【取材】 ALS 50代男性「機器を使い始めることで、自分自身の快適さや、やりたいことに対する意欲が出てくると思います」
難病患者へのICT機器導入支援に取り組んでいる、新潟県地域おこし協力隊の丸山です。
今回は、難病支援に取り組むNPO法人ICT救助隊さんからの紹介で、栃木県宇都宮市に在住のALS患者、柴田薫さんに取材させていただきました。
柴田さんはALSの発症から約5年が経過し、手足はほとんど動かすことが出来ないため、日常生活のほとんどをベッド上で過ごしています。
一方で、進歩が著しいスマートフォンを中心としたIoTツールを用いることで、パソコン操作はもちろんのこと、パソコンの起動/シャットダウン、介護ベッドの姿勢変更やエアコンの操作、インターホン対応や玄関錠の開閉操作も、音声もしくは視線操作で行っています。
こうした様々なICT機器を活用した現状の生活環境について、お話しいただきました。
自己紹介
ー 本日はよろしくお願いいたします。
柴田:
よろしくお願いします。では、最初に簡単に自己紹介をさせていただいてもよろしいですか?
ー お願いします。
柴田:
私は、栃木県宇都宮市に在住していまして、今、ALSで発症してから6年目になります。それまでは、某自動車会社の生産技術の研究職をやってまして、2023年の3月に病気の関係もあって退職し、今は自宅で療養をしています。
同じ病気を持った友人たちと月に1度、Web上で情報交換会をやってまして、その中で、私のベッド周りとか、様々な機器を使っている様子を紹介してくださいと言われて、去年の終わりぐらいに話があり、資料を作成しました。今日はそちらを紹介させていただきます。
ー ありがとうございます。
柴田:
丸山さんの活動の動画も見させていただいて、紹介されている方がスマートスピーカーを使って色々やっていらっしゃると思いますが、私もそんなに大きな違いはありません。ただ、少しパソコンやスマホを使って工夫しているところがあるので、そういったところも含めてご紹介させていただければと思っています。
ー よろしくお願いします。
柴田:
流れとしては、この後、私がプレゼンをして、その後、ご質問あればお答えする形でよろしいですか?
ー はい。そのような流れでお願いします。
柴田:
では、プレゼンを始めさせていただきます。
プレゼン内容
※フルテロップあり
質疑応答
パソコンの知識について
ー ありがとうございました。パソコンに関する知識が非常に豊富であると感じましたが、元々お仕事でパソコンをお使いだったのでしょうか?
柴田:
はい、そうです。私は生産技術の研究で、ロボットの操作やシミュレーション、物流のシミュレーションなどをメインにしていました。ほとんどパソコンで仕事をしていました。ただ、会社から与えられたパソコンなので、基本的なOSのインストールなどはIT部門が担当していました。パソコンのヘビーユーザーというわけではなく、普通にパソコンを使っていた程度です。
意思伝達装置ではなく「HeartyAi」を選んだ理由
ー 視線操作でコミュニケーションを行う場合、多くの方は専門機器である「意思伝達装置」を選択しますが、その中でなぜ、フリーの視線入力ソフトである「HeartyAi」と視線センサー「Tobiiアイトラッカー」の組み合わせを選ばれたのですか?
柴田:
これは私が病気の確定診断を受けた時の話です。確定診断を受け、セカンドオピニオンとして1ヶ月ほど入院して最終的な検査をしました。そこで、担当のOTの先生に「HeartyAi」と「Tobiiアイトラッカー」を紹介していただき、自分のノートパソコンにそれをインストールして1ヶ月間練習しました。無料でできるので、良いのではないかと言われて始めました。
ー 元々持っていたPCにインストールすることで、意思伝達装置を買わなくてもできるなら、そちらでやろうと思ったのですね。
柴田:
はい。無料で試せるというのもありましたし、実際にセンサーだけなら3万円、ソフトはフリーでできるので、これを使ってみてどうかと思い、試しました。
その後、東京で難病支援をしている、NPO法人ICT救助隊の方からご連絡いただき、いくつかの意思伝達装置を試させてもらいました。
私はパソコンの知識があり、オフィスソフトも使えるので、「miyasuku」が良いかと思いましたが、最終的には慣れている「HeartyAi」を使おうと思いました。
ー なるほど。
柴田:
最初に視線入力パソコンを入れようと考えた時、デモをしてもらえる場所がなく、情報が少なかったため、選択肢が限られていたんです。ICT救助隊の方とも話しましたが、機器を借りて実際に試せる環境があれば、選択肢が広がったと思います。最初は選択肢がなく、「HeartyAi」を選んだという状況でした。
視線操作の習熟過程
ー 視線操作は最初からうまくいきましたか?
柴田:
直感的な操作ができるので、設定さえしてしまえば大丈夫でしたが、慣れるまで少し時間がかかりました。設定が詳細にできる分、自分に合わないとセンサーが震えたりしていました。自分に合った操作パラメーターを設定するのに時間がかかりました。
2018年に病院でソフトをインストールしてもらって自宅に持ってきていましたが、手が動いている間は使っていませんでした。2年ほどそのまま置いてあって、手が少し怪しくなってきた時に、本格的に練習しないとと思って、1ヶ月くらい担当のOTや「HeartyAi」の相談ルームでパラメーターの設定などを聞きながらやりました。
※デモ部分から再生されます
スマートスピーカーの導入経緯
ー スマートスピーカーはどういった流れで導入しようと思ったのですか?
柴田:
スマートスピーカーは、元々パソコンで全部やるのが面倒だったので、インターネットで情報を見つけながら個人で導入しました。
ー 音声で何かできることがないか探した時に、スマートスピーカーが1つの選択肢として見つかり、ご自身で色々と探されたんですね。
柴田:
はい、そうです。スマートフォンやスマートホームの情報がたくさんあったので、スマート家電を見て、これで動かせるなと思いました。それで少し改造してパソコンに接続したりしました。結局、介護ベッドを動かすのには苦労しました。
自分で物理的にボタンを動かせなくなり、赤外線も使えない中で、ベッドを動かす方法を探していました。結果的にはスマートスピーカーではできませんでしたが、スマートフォンの音声操作で動かすことはできますし、パソコンの画面にスマホの画面を映して操作するミラーリングを使うことでも動かすことができるようになったので一応解決しました。
ー 介護ベッドに関しては、音声もしくはミラーリングソフトを使って、スマホのアプリ経由で操作しているんですね。
柴田:
そうですね。その他の家電操作、エアコンやダイソンなど、スマートスピーカーの音声で動かせるものは全てスマートスピーカーで操作しています。その方が便利なので。家の施錠や解錠も玄関にスマートキーをつけているので、スマートスピーカーでやっています。スマートスピーカーでどうしてもできないベッドとインターホンだけはスマホのアプリを使っています。
ー 今は一部の介護ベッドやインターホンに専用のスマホアプリが用意されているものがあるんですね…。これは知りませんでした。インターホンの場合、ピンポンと来た際にはそのスマホアプリを通じて画面が表示され、対応するんですね。
柴田:
そうです。画面が表示されて、そこで対応しています。
ー スマートスピーカーを通じて施錠を解除するんですね。
柴田:
そうですね、そういった形になります。スマートスピーカーに「玄関を開けて」と言うと、スマートキーがそれに反応して玄関を解錠してくれます。
ー なるほど。
柴田:
Panasonicやアイホンというメーカーから出ているインターネット対応のスマートインターホンがあります。例えば、旅行に行っている時にピンポンが鳴っても、旅行先で対応できます。
ー すごい。
柴田:
また、パソコンの起動は、SwitchBotの指ロボットで電源を押すようにしています。
スマートスピーカーに「パソコンつけて」と言うと動き、パソコンが立ち上がると顔認識でそのまま起動するところまでは自動でやれるようにしています。
最初にLINEが起動して、「HeartyAi」が起動して、全部動くところまでは何もせずにできるようになりました。
ー その設定はご自身でやられたんですか?それともどなたかに手伝ってもらったりしましたか?
柴田:
私と大学生の次男が自宅にいたので、息子と二人でやりながら設定しました。
水冷マットとダイソンファンヒーター導入の経緯
ー 暑さ対策の水冷マットはいつ頃導入されましたか?
柴田:
病気になってから妻がテレビで見て、動けなくなってから背中がすごく熱くなるのでひんやりシートやジェルマットを使っていましたが、ダメでした。水冷マットを探してみたら中国製品がいくつかあり、大体2万円ぐらいからありました。冷やす意味では非常に有用です。ただ、冷えすぎるのでタオルを2枚も3枚も敷いて使っています。
ー 水冷マットも音声で操作しているんですか?
柴田:
そうです。水冷マットには赤外線のリモコンが付いているので、スマートリモコンに登録すれば、スマートスピーカーを通じて音声で操作することができます。オンオフや強さの切り替えもできますが、私はオンオフだけで使っています。「オンして」「オフして」という使い方です。
ー タイマーの設定はどのようにしていますか?
柴田:
リモコンのタイマーもありますが、スマートスピーカーがスマートリモコンと連携しているので、「何時間後に消して」と言って対応しています。
ー 寒さ対策では何を使っていますか?
柴田:
基本的にはビーズクッションとブランケットを使っています。夜寝てから寒くなったらダイソンのファンヒーターで温めています。
エアコンもありますが、時間がかかるので近くにファンヒーターを置いて温めています。
ー ダイソンのファンヒーターも音声で操作していますか?
柴田:
はい。専用のスマホアプリを通じて、オンオフの切り替えや首振り、強さの調整もできますし、すべて設定しています。
ー 積雪地ではストーブを使用するご家庭が多いですが、ストーブだと現状、音声操作が難しいですからね…。ダイソンのファンヒーターのように、アプリを通じて操作できるものは使い勝手が良さそうですね。
柴田:
セラミックファンヒーターも考えましたが、扇風機と兼ねるなら温風と冷風が両方出せる方がいいと思ってダイソンを購入しました。
機器使用の際の困難と課題
ー こうした機器を実際に使い始めてから、困難に直面したり、課題があったことはありますか?
柴田:
使い始めてから、どうしても機器が反応しない時や、トラブルが出た時に原因を探るのが大変でした。ミラーリングソフトも、最新バージョンだとボタンがうまく押せないトラブルがあって、開発元と連絡を取って安定化バージョンを送ってもらい、ようやく動くようになりました。
想定していないトラブルに直面した時は、開発元に連絡して対応してもらう必要がありました。ICT機器にあまり馴染みのないユーザーには少しハードルが高いかもしれません。
音声操作導入前後の生活の変化
ー スマートスピーカーとスマートリモコンと連携することでできる音声操作を導入する前後で、生活がどんな風に変化しましたか?
柴田:
1人でいる時にエアコンを操作したいので、リモコンを近くに置いてもらっていました。手が動いたのでリモコンでベッドを操作していたんですけど、リモコンが使えなくなった時のことを想定して切り替えました。パソコンも手でボタンを押して起動していたのができなくなったので、どうしようかと考えてスマートスピーカーとスマートリモコンに行き着きました。
ー 手が動かなくなる前から、スマートスピーカーとスマートリモコンを導入をしていたんですね。
柴田:
そうですね。リモコンで動かせるものを、スマートスピーカーとスマートリモコンで音声操作できるように切り替えたという感じです。
スマートスピーカーでどうしてもできないことはミラーリングで対応しています。声が出なくなる可能性も考えてミラーリングソフトを備えておけば、スマートスピーカーでの音声操作が使えなくなっても、パソコンにミラーリングして映したスマホアプリから視線で操作できるようになっています。
※デモ部分から再生されます
ー 先を見越して、色々と試しているんですね。
柴田:
そうですね。ちなみに自分の音声もいくつか残してあります。「HeartyLadder」で自分の音声を録音できるソフトがあり、2018年に病院に行った時にOTの先生に指導してもらって全部録音しました。
最近ではコエステーションやコエフォントというサービスを使って、1ヶ月ぐらいかけて自分の声を入力しました。
ー 今後に備えて、自分の声を残しているんですね。
柴田:
そうですね。データさえあれば、パソコンから自分の音声に近いものを出せるので、準備しています。
スマートスピーカーへの期待と要望
ー これからスマートスピーカーに期待したいことはありますか?
柴田:
そうですね、本当はベッドの操作をスマートスピーカーで簡単に動かしたいですね。現在は必ずスマートフォンを経由しなくてはいけなくて、不具合が起こるとダメになります。Windowsのバージョンアップなどがあると、自分が対応できるのか不安もあります。次のOSが何になるかもわかりませんし、バージョンアップしたらアプリの設定がどうなるかわからないので、不安ですね。
ー バージョンアップでアプリの設定が変わると、その対応が大変ですもんね。
柴田:
比較的スマホに入っているアプリを使えるというところが確立されていれば大丈夫だと思いますが、一番はミラーリングのところですね。スマホの画面をパソコンに映しながら、パソコンで操作したものがスマホに反映されるという両方向でできるものを探しましたが、あまり見つかりません。スマホの画面をパソコンに出すものはありますが、リアルタイムで両方向に操作できるものはまだ少ない印象です。
難病患者へのメッセージとアドバイス
ー 最後に、同じ病気を抱える方やご家族、支援者に向けて、こうしたICT機器を利用することで感じる思い、メッセージやアドバイスがあれば教えてください。
柴田:
機器を使い始めることで、自分自身の快適さや、やりたいことに対する意欲が出てくると思います。辛いと思うことを少しでも軽減できるのであれば、積極的に情報を求めてみると良いと思います。無理な我慢はせず、やりたいことを周りに発信して支援を受けると、自分自身も楽になると思います。
ー ありがとうございます。本当にいろんな人にとってヒントになる事例だと思います。取材はこれで終了させていただきます。
まとめ
今回は、NPO法人ICT救助隊さんの紹介で、栃木県宇都宮市に在住のALS患者、柴田薫さんに取材させていただきました。柴田さんはALSを発症してから約5年が経過しており、手足がほとんど動かせないため、日常生活のほとんどをベッド上で過ごしています。
しかし、スマートフォンやIoTツールを活用することで、日常生活の多くの操作を音声や視線で行えるようにしています。これにはパソコン操作、ベッドの姿勢変更、エアコン操作、インターホン対応、玄関錠の開閉操作が含まれます。
オンラインでの取材が始まり、柴田さんは自己紹介をし、続けて現在の生活でどのようにICT機器を活用しているかをプレゼンしてくれました。お話を通じて、視線操作を習得する過程やスマートスピーカーを導入した経緯、使用している具体的な機器、使用中に直面した困難や課題、そして音声操作を導入する前後の生活の変化について詳しく知ることができました。
質疑応答では、柴田さんがどのようにパソコンの知識を活かしているか、なぜ視線操作を選んだのかについて詳しく説明してくれました。特に、視線操作を習得するための努力や、スマートスピーカーとスマートリモコンを連携させて生活の様々な操作を音声で行う工夫には驚かされました。また、柴田さんは将来に備えて自分の声を録音していることや、スマートスピーカーに期待することについても話してくれました。
最後に、柴田さんは同じ病気を抱える方やその家族、支援者に向けて、「いろいろな機器を使うことで生活の質が向上し、やりたいことに対する意欲が出てくる。無理な我慢はせず、やりたいことを周りに発信して支援を受けることが大切」とメッセージを送りました。
今回の取材を通じて、身近なICT機器がALS患者の生活をどれだけサポートしているかを深く理解することができました。柴田さんの前向きな姿勢と創意工夫は、多くの方々にとって貴重なヒントになると感じました。
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