視点変更をスムーズにするには〜小説のちょっとしたコツ
小説のちょっとしたコツや小技をご紹介するシリーズ。
今回は「視点変更をスムーズにするには」です。
念頭に置くこと
最初に、小説のテクニックに関するおおまかな考え方を示しておきます。
視点変更に限らずですが、小説で何らかのテクニックを使う場合は、以下の式を覚えておくといいです。
読者の純利益 = 読者が予想する利益 ー 読みのコスト
もうちょっと簡単にすると
読者の得 = 面白さ ー 読みにくさ
です。
作者の仕事は読者の得を最大化することです。
そのためには面白さを上げ、読みにくさを下げる必要があります。
テクニックを使うと、必ず読みにくくなります。
つまり、読者に負担を掛ける(読むコストを増やす)のですね。
単純に言うと、読みにくさが面白さを上回った瞬間、読者はその小説を読むのを止めます。
それ以上読むと損するからです。
損する = 面白さ < 読みにくさ
最後まで読まれなければ、その小説は存在しないのと同じです。
これは最悪の結果ですから、絶対に避けなければなりません。
ですから、コストを上げるなら、読者の利益も上がっているのかよく考える必要があります。
どうしてもテクニックを使う必要がある、その方が絶対に面白くなる、という確信があるなら、どんどん使って構わないと思います。
とは言え、視点変更は多少なりとも読者の負担を増やします。
そこで、今回はできるだけ負担を増やさないコツを3つほどご紹介しましょう。
1.主語を明示する
1つ目の方法はとても簡単ですが、効果があります。
視点変更したらできるだけ早く主語を書いて、誰の視点なのかはっきりさせましょう。
主語が明示されていないと、読者は誰の視点なのかわからないまま読むことになります。
これは読者にとってかなりのストレスですし、とても不親切な書き方だと思います。
読者への配慮が足りていません。
全般的に言えることですが、読んでもらいたいなら、読者を丁寧に扱いましょう。
読者は、あなたの小説をわざわざ読んでくれている貴重で奇特な人です。
最大限歓待して、読み終わるまで絶対に逃がしてはいけません。
2.つなぎを作る
2つ目の方法は、可能なら「つなぎ」を作ることです。
つなぎというのは例えばこういうものです。
つまり、視点変更へのクッションですね。
この例はあからさますぎますが、作中で視点変更を予想させると、次のシーンへスムーズに繋げられます。
読者は「次はタナカの視点なんだな」とすぐに理解できるでしょう。
毎回できるわけではないですが、ここまで親切に書けば、読者が混乱することはないはずです。
結局、理解させるとは、たどり着いて欲しい結論に誘導することです。
よく出す図ですが、こういうことですね。
階段(つなぎ、クッション)も作らずに「上まで登ってこいや!」というのは、不親切どころか、もはや読者をバカにしているようなものです。
そのような傲慢な作者にならないように注意しましょう。
3.ルールを設ける
3つ目の方法は、視点変更のタイミングを同じにするなどして、読者に慣れてもらうことです。
たとえば、主要人物が3人いて、それぞれの行動を書きたいなら、章を三分割したタイミングで視点変更するといったルールを設けるのです。
何度か繰り返していれば、読者はすぐにルールに気づきます。
すると、「そろそろ視点が変わるな」と予想できるのですね。
心の準備ができているので、視点変更しても混乱することがないのです。
作者目線で言えば、「読者を教育していく」ということです。
「この作品はこういう構造です」「私の書き方はこんな感じです」と少しずつ伝えて、読者に教え込んでいくわけですね。
ですから、最初から厳しくしてはいけません。
最初はゆるゆると始めて、読者に学んでもらい、だいたい理解しただろうという辺りで、ギアを上げるなり、速度を上げていくといいでしょう。
そのころには、読者は作者のリズムや文章、物語の構成に慣れているので、多少荒っぽく書いてもついてきてくれます。
このように、読者を教育し、予想させることで、視点変更の衝撃を和らげることができます。
すると、読者の注意力や集中力といった資源(読みのコスト)を節約することができ、より物語に没頭してもらうことができるのです。
以上の3つに気をつければ、かなりスムーズに視点変更できると思います。
ぜひ試してみてください。
今回のまとめ
小説のちょっとしたコツ「視点変更をスムーズにするには」でした。
読者の得 = 面白さ ー 読みにくさ
作者の仕事は読者の得を最大化することテクニックを使うと必ず読みのコストが上がる
コストを上げるなら、必ず読者の利益を増やす視点変更をスムーズにするコツ
主語を早めに明示する
つなぎ、クッションを作る
ルールを設ける
読者に親切にして、読み終わるまで逃さない
なんとなくですが、作家志望者さんを見ていると「読まれるのが当たり前」と思っているのかなと感じることがあります。
おそらくプロ作家の意識は「読まれないのが当たり前」です。
読まれないのが当たり前なので、読んでもらえるなら、絶対に最後まで読んで欲しいのですね。
ですから、できるだけ読者に親切にするし、丁寧に扱うのだと思います。
それではまたくまー。