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瀬尾まいこさん作『夜明けのすべて』を読んで


この世の中のすべての人が、この小説に出てくる人みたいであればいいのに、と思った。立場や見方によって、何が優しさで、何が正しくて、何が配慮なのか、それは変わってくるけど。でもこの中に出てくる人に、悪意を持って誰かを傷つけようとする人はいない。


たぶん傷のない人間はいない。弱点のない人間もいないし、欠点のない人間もいない。どのくらい表面に見えているどうか、違いはそれだけ。傷の大きさも深さも、誰にもはかれるものではない。たぶん、自分にも。そして比べられるものでもない。話したところですべてを伝えられないし、結局は自分で抱えるしかない。

それは自分以外の周りの人間誰にも同じように言えることで、道ですれ違っただけのお姉さんも、電車で楽しそうに話してる女子高生も、自転車で颯爽と走り抜ける少年も、疲れ切った顔で家路につくおじさんも、そう。みんな、きっと、そう。もちろん隣にいる大事な人も、ずっと一緒に過ごしている家族でさえも。それぞれになにかを抱えている。でも、それは周りから簡単に見えることはない。


ただ、「見えない=ない」ではなくて。見えないけどあって、それが当たり前で。ひとつもないことが別に、幸せなわけでもない。

そうはわかっていても、できるだけ抱えるものも傷も少なく生きていきたい。幸せだと思える瞬間ばかりを、ずっと続いてほしいと願う今ばかりを重ねて生きていたい。そう思っていた考え方が変わったきっかけになった。


自分に傷があることを知っているから、誰かの傷に気づくことができる。いたわることができる。想像することができる。
弱ったときにものすごく人の優しさが染みたから、誰かの心にそっと寄り添うことができる。
思い通りにならない経験をしたから、誰かのパニックを理解することができる。そういうこともあるよね、って受け入れることができる。

当たり前なようで、当たり前にできないこと、特に自分にとって大事な人にはできたとしても、誰しもにはできないようなことを当たり前にしていくのが、この『夜明けのすべて』の世界。

このあたたかい世界が読んでて大好きだった。入りたかった。


悔しくて辛くて、毎日毎日泣いて、眠れなくなって、ご飯もおいしくなくなって、誰にも会いたくなくなって、自分なんていらない、もうこんな人生終わってしまえばいいのに、明日なんて来なくていい、そう思うほどのことがあった人も、そうでない人も、読んでほしい。触れてほしい。

夜明け前が一番暗い。
この一番暗くてすべてに絶望して捨てたいような毎日を繰り返していたとしても、どこかに光が、温もりが、道が、あるかもしれない。もしかしたら、そう思えるかも、しれない。



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