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【短編】『レオナルドの卒業(単位)旅行』(前編)

 レオナルドの卒業(単位)旅行
前編


 テクノロジーが急速に進歩して世の中では、あらゆる仕事が機械によって行われるようになっていた。宇宙開発も一段落して皆が自由に惑星を行き来できるほどまでインフラが整備されていた。人々の貧富の差はより一層広がり、お金のある者は地球に残り、お金のない人々は開発中の別の惑星に出稼ぎに出ていた。

 とある地球の家庭では、父と母は年中バカンス三昧で家を外しており、たった一人息子のレオナルドは家に残り大学生活を送っていた。親からは、大学を卒業することを条件に二人の長期宇宙クルーズ旅行の同行を許されていた。

 現在レオナルドは、二十八歳ですでに六留しており、卒業まであと一歩のところで、堕落生活にどっぷり浸かり退屈を極めていた。なんせ父も母も息子を叱ることはなく、お金が尽きない分、放置してしまっていた。
ある、日大学より一通の電子メールが届き、レオナルドはいつものように中身を読まずに電子投影機器を右にスライドして削除しようとしたところ、件名のはじめに書いてある【緊急連絡】という文言が目につき、メールの本文を開いた。内容は以下のように記述されていた。

【緊急連絡】退学処分の注意勧告のお知らせ
レオナルド・ブラナー様
文学部事務室です。
現在、貴方は留年可能年数を大幅に超過しており、新学部長の命により今年度を期限とさせていただきます。
以下、不足している単位の種別・単位数となりますのでご確認ください。

・演習Ⅲ(後期)・・・4単位

尚、卒業にあたっての必定要条件として、所属しているゼミナールにて、論文・レポートをご提出いただくことになりますので、至急ご所属のゼミナールの担当教授、ミスターロバートへご相談することをお勧めします。
こちら、ロバート教授のご連絡先になります。
robert.s-uni@picmail.com
以上、よろしくお願いします。

 レオナルドは、すぐに電子投影機器をスライドさせ、番号を入力し、ロバート教授に架電した。するとすぐに電話がつながった。

「はい、もしもし。こちらロバートですが、どちら様でしょうか。」
と、ロバート教授のご婦人の声が聞こえた。

「大学のゼミ生のレオナルド・ブラナーと申します。ロバート教授はいらっしゃいますでしょうか。」

すぐに変わりますという一言の後、数秒経ってから教授の声が聞こえた。

「ブラナー君、随分久しぶりだね。元気にしてたかい。」

レオナルドはロバート教授のザラザラとした口調から、長い年月の経過を感じた。

「元気です。ロバート教授もお元気そうで何よりです。今回お電話しました理由ですが・・・」
と、ことの経緯を話すとロバート教授が相変わらずザラつきのある声で答えた。

「そうだったか。君ももう二十八か。それはそろそろ卒業せねばならんな。私としてはすぐにでも単位を与えたいとところなんだが、何にせよ学部の方が易々と単位を出しては困るということだからね。・・・どうだろう、もし論文のテーマが決まっていないのだとしたら、私から提案させてもらっても良いだろうか。ちょうど今研究材料を探しているところで、とあるフィールドワークに行ってもらいたいのだが。」

レオナルドは、特にやりたいテーマもなく、(自分で選択する知能レベルの欠如により)了承することにした。

 申し遅れたが、レオナルドはゼミを選ぶ際、出席する必要がなく、課題もない俗に言う「ラク単」と言われるゼミに入ろうと決めており、「宇宙倫理学」を研究対象としているロバートゼミナールに入ったのだ。

「レオナルド君、少々労力のかかるフィールドスタディとなるが、論文の内容は簡単に数ページほどにまとめてくれれば良い。」

レオナルドはそれを聞いて安心した。なにより数ページで書き終える論文ほどラクな課題はないのだから。

「それで、テーマについてだが・・・、宇宙における「死(Death)」の概念について複数の惑星でフィールドスタディをしてほしい。できそうかな。」

レオナルドは、テーマについての疑問は抱いたものの二つ返事で引き受けた。こうして、レオナルドの卒業単位旅行は始まった。


最後まで読んでいただきありがとうございます!!

▶︎続きの【中編】はこちらのリンクから

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