まわれ かざぐるま

風車が、飛んできた。それは悪代官にでなくわたしにだ。音が大きい、うるさいと言ってしまったから。

昭和の時代劇は、ここぞというときに大音量になる。テレビの問題じゃない、弥七が悪いわけでもない。76歳の夫の耳が悪い。わたしの心根が悪い。

18時30分からのBS『水戸黄門』を観ながら、お酒を飲むのが楽しみな夫。耳が遠くなり、テレビの音が近くで聞こえるお手元スピーカーを購入したけど音が割れる、という理由で使わず音を大きくしている。

夫がいらだちの風車をとばす。怒りっぽくなるのは年をとった、ということだという。

『水戸黄門』の勧善懲悪の悪はわかりやすい。

自分が理解できないものは全部悪だって決めつけるほうが楽だもんね。何かをこきおろさないと自分に自信がもてない人、悪口をいう事でしか他人とコミュニケーションをとれない人」がいる。

4月12日 朝日新聞 折々のことば 原田ちあき 

現代の悪って、わかりにくい。誰が決めるのだろう。弥七のように風車を投げつける相手は誰なんだろう。風車って正義?苛立ち?寂しさ?不安?

「会社では大丈夫、聴こえる。かなこの声だけ聴こえない。」
「僕、どうしたらいいんだろ」

意欲、気持ちが萎えている。
体力も衰えている。
トライアスロンレースも積極的でない。

これが年をとるということだろうか。

結婚して30年近く、自分の部屋を持ったことがなかった。血圧の高い夫が倒れたときすぐに気がつくように、一緒の部屋で過ごした。

引っ越しをして、新しい家では自分の部屋をつくってしまった。テレビの音が聞こえない部屋。本を読む部屋。

わたしの風車は、ジコチューだ。

御隠居さまの風車は、憎らしいほどの高笑いだ。

笑っていたい。
一緒に笑っていたい。
笑う風車でいたい。

わたしの風車は弥七でなく、千春だ。
恋心がとまらない。まわっている。
まわれ かざぐるま

こちらの企画に参加します。

人とのつながりを大切になさっているコジさんは、毎週出されるいくつかのお題にチャレンジし楽しまれています。

いつかやってみたいな、と思ってて。
自分のネガティブな感情を描くのは苦手なのだけど、お題にかこつけて直面している老いということを書きました。

よろしくお願いいたします。