饅頭屋怖い
饅頭怖いとは良くいったものだ
他人をだましてまで食べた饅頭が人肉まんじゅうだとしても…
前回、便利屋、箱男の話をしたが
彼は、大変忙しい。
予約など取れることなどない。
しかし、彼の同業者なら他にもいくつかあり
それぞれ、得意の御業で仕事をする。
今回は、饅頭屋の話をしよう。
人の中には、頭のねじが何本も抜けた奇人、変人が紛れている。
たまに、他人を見て美味そうだとか言う訳の分からない奴らがいる。
色んな意味で旨そうだ、しかし、心の底から人を食べたいと思う連中が居た。
普通に殺して、食べたら、すぐにばれて、大罪人になってしまう。
そこで、人を饅頭にして食べる術を身につけた連中がいた。
その饅頭は少し大ぶりの蒸し饅頭だが、匂いも餡子入りの匂いがするが、少しでも、外側の皮が破れると、それがただの饅頭で無いことがわかる。
明らかに肉まんじゅうであり、口に頬張ると生きていたもちもちした肌の狙っていた子供の肉だと解るのだ、そのときその変人は天にも昇るほどの歓喜を味会うという。
しかし、饅頭屋の凄い所は、人以外のものも饅頭にできるらしい。
人の食欲は果てしなく、強欲であった。
人を喰らう、妖怪箪笥を饅頭にして食べたい依頼を受ける。
「旦那も欲張りですな、妖怪箪笥食べたいだなんて。
」
「だが、世のため人のため、悪事を働く妖怪を成敗することになるんだ一石二鳥だよ。」
「しかし、料金は高くつきまっせ。」
「で、幾らになる?」
「金壱千萬になります。」
「ぜんぜん、問題ない、いつ手に入るかね?」
「風の噂によりますと、其の箪笥、危険と判断され、とある寺の倉庫に封印されていると聞いております。となると盗み出すしかありません。」
「でも、出来るんだろう」
「もちろん、この饅頭屋に不可能ありません、ただ3日ほどお待ちください、」
「美味い、饅頭にするには時間が掛かります。」
まず、両足を腕抱えた状態、つまり体育座りの状態にして
おおきな饅頭の薄皮を全体に被せると、不思議なことに縄で縛りあげたわけでもないのに、立ち上がることも、手すら動かすことができない。
そして、和菓子職人が数人係で木の棒で頭以外を殴り続けるのです。
皮は裂け、肉は潰れ、骨は粉々に、赤い血が下の薄皮をねじって閉じた部分から延々と流れるが、饅頭の薄皮は、白いままである、そして、顔の部分を上にして、丸い熱した鉄板を薄皮越しに押し当てると
薄皮の上部には人物の似顔絵のような焼きが浮かびあがる。
その出来具合を確認すると、その顔面めがけてさらに、殴りつづけることまる一日、遂にその大きさは両手のひらを合わせたぐらいの大きさになり、最後の行程、せいろで蒸されること1時間、出来がった蒸し饅頭は
元は、人間だったとは思えない、旨そうな大ぶりの饅頭である。
最後にと、白い粉が掛けられると、匂いは餡子の香りがしはじめる。
ただし、味は肉まんじゅう、生前のその人の特徴を生かした風味になる。
人の場合も、人で無い場合も行程は変わらない。
今回の、妖怪箪笥は如何なる、味を生み出すかは
食べてみないと分からない。
東北のとあるお寺の蔵が、妖怪箪笥を収めている、
正確には、閉じ込めてあるということだ。
饅頭屋は、考えた、饅頭にすることは問題無いが
その妖怪箪笥を盗み出し、封印が施されていたら、それも解除し
生きた妖怪箪笥を素の状態で饅頭にしてこそ大菓匠大黒屋である。
その気になれば、封印ごと饅頭にも出来るが、妖怪箪笥が活かされていない。
もしかすると、もう何年も人を食べておらず、元気ないただの箪笥だったらと思うとこちらもやる気が失せるというものだ。
準備は、万全でなければならない。
こんな時こそ、便利屋箱男に頼めば、盗み出すことも、封印を解くことも、持ち出すことすらやってくれるのだが、今回は別の連中に頼むしかない。
深夜、月夜の無い、明かりも無しに動くものあり。
妖怪箪笥の捕獲の依頼を受け。
目的の寺の蔵の前にいるのは昔の僧兵の格好の大男と、子供にも見える小さい女性どちらも大きな風呂敷で大荷物を担いでいるようだ。
「姉御、本当にやるんですか。」
「太一、ここに眠る妖怪箪笥は、危険なもんだ、これを処分するのは悪い事じゃない。
「でも、これっ泥棒。」
と言いかけたとき、姉御とよばれた女性が大男のすねを蹴飛ばした。
「普通に、申し出て断られたのを忘れたのかい。」
「今回は、お得意様の依頼だ、金払いも良い、文句言わずやるからね。」
「ハイ姉御。」
自分と同じぐらいの荷物を舟形に縫った紺色の風呂敷で包んで背負い、白い脚胖に下げた下襦の姿をした女性が、自分の担いでいた風呂敷を降ろすと
その中身は、三面鏡だった、それもかなり立派であったが
三面鏡はしめ縄でぐるぐる巻きにされ、大きな札が正面に貼ってある。
さてさて、使うのははじめてだけど、魔物を映し出す浄波瑠璃の三面鏡
「太一、そっちも用意しな。」
すると、大柄な太一の背丈越える大型の仏壇が姿を現した。その中に真っ白な壺が見える。
最後に、これで本当に引きづり出せるかは私次第か、その手に10㎝四方角の、黒い漆塗りの箱があった。
私が使う、外法箱では最高位、雷神の左手で、三面鏡に映った妖怪箪笥を引っ張り出し、白亜の壺で封じ込める。
「もし、封印があれば解除と言ってたけど。
雷神の左手で引きずりだしたことで封印も解けるんだけどね。」
問題は、私のコントロールミスで妖怪箪笥を雷神の力で消滅させないこと。
本来の使い方では無いんだけど、やるしかない、
「太一、妖怪箪笥が出て来た段階ですぐに白亜の壺の蓋を開けるんだそうすれば、引っ張り出して直ぐ、離せば、白亜の壺が吸い込むはず。」
「行くよ!太一。」
太一が、三面鏡を蔵の正面向け、札を外し、縄を解き、三面鏡を開くと
直ぐさま、三面鏡に変化が見える、真っ黒な霧で鏡が埋め尽くされる
「悪鬼滅殺、剛毅雷神、来たれ雷霆(インドラ)救急如律令」
すると黒い箱から雷雲とともに赤黒い大きな左手が現れた
ちっ、この蔵には他の魔性の品があったか、鏡の中には箪笥の外に真っ黒な霧に覆われたものが幾つか見える。
「インドラよ箪笥を掴み取り引き出せ」、すると鏡の中に雷神の手は入り込み、すぐさま戻って来た。
「その手を離せ雷神!!」
太一が、白亜の壺の蓋をあけると、物凄いスピードで箪笥らしきものを吸い込んだが、三面鏡の外の魔性の品も引っ張り
出して来た。
「あかん、太一早く閉じて。」
どうやら、2体ほど別の魔性のものが出て来た。
えーっ、面倒な、「インドラよ、その力で悪鬼を滅ぼせ!!!」、すると
雷が轟音ともに、魔性たちに落ち、辺りは静けさを取り戻した。
「しかし、姉御、箪笥少し壊れて無かった?」
「良いんだよ、あれぐらい、どうせ饅頭になるんだから。」
そういって、取り出した呪具を風呂敷で包むとあっという間に走り去った。
さて、少し壊れた妖怪箪笥を見て、がっがりした饅頭屋は
雷神で掴み出した、その余波でここまで弱ったとは思えない
ただの年季の入った箪笥のようだ。
菓子職人たちが、念入りに調べると、
「親方、一番の下の引き出しは生きてるようです。」
それを聞いた饅頭屋は悪人の形相を浮かべ
普通に人を食べさても良いが、それでは時間がかかる
「あれを」といって菓子職人に指示をすると
蒸した、出来立ての饅頭が、一番下の引き出しの中に入れた途端。
妖怪箪笥が、震え出し、一番下の引き出しが勝手に出たり、引っ込んだりしはじめた、大量の鮮血がその度に飛び出し、まるで箪笥がもの食べて咀嚼しているようだ、そのうち箪笥にも色艶がでて壊れた部分が元通りになった。
では、初めてくれと饅頭屋が言うと、菓子職人たちが手際よく
大きな薄皮を被せた。
妖怪箪笥はガタガタ動いていたが
職人たちが、木の棒ではなく、鉄の棒で容赦なく殴りはじめると
紫いろの液体が、生ごみの匂いとともに地面に広がった。
どんな味になるのとても楽しみですが。
味見が出来ませんからね、どうしても我慢ができなければ
依頼主も饅頭にしてしまえば、さぞかし、美味しかろう。
涎を、右手の裾で拭い、「今回は久しぶりの大仕事、繁盛繁盛
。」と言って、饅頭屋は屋敷の奥に消えた。