短編朗読「最近覚えた?」
とある食堂 ランチタイムのOL 二人
女A 「これは?」
女B 「えー初めて見た。んーーなんだろう…。」
女A 「難しいっしょ。」
女B 「うーん。いや分っかんないわ。」
女A 「ふふーん。じゃあ、これは?」
女B 「いや、これはわかるよ。秋に刀の魚ね。これはさんまよ。」
女A 「おー流石にこれは分かるか。」
女B 「え、さっきのなんて読むの?」
女A 「これはねー。にしん!」
女B 「へー、これで。オシャレだね。春を告げる魚でにしんか。」
女A 「オシャレだよね。」
女B 「うん。」
女A 「え、じゃあさ。これわかる?」
女B 「いやぁーー。なんだろう。分かんない。」
女A 「これねぇ。これもにしん。」
女B 「え、これもにしん。」
女A 「そう。じゃあこれは?」
女B 「いやぁ…。」
女A 「これもにしん!」
女B 「これもにしん!!なにこのにしんクイズ!!読みじゃなくてにしんを表す漢字3つ書けってクイズの方が良いよこれ!」
女A 「まさかあんなシンプルな魚に表記が3つあるだなんて…。なんか悔しい
な。」
女B 「なんだ、悔しいって。」
女A 「私ですら表記は1個しか無いのに…。」
女B 「自分の名前のこと表記って言ってる。」
女A 「いや、でも待てよ。」
女B 「ん?」
女A 「私たちには、まだひらがなとカタカナがあるじゃない。ふふ」
女B 「そんなドヤ顔で言うことか。」
女A 「にしんには負けてらんないね。」
女B 「にしんには負けてないよ。自信持てよ。」
女A 「にしんのこと悪く言わないで。」
女B 「どの立ち位置で言ってんの。ちょっともういいって、ふざけてないで。早く本題入りなよ。」
女A 「うん、ごめん。ちょっと緊張しちゃって。」
女B 「良いけど。」
女A 「最近ね…。あ、あれ。どこまで話してたっけ。」
女B 「え、彼と同棲始めたってのは聞いたけど。前に話聞いた時は、仲良くやってそうな雰囲気だったけどね。一緒に旅行行ってたでしょ?その直後にご飯行った時は、なんか惚気まくってたし上手くいってるのかと思った。」
女A 「うーーん。私も上手くいってるのかと思ったんだけど…。……。」
女B 「なに、なんかあった…?」
女A 「んーー何かあったというか…。何も無いというか。」
女B 「どゆこと?」
女A 「同棲始めたの三か月前なんだけど。なんかこう…。もうちょっとこうさ…。関係性が変わっていったりするのかなぁとか思ってたんだけど。なんだろう。ねぇ、なんだと思う?」
女B 「ちょっと状況はあんまり分かんないけど…。とにかく思ってたのと違ったてのは分かった。」
女A 「助けて~のび太く〜〜ん。」
女B 「助けてドラえも〜〜んね。あんまりドラえもん側が助け請わないから。あと私、裸眼だから。」
女A 「本体忘れてきちゃったんだね。」
女B 「うん、のび太じゃないんだー私。」
女A 「同棲初めてからさ。家事とかは全然やってくれるんだけど、仕事で疲れてるからって夜もさっさと寝ちゃうし週末もずっと寝てたりゲームしたりで。なかなか二人の時間が取れなくて…。」
女B 「あー…。」
女A 「下手したら同棲前の方が一緒に居たような気がして…。」
女B 「なるほど。」
女A 「別にまだ同棲始めたばっかだしあれだけど…。」
女B 「そうねぇ…。まぁきついとは思うけど、もうちょっと様子見ても良いかもね。あんたちょっとロマンチストな所あるから、理想の同棲生活とか色々考えてたんでしょう。(笑)」
女A 「えー、ロマンチストってぇ〜。」
女B 「別に褒めては無いぞ。」
女A 「ぶー。」
女B 「なんていうかさぁ。皆が皆ってわけじゃないけど、男子って彼女に安心感を求めてるって人多いでしょ。同棲始める前は多分気合入れて頑張ってくれてたんだと思うけど、今は家族みたいな感じになったというかさ。」
女A 「ふーーん。」
女B 「だから別に冷めてるってことじゃないと思うのよ。」
女A 「えーでもさー。まだ同棲して三か月だよ?もうそんな感じになっちゃうのかなぁ。」
女B 「いや、彼氏会った事ないし。わかんないけど。でもそもそも嫌いだったら同棲なんてしないでしょ。」
女A 「うーん、まぁそっか。〝まさに恋は盲目だね〟。」
女B 「うん。うん??そうかな。」
女A 「でもやっぱこのままは嫌だし。ねーどうしたらいいーー?まさに四面楚歌だよ…。」
女B 「うーん?・・・、まあそうねぇ、寂しい想いをしてるってのは伝えないとね。」
女A 「なんて言うの。」
女B 「それは自分で考えなさいよ。直接的に言ってもいいだろうし、恥ずかしかったら行動で示すとかさ。」
女A 「えー行動って?他に好きな人出来たみたいな…?」
女B 「それは絶対ダメ!そんなことしたら絶対逆効果だって。安心感が欲しくてあんたと付き合ってんだよ??」
女A 「えー難しいよ…。まさに〝コロンブスの卵だ〟。」
女B 「ちょ、ごめん。え、なに?さっきから。」
女A 「へ?」
女B 「なんか、まさに何とかだとか言ってるけど、全然ピンとこないのよ。」
女A 「何なの急にー。まさに〝二の足を踏む〟なんだけど。」
女B 「それそれ!まさにまさに!」
女A 「全然意味わかんない。」
女B 「こっちがな。いやぁ出た出た。あれでしょ。最近覚えたばっかの言葉使ってるんでしょ。」
女A 「別にそんなことないし。」
女B 「じゃあ意味分かる?二の足を踏むってどういう意味?」
女A 「なんかあれでしょ。戸惑うみたいな。」
女B 「違う。もう、みたいなって言っちゃってるし。決断できなくてためらうって事でしょ?」
女A 「大体一緒じゃん。」
女B 「全然違うじゃん。」
女A 「細かいなぁ…。」
女B 「あとなんだっけ。恋は盲目?コロンブスの卵??はぁ??」
女A 「怖いよもう!泣」
女B 「こっちが怖いわ!なんなのコロンブスの卵って!」
女A 「なんかほら、難しいみたいな。」
女B 「ザックリしてんなぁ。」
女A 「じゃあどういう意味よ。」
女B 「えー?ほら、一見簡単そうに見えることも、それを最初にするのは難しいっていうさ。」
女A 「オセアニアみたいな?」
女B 「パイオニアね?オセアニアはオーストラリアだから。」
女A 「大陸だ。やっぱコロンブスだ。」
女B 「中途半端な知識あちこち繋げるな。」
女A 「え、ちょっと待って!」
女B 「びっくりしたぁ。なに??」
女A 「じゃあ。恋は盲目ってどういう意味!?」
女B 「なに急なその…。」
女A 「あちゃー、こないだも私使っちゃったんだけど、間違えてたのかな。めっちゃ恥ずかしいんだけど!」
女B 「そういう羞恥心はまだあるのね。」
女A 「あるよそりゃ。」
女B 「恋をすると、周りが見えなくなっちゃうとかって、そういう意味でしょ。」
女A 「おー、そっか。じゃあ間違ってなかったね!」
女B 「んー?そうかなぁ…。」
女A 「だってほら、彼との今の状況をさ、全然見えて無かったというかさ。」
女B 「んーー、いやまぁそうなんだけど。ほら、もっとこう、周りが見えないって、彼以外見えなくなるとか。それ以外のことが手につかなくなるとか、そういう意味でしょ。」
女A 「ふーん、なんか難しいね。まるでコロンブスの卵…」
女B 「じゃないよね。学ばないとね、うん。」
女A 「ぶー。」
女B 「そうやって、覚えたばっかのこと言おうとするからそうなっちゃうのよ。」
女A 「別にそんなつもりないし。」
女B 「ほんとにー?どうせあれでしょ。魚の漢字、あれも最近覚えたんでしょ。」
女A 「べ、べちゅにそんなことないしー!」
女B 「動揺がすごいな。」
女A 「動揺してないし!」
女B 「だってにしんなんて、いつ覚えたのよ。あんたそんな知識あるタイプじゃないでしょ。」
女A 「そんなの、普通に生きてたら入ってくるもーん。」
女B 「そんな訳ないでしょ。言っておくけど、魚の漢字なんて知識でマウント
取りたい人が一番最初に手を出すジャンルなんだから(笑)。」
女A 「そんなこと…。」
女B 「そんなことばっかしてたら、どんどん彼氏にめんどくさいって思われちゃうよ~?(笑)」
女A 「へっ、私めんどくさい!?」
女B 「いや、全然そんなことないけど。知ったかぶりしてるなコイツとか思われたくないでしょ?」
女A 「コイツとか言われたくない!」
女B 「今そこどうでもいいの。…やっぱあんたはまっすぐな感じが可愛いから、直接寂しい~かまって~って言った方が良いかもね。」
女A 「え、私可愛い??」
女B 「うん、可愛い。彼氏に電話して伝えちゃいなよ。」
女A 「え。今ぁ?」
女B 「いまいま。ほら。」
女A 「うーん。…(スマホを耳に当てながら)出るかなぁ。」
店員 「すみません大変お待たせいたしましたー。えーっと、にしんそばのお客様。」
女A 「あ、はーい私です!」
女B 「うん。最近覚えたんだな。」
女A 「あ、出た。もしもしー?いまだいじょーぶ?あ、ねえねえ。コロンブスの卵って知ってる!?」
女B 「だめだこりゃ。」
[ 完 ]