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床をフローリングにしたら裁判沙汰になった。 あなたはこの判決をどう見る? (#23)


部屋の状態は「心の状態」と言われる。だから、部屋を整理したり、模様替えを行うことは心理学的にも推奨されるのだ。

しかし、思い切って「床」を変えよう、と決意した時には少々注意が必要かもしれない。


平成8年、とある裁判が執り行われた。その内容はこうだ。高級マンションの2階の住人が自室の床をじゅうたん張りからフローリングに変えたところ、1階への騒音等が酷くなった。そして、階下の住人がそれを精神的苦痛として訴えた、というわけだ。

マンションでは騒音などに対する苦情はよく見られるが、1階の住人の話を聞いてみると、どうやら我々が一般に捉えている騒音よりも程度が酷いらしい。被害住人曰く、じゅうたん張りの頃は何の物音を感じることはなかったが、フローリングに変えられた途端、夜には2階の住人が就寝するまでは騒音で眠ることすら叶わず、朝は2階の住人が起きた音で自らも目覚める生活が始まったという。

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さて、正規の結果を見る前に我々もどのような判決が下されたか、考えてみよう。考慮すべき点は以下の二つだ。

A. 2階の住人は防音措置の施されていない1階用床板材を素材に採用した。
B. 本来、床を張り替える際に必要とされる届け出を2階の住人は怠った


あなたが裁判官であったなら、どのような判決をするだろうか。

この裁判を担当した者は次の点を念頭に置いて判決を下した。

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① 2階の住人は今すぐに床をフローリングに変更しなければならない緊急性が無かったこと。
② 2階の住人は管理組合の規則に反して、床材変更の届け出をしていなかったこと。
③ 遮音効果が4倍以上悪化する1階用床板材が使用されていたこと。
④ 階下の住人の睡眠阻害が2年半に渡って継続していること。

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これらの点を考慮し、下された判決は「2階の住人に75万円の慰謝料支払いを課す」というものであった。また、1階の住人は床をじゅうたん素材に戻す旨の嘆願を行なったが、「差し止め請求をするほどの違法性は無い」として棄却された。


あなたはこの判決を見て、どう感じたであろうか。私からすれば、2年半もの期間、満足に睡眠がとれぬ生活を送っていたのにも関わらず、75万円程度の慰謝料で終幕、というのはいくらなんでも原告側が惨めで仕方がなく思ってしまう。

床材の選択を誤ったこと、また届け出を怠ったことを考えれば、2階の住人にはかなりの悪質性が見えるといって差し支えないだろう。ただ、素人が感情的に描いた判決どおりにはならないのが、裁判というものだ。


近年はマンションにおけるリフォームも以前と比べ、容易になった。そして、それに比例してレフォームした結果への苦情・近所トラブルも増加した。

都会では、面倒な近所付き合いなどの人間関係を構築しなくていい、というメリットがあるが、今回取り上げたケースのようにならぬためにも、最低限の周知・コミュニケーションを怠ることがないようにしたい。


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【余禄】

今回のテーマは「床」と「民事訴訟」でございました。私もマンション住まいなので、こういう事件沙汰にならないよう気をつけないと・・・

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参考文献

- 大阪市マンション管理機構: 『フローリング床変更による騒音被害等が不法行為にあたるとされた事例/東京地方裁判所八王子支部 平成8年7月30日判決』, http://www.osakacity-mansion.jp/hanrei/hanrei-2




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