新聞|湊かなえ「C線上のアリア」第22回掲載分より
片付いた部屋を見た時のゴミ屋敷の住民の言葉。美佐がユーチューブで見かけた清掃会社の動画の一コマである。
「頭の中のゴミが片付く」。ゴミ屋敷に至るまでに、きっとたくさんの何かがあったのだろう。どうにもならなくなってしまい、心の中どこかで気持ちを切り替えるきっかけをずっと待っていた。そこへようやく訪れた転期。人生を変えられるかもしれないと思うのも理解できるような気がする。ゴミ屋敷に暮らす弥生さんにも何か事情があったはず。認知症となった今、その転機を自ら待つこともなくなってしまっているのかもしれないけれど。
ふと、古くなった家を劇的にリフォームするあの人気番組を思い出した。当時保育園児だった我が子が大好きで、毎週食い入るように観ていた。番組へ依頼してくる背景には、家族を思いやる気持ちだったり、辛い出来事を乗り越えたいという思いがあったりで、とてもドラマチックな作りだったという記憶がある。「なんということでしょう」のナレーションと共に完成品が披露され番組がクライマックスを迎えるたび、我が子は涙を流していた。依頼人たちの切実な思いと、それを汲み取って形にした「匠」の優しさに感動していたのだろう。少しドライな性格の私は、バラエティで号泣する姿に若干驚いたのを覚えている。
そんな軽薄な私も歳を重ね、あの番組で泣けることの感情の豊かさと家が整っていることが心に与える影響の大きさが少し分かるようになった。余裕のない時、後ろ向きな時は家の散らかりは増す一方だし、そんな時一箇所でも場所を決めて磨き上げると不思議とすっきりとした気分になる。家は心を映し出す鏡。テスト前とか何か他にタスクがある時に限ってやたらと部屋を片付けたくなるのも、無関係ではなさそう。番組の醍醐味がこの歳になってようやく理解できた気がするし、ゴミ屋敷に住む弥生さんにも転機が訪れるであろうことに安堵する。
我が家のリビングを眺めてみる。ゴミ屋敷とまではいかないけれど、子どもの荷物がうず高く積まれている。戦犯は、勉強嫌いの末っ子である。片付けたらモチベーションも上がって勉強するようになるのでは、と一瞬頭に思い浮かぶ。いや、この子の場合は、きれいに片付け過ぎてしまうと、創作意欲が湧かなくなるのか持ち前のクリエイティビティが発揮されないタイプだから、ここは手をつけず放っておいた方がたぶん良い。うん、きっとそう。家が整っていることの心への影響も人それぞれということか。というよりは、家が整うのレベルによるんだろうけど。
随分と軽い話になってしまったけれども、今日は燃えるゴミの日。子どもの荷物はとりあえずそのままに、自分の荷物だけでも整理して、売れそうなものはメルカリに、捨てれるものは捨ててしまおう。何かいいことが起こるかもしれない。弥生さんの家もきっと綺麗に片付く日が来るだろう。片付くとしたら、その後どのような変化が起こるのだろうか。美佐の心にも何か影響を及ぼすのだろうか。連載の続きが待ち遠しい。
(↓リフォーム番組「大改造!!劇的ビフォーアフター」、現在は不定期特番として放送されてるようです。知らなかった。次回放送は観てみよう。)
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