難しいでしょう。

翻訳でたとえると、訳語の語彙量や文章力がぎりぎりなら、上手く翻訳することができないのと同じです。


一方、右のように、作者が読者よりかなり大きいと、上手く伝えることができます。

作者のサイズが大きくなると、内部に余裕(空間)が出来ますよね。

余裕があると、読者を操作することができるようになります。

操作とは、比喩的にいうと、対象を近づけたり、離したり、回転させたりすることです。

読者を適切に扱えるようになる、と言ってもいいでしょう。


空間がなければ、操作することはできません。

ですから、作者は、読者より、すべての面において、可能な限り大きくなければなりません。

大きくなればなるほど、読者をより理解し、読者がわかるように言葉を言い換える(操作する)ことができるわけです。


今回のまとめ

小説のちょっとしたコツ「上手く伝えるには」でした。

  1. 伝わらなければ存在しないのと同じ

  2. 伝える = 翻訳する = 相手の言葉で言い換える

  3. 新しい知識を新しいまま伝えることはできない
    既存の知識で言い換える必要がある

  4. 上手く翻訳するには、相手の言葉をわかっておく

  5. 作者は読者を含んでいなければならない

  6. 作者が読者より大きければ大きいほど、読者を上手く扱える
    =上手く伝えられる

ちょっと抽象的な話になってしまいました。

とはいえ、たぶん抱合関係は、いろいろな場面で意識しておくといいことだと思います。

相手が理解できないのは、相手を含んでいないからです。

大きく含めば含むほど、相手を操作できます(良い意味でも悪い意味でも)。

それではまたくまー。



(2023.3.20追記)
話題にしていただいてありがとうございます!

いいなと思ったら応援しよう!