創作都市伝説 ひきこさんVSかしまさん
ひきこさんVSかしまさん
あらすじ
鹿島玲子は、平凡な高校生だが、都市伝説「かしまさん」と名前が同じことに気づいた時から、周囲で奇妙な現象が頻発するようになる。
彼女の名前を口にした友人が3日後に亡くなる、という噂が広まり、玲子は「自分が呪いの原因なのか?」と恐怖に囚われていく。
玲子の母親は、「この名前は魔除けのために付けた」と語るが、その真意は曖昧だ。
ある日、玲子は「ひきこさん」と呼ばれる都市伝説を知る少女、森妃姫子と出会う。
彼女も同じように、名前のせいで周囲に恐ろしい出来事が起こることに苦しんでいた。
二人は共に、この都市伝説が彼女たち自身を支配し、意志を越えた呪いのような存在になっていると気付き、互いに助けを求めて絆を深める。
しかし、雨の日の放課後、玲子と妃姫子は奇妙な女に遭遇する。
女は白くぼろぼろの着物を着て、裂けた口元から禍々しい微笑みを浮かべており、腕には動かない子供の体を引きずっていた。
まるで二人を嘲笑うかのように現れるその姿は、「かしまさん」と「ひきこさん」の怪異が融合し、さらなる恐怖を生み出しているかのようだった。
この怪異を断つ方法はただ一つ、自らの名前を呪いの具として利用すること。
しかし、その代償として二人の存在そのものが「都市伝説」へと溶け込み、永遠に呪われ続ける運命が待ち受けている…。
登場人物
主人公:鹿島 玲子(かしま れいこ)
年齢:17歳、高校2年生
性格:内向的で控えめだが、芯は強い。名前が原因で不運を招くと思い込み、自己犠牲的な面も。
口ぐせ:「また変なことが起こるかも…」「私のせいかもしれない…」
好きなもの:雨音、ホラー映画(怖がりながらも興味がある)、母親の手作りの唐揚げ
嫌いなもの:名前をからかわれること、自分の話を冗談として流されること、裏切り
背景:幼い頃から「かしまさん」の都市伝説に似た名前で、同級生からからかわれることが多かったが、特に問題なく成長。しかし、高校に入学してから、名前を話題にした周囲の人が3日後に死ぬという現象が発生し始める。母親から、自分の名前が魔除けの役割を持つと聞かされるが、それは単なる迷信なのか、何かの真実なのか疑問を抱き始める。
葛藤:自分の名前が呪いそのものであるという恐怖と、その呪いから愛する人たちを守るための犠牲に耐えようとする。森妃姫子との出会いを通じて、逃れられない運命に立ち向かう覚悟を固めていく。
共演者:森 妃姫子(もり ひきこ)
年齢:17歳、別の高校に通う
性格:皮肉屋で冷めた態度だが、内には深い怒りと悲しみを秘めている。玲子には不思議と心を開きやすい。
口ぐせ:「そんなの無意味よ」「どうせ何も変わらない」
好きなもの:カラスや蛇のような不気味な動物、路地裏での一人の時間、昭和のホラー小説
嫌いなもの:他人の同情や好奇心、家族との団らん、派手で明るい色彩
背景:「ひきこさん」の名前を持ち、都市伝説の影響を受けている少女。家族からの虐待と学校でのいじめを受け、次第に孤立。心の中で復讐心が膨らみ、「ひきこさん」という都市伝説に影響され、名前が「呪い」を引き寄せる存在になってしまう。都市伝説の「ひきこさん」とリンクするような怪異を引き寄せる体質があり、彼女を取り巻く環境が次々に破滅していく。
葛藤:自分を苦しめた者たちへの怒りを抱えながらも、「ひきこさん」としての呪いにとらわれた自分をどう解放するかに悩む。玲子と出会い、「名前の呪い」を断ち切る方法を探すため、運命に立ち向かう決意をする。
母親:鹿島 美奈子(かしま みなこ)
年齢:40代前半
性格:一見穏やかで優しいが、どこか神経質で不可解な行動をとることがある。玲子を守るためならどんな手段も辞さない母性愛の持ち主。
口ぐせ:「大丈夫よ、魔除けのためだから」「玲子のためなら何でもするわ」
好きなもの:和食全般、香道(お香の香りを楽しむ伝統的な趣味)、夜明け前の静けさ
嫌いなもの:迷信を否定する人々、家族を傷つける者、家に入ってくる冷たい風
背景:玲子の名前を「かしまさん」の伝説に基づいて名付けたが、その真意は謎。若い頃に「かしまさん」について調べていたらしく、その恐ろしさを知っている様子。夫の死や家族に不運が多いこともあって、都市伝説に深く関心を持つようになった。
葛藤:娘を呪いから守るための手段として「名前の魔除け」を信じ、他の人を遠ざけようとするが、結果的に玲子が苦しむことに罪悪感を抱く。最後には、呪いの起源を解明するため、禁忌に触れる行動に出る可能性も。
尾崎 颯太(おざき そうた)
年齢:17歳、玲子の幼なじみで同じ高校に通う
性格:無邪気で明るいが、都市伝説やオカルトに興味を持ちすぎることがある。
口ぐせ:「何か面白いこと起きないかな」「玲子、やっぱり君ってすごいよ」
好きなもの:オカルト話、UFOや超常現象の動画、玲子と一緒に過ごす時間
嫌いなもの:退屈な授業、あまりに現実的な人、暗い空気
背景:玲子をからかうために「かしまさん」の話題を出してしまい、彼も3日後の死を宣告されてしまう。玲子と妃姫子の助けを得て、呪いから逃れるために真剣に協力するが、物語が進むにつれて彼の身にも危険が迫る。
葛藤:玲子に友情以上の好意を抱いているため、彼女を守るために自ら危険に飛び込む覚悟を持つが、呪いの本質に近づきすぎたことで、自身が新たな呪いの犠牲者となるリスクも孕む。
ひきこさんVSかしまさん
私は鹿島玲子。
名前が「かしまさん」と同じだというだけで、こんなに人生が狂わされるとは思っていなかった。
最初は、ただの偶然だと思っていた。
小学校のころ、都市伝説の「かしまさん」を知ってから、どういうわけか周りが私を「本物のかしまさん」だとからかうようになった。
「鹿島」って名前だけで怖がられるのも、おかしな話だと思っていた。
でも、大人になった今でも、その呪いみたいな話は私の周りに残り続けている。
ある日、親友の颯太が「かしまさん」の話題を出して私をからかったとき、私は内心で少し不安を覚えた。
かしまさんの都市伝説を聞いた人間のもとに彼女が現れるという話があるけれど、まさかそれが現実のものとなるとは思いもしなかった。
三日後、颯太が深夜に奇妙な目に遭ったと聞かされ、私の胸には氷のような冷たいものが広がった。
颯太は、「玲子、お前のこと本当に冗談でからかっただけだって……でも、なんか夢の中で変な女に会ってしまったんだ」と、震える声で言った。
まるで私が呪いを媒介しているみたいに、彼の恐怖が伝わってくる。その話を聞いて、私の中に眠っていた不安が呼び起こされた。
それからというもの、何かが私の周りでゆっくりと動き出しているように感じた。
まるで見えない鎖が、じわじわと私に絡みついてくるような……そんな感覚だ。
颯太が恐怖に怯え始めてから、私の周囲に漂う空気が一変したのを感じた。学校でも、彼は私と距離を取るようになり、時折、何かに怯えているような視線を私に向ける。
それは私を不安にさせると同時に、どこか苛立たせるものだった。私
は彼に害を加えるつもりなんて一切ない。
ただ、この「かしまさん」と同じ名前を持っているだけで、なぜこんな目に遭わなければならないのか。
何度も自問したが、答えは見つからないままだった。
その日は学校の帰り、どしゃぶりの雨に見舞われた。傘も持っていなかった私は近道を通るために、誰も近寄らない古びた廃ビルを横切ることにした。人気のない場所は少し怖いが、早く帰りたかったし、この呪われた気分を早く払拭したかった。
建物の薄暗い廊下を歩き、足元に水が染みる中で、ふと影が動いた気がして足を止めた。
反射的に振り向くと、そこには、私と同じ制服を着た見知らぬ少女が立っていた。
雨に濡れ、髪はぼろぼろの黒髪で覆われ、目はどこか虚ろで、不気味なまでに澄んでいる。その目がじっと私を見つめていた。
何かを探しているような、でもどこか恨めしいような目。
「……鹿島さん?」
その声に心臓が跳ね上がる。
誰だ、この少女は? 彼女が私を知っているかのように「鹿島さん」と呼んだことが、不安を煽った。
「あなた、もしかして……森妃姫子さん?」
言葉が口をついて出た。
誰かがその名前を耳にささやきかけたかのように、ふいに思い浮かんだのだ。
すると彼女の瞳に、ほんの少しの光が戻る。そして、薄く唇を引き上げた。
だが、その微笑には温かみも親しみもなく、ただ冷たさだけが漂っていた。
「ようやく、会えたわね……私と同じ名前を背負う者。」
彼女は静かにそう言った。
彼女の本名が「森妃姫子」、そしてそれが都市伝説「ひきこさん」の起源になっているのだと、私は理解した。
彼女もまた名前に呪われ、同じように孤独と恐怖に苛まれてきたに違いない。
「呪いの本質を知りたい?」
妃姫子は、囁くように言葉を放つ。
「あなたも、私も、名前によって引き寄せられた運命の者……私たちは鏡のように、同じ呪いの連鎖に繋がっている。
逃れようとすればするほど、その鎖は強く締まっていくわ。」
私の心は彼女の言葉に揺さぶられた。
彼女と私は、もしかすると、この呪いを解くための鍵を共有しているのかもしれない。
この重苦しい恐怖から解放されるために、彼女と手を組むべきなのかもしれない。
「でも、どうすれば……この呪いを断ち切れるの?」
そう尋ねる私に、彼女は意味深な微笑を浮かべ、さらに一歩近づいてきた。
「その方法を知りたければ、かしまさんと対峙することね。彼女が、この呪いの根源なのだから。」
それから数日、私は妃姫子とともに「かしまさん」と「ひきこさん」の都市伝説にまつわる情報を探し求めた。
図書館やインターネットでの調査の合間にも、私は彼女から奇妙な儀式やおまじないを教えられたが、どれもこれも不気味で、心の中で何かが警鐘を鳴らしているようだった。
そして、ついに「対峙の儀式」を行う日がやってきた。
場所は夜の廃ビルの最上階。雨がしとしとと降り続ける中、私は妃姫子とともにろうそくを灯し、薄暗い空間に彼女の教えた儀式の準備を整えた。
「これで……本当に、呪いが解けるのね?」
私が恐る恐る尋ねると、妃姫子はただ頷くだけだった。
だがその目は、どこか遠くを見つめているようで、私が感じる不安をいっそう募らせた。ろうそくの光が揺れ、私の視界は徐々に歪んでいく。
その瞬間、背後で何かが音を立てた。振り返ると、そこには身の毛もよだつ光景が広がっていた。
廊下の闇から、白い着物を着た女性がゆっくりと現れた。
彼女の顔はかしまさんそのもの――鋭い目がこちらを射抜き、耳元まで裂けた口元からは、どこか憎悪がにじみ出ている。
そして、その手には幼い子供を引きずっているように見えたが、よく見るとそれはただの人形だった。だが、その人形の表情は生きているかのように苦悶に歪んでいる。
「……話を聞いたな?」
その冷たい声が空気を震わせ、私は息が止まるのを感じた。
「……かしまさんに、聞きました。」
震える声で答える私を、かしまさんはじ
っと見つめた。
その瞬間、妃姫子が鋭く叫んだ。
「かしまさん! この場で呪いの因果を終わらせるわ!」
妃姫子の叫びに応じて、空間が変わる。
まるで鏡のように二人の姿が重なり合うかのごとく、彼女たちは対峙した。
裂けた口元のかしまさんと、虚ろな瞳のひきこさん。
どちらも怨念にまみれた存在が、互いに力を解放しようとしているのが見て取れる。
二人がにらみ合った刹那、まるで狂ったように空気が揺れ、轟音が走った。
ひきこさんがかしまさんに向かって突き進み、かしまさんもその裂けた口から低い唸り声を発して、互いの怨念をぶつけ合う。
その凄惨な戦いの光景を目の当たりにしながら、私は息を詰めて見守っていた。
かしまさんとひきこさんの戦いは、まるで空気そのものが裂けるような激しさだった。
二人は互いに怨念をぶつけ合い、怨みのエネルギーが渦を巻き、廃ビルの中に凄まじい圧力が生まれていた。
暗闇に浮かぶ二人の影が、次第に一つの巨大な怨霊の塊のように見え始める。
かしまさんの裂けた口が「話を聞いたな?」と低く唸り、ひきこさんはその言葉にかき消されることなく、「私の苦しみを知りなさい。」と冷たく返した。
その瞬間、ひきこさんの虚ろな瞳が燃えるように光り、
かしまさんの形が揺らぐ。
私には、ひきこさんがかしまさんの中に入り込み、彼女の怨みや恐怖を打ち砕こうとしているかのように見えた。
「あなたの苦しみなど、私の前では無力だ!」かしまさんは裂けた口をさらに広げ、ひきこさんに襲いかかろうとした。
しかし、その動きは一瞬、止まった。ひきこさんがかしまさんの目をじっと見つめ、呪いを込めたかのような冷たい視線を向けていたからだ。
「私もあなたも、ただの鏡像に過ぎないのよ。あなたが消えれば、私も消える……だけど、そうすることで、玲子の呪いも終わるのよ。」
私は息を呑んだ。
彼女たちは私の呪いを解くために、互いの存在を消し去る覚悟を決めているのだと、瞬時に悟った。
かしまさんはその言葉に一瞬、疑問の表情を浮かべたが、次の瞬間にはまた怒りに染まっていた。
「そんなことに意味などない! 私は怨みを晴らすためにここにいる!」
その言葉が終わるや否や、二人は最後の激突に突入した。
息が詰まるような空気が私と妃姫子を包み込んだ。暗闇の中、目の前にひきこさんと、かしまさんの影がゆらりと揺れて浮かび上がる。
二人は私たちに気づくと、目だけを光らせ、無言のまま互いを見つめ始めた。怨念がぶつかり合い、空気がさらに冷たく重くなっていく。
ひきこさんが先に動いた。
彼女の目はつり上がり、口元には不気味な微笑が浮かんでいる。
瞬間、彼女の腕がかしまさんの頭をがっしりと掴み、そのまま力任せに引きずり回した。
かしまさんの顔が床に叩きつけられ、髪の毛が床に散らばっていく。
ごつごつと音を立てて引きずられたかしまさんの姿は、人形のように力なく見えたが、彼女の表情には微塵も怯みがない。
「ふん、そんなものかい?」と、かしまさんが低く嘲笑するように言う。
すると、かしまさんは不意に振り返り、ひきこさんの腕を逆に掴んだ。
力強くねじり上げると、ひきこさんの手足が次々に引きちぎられていく。
ぎしぎしと骨が折れる音が耳に響くが、ひきこさんは痛がる様子もなく、ちぎれた腕や足が瞬く間に元通りになっていった。
お互いがどれだけ傷つけ合おうとも、両者の体は瞬時に修復され、まるで不死のように立ち上がる。
この怪異に身を震わせながらも、私は目をそらすことができなかった。
かしまさんは、再び静かにひきこさんに向かって歩み寄る。
そして、唇をわずかに動かし、冷たく問いかけた。
「足、いるか?」
その言葉が響くと同時に、ひきこさんが不敵な笑みを浮かべ、かしまさんの目をじっと見返しながら、今度は彼女が質問を返した。
「私の顔は醜いか?」
それは、二人の怪異が犠牲者に問う、忌まわしい問いそのものだった。
私は鼓動が早まるのを感じた。
妃姫子もまた、冷や汗を浮かべながら、唇を震わせている。
答えなければならない――そうしなければ、私たちもここで呪いに取り込まれてしまうだろう。
震える声を押し殺し、私は叫んだ。「足は……いらない!」
妃姫子もかすれた声で続けた。「あなたの顔は、美しい!」
その瞬間、ひきこさんとかしまさんの体が不自然に硬直した。
二人は私たちの声に反応するかのように動きを止め、体が徐々に変形し始めた。
歪むかのように溶け合い、二つの怨霊が一つの存在へと融合し始めている。凄まじい怨念が膨れ上がり、周囲の壁が軋む音が響いた。
彼女たちは互いの体に食い入るように結合し、もはやどちらがどちらか分からなくなるほどだった。
私は息をのみながら、妃姫子と目を合わせた。
このままでは、この融合した存在がさらなる強大な怨念を生み出してしまうかもしれない。
しかし、ひとつだけ方法がある――二つの鏡で、彼女たちを挟むのだ。
妃姫子と共に反射的に身を翻し、廃ビルの角にあった割れかけの鏡を二つ、両手に持って融合した怨霊の間に突き出した。
「これで終わりよ!」叫び声と共に、鏡が怨霊を挟み込むように配置されると、異形となったかしまさんとひきこさんはまるで光の中に引き込まれるように姿を消していった。
重い静寂が戻り、暗闇の中に私と妃姫子だけが残されていた。
ひきこさんが怨念の渦の中に消え、かしまさんもその渦に巻き込まれていく。
彼女たちの姿はみるみるうちにかき消され、廃ビルの中にただ不気味な沈黙だけが残った。
その沈黙が破られると同時に、私はふと目を開けると、廃ビルの中にはただ
かしまさんも、ひきこさんも、跡形もなく消え去っていた。
雨音が止み、辺りには奇妙な静けさが漂っている。
私はふらつく足で立ち上がり、心臓がまだ激しく打っているのを感じた。
「これで……終わったのか?」
答える者はいなかったが、心の中にあった不安と恐怖が、少しずつ薄れていくのを感じた。
私は怨念から解放されたような気がしていた。かしまさんとひきこさんは、互いに消え去ることで私の呪いも断ち切ってくれたのだろうか。
廃ビルを抜け出し、外に出ると、空には一筋の月明かりが差していた。私はその光に包まれながら、胸の奥から込み上げる涙を感じていた。
彼女たちがいなくなったことで、私達の名前をめぐる呪いも消えたかのように思えた。
そして、これからは普通の生活を取り戻せるかもしれないという希望が、心の奥に静かに灯ったのだった。
終わり
都市伝説 ひきこさんとは