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現代版 赤えい 漂海の島 後編  〜覚醒する巨影〜

後編のあらすじ


奈央は赤えいとの遭遇以降、心的外傷を抱えながらも研究を続けていた。
調査団は解散し、生き残ったメンバーも散り散りになっている。
国は前回の調査結果を公にせず、赤えいの存在を「自然現象」として扱っていた。
ある日、奈央のもとに海洋研究機構から連絡が入る。
高知県沖で巨大な未確認生物の存在が報告され、周辺では漁船が次々と消息を絶っているという。
緊急会議と再調査の決定

  • 奈央は高知県の港へ呼び出され、政府主導の緊急会議に出席する。会議には、以下の専門家が参加している。

    1. 港の安全確保を優先するが、赤えいの巨大さを理解できず焦りを募らせる。

  • 奈央は赤えいとの直接遭遇体験を基に報告を行い、その危険性を訴えるが、一部のメンバーから「偶然の遭遇」と軽視される。

  • その時、最新のソナー探査結果が届き、赤えいが高知県沖30kmにまで接近していることが判明する。奈央の主張は現実となり、再調査が急遽決定される。

新たな調査団の結成
奈央を中心に、新たな調査団が結成される。メンバーには以下の人物が加わる:

登場人物

主人公:椎名 奈央(しいな なお)

年齢:32歳
職業:海洋生物学者
容姿:肩までの黒髪を後ろで一つ結びにした清潔感のある女性。小柄ながら引き締まった体つきで、鋭い目つきが特徴。日焼けした肌が、海での経験の豊富さを物語る。
口癖:「データが全てを物語る。」
好きなモノ:本物の自然(特に海洋生物)、ブラックコーヒー
嫌いなモノ:曖昧な説明、迷信を信じる人
背景:幼少期から海に魅了され、海洋生物学の道を志す。前回の調査で、不可解な事故でチームの同僚を失った過去があり、それを乗り越えようとする強い意志がある。冷静沈着で科学を信じるが、島での異常現象を目の当たりにし、次第に自信を失い始める。

坂本 優子(35歳)
海洋生態系研究者。冷静だが実践経験に乏しく、奈央に対してやや憧れを抱く。

西崎 大輔(40歳)
ソナー操作と解析の専門家。実務に強いが、科学以外の分野に偏見を持つ。

北村 陽子(38歳)
前回の調査団メンバー。伝承や赤えいの民俗学的背景を解説する役割を担う


漂海の島 後編 ~赤えいの覚醒~


潮の香りと共に、異様な緊張感が船内に漂っていた。
船が赤えいの影を追って高知県沖へ進むにつれ、その存在感がますます現実味を帯びてきた。
私は何度もソナー画面を見つめる。その波形は、単なる魚のサイズでは説明がつかない、規格外の形状を描いていた。

「奈央さん、これ……見たことありますか?」
西崎が震える声で聞いてきた。
彼の指が画面の中央にある巨大な影を示している。

その影は、じっとしているわけではなく、まるで意思を持った生物のように微妙に動いていた。

「見たことがあるどころじゃない。これが……赤えい。」
私は答えながらも、自分の声がわずかに震えていることに気付いた。
赤えいがこれほど大きくなっているなんて、想像していなかった。

「サイズが前回よりはるかに大きい……それに、動きが異常です。」
西崎の言葉に、私は頷いた。

赤えいは確実に変わっていた。

ただ漂っているだけではない。明確な「目的」を持って動いているように見えた。


赤えいの行動を追う

「椎名さん。」
白石教授が私を呼び止める。
彼の表情には焦りが浮かんでいる。

「最新のデータを確認しましたが、赤えいが南東から何かを追い込んでいる形跡があります。海面近くで捕捉された群れ……クジラの可能性があります。」

「クジラ……?」

その言葉に、私は息を呑んだ。

赤えいがクジラを追い込んでいる?そんな行動は、これまでに報告されたことがない。

「ええ、数十匹単位のクジラが一方向に進んでいます。この赤えいはただ漂う存在ではない。食物連鎖の頂点に立とうとしているんです。」

「それがどうして……?」

「おそらく、『オキナ』になろうとしている。」
白石教授の言葉に船内が静まり返った。

「オキナ」とは、古代の伝承に登場する、海を覆い尽くす巨大魚の名だ。

だが、それはただの伝説だと思われていた。


緊急事態の宣言

「赤えいが目指しているのは高知県の浜です。」
白石教授が断言すると、全員が顔を見合わせた。

「高知の浜?」
北村陽子が古文書を取り出しながら言った。

「まさか……伝承と一致するなんて。
『オキナ』は陸に上がることで完全体になるとされています。
赤えいが浜に到達すれば、それを実現する可能性があります。」

「そんな馬鹿な!」
村井が声を荒げた。
「たかが魚が、どうやって陸に上がるって言うんだ?」

「たかが魚じゃない!」
私は思わず声を張り上げた。

「赤えいは普通の生物じゃない。あれは……意識を持ち、進化しようとしている。高知の浜に何か特別な条件が揃っているのかもしれないけど、放っておけばとんでもないことになる。」
村井は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに食い下がった。

「仮にそれが本当だとしても、どうするんだ?クジラを数百匹も飲み込むような化け物だ。私たちで止められるのか?」
私は答えられなかった。

赤えいの巨大さを前に、人間の力がどこまで通用するのか、自信が持てなかったからだ。


赤えいとの接触

船は赤えいにさらに近づいていく。
その巨大な体は、波の上で不気味な影を落としている。
背中には岩のような突起があり、時折水面から顔を出しては、まるで島のように見える。

「接近します!」
西崎が緊張した声で告げた。

船が赤えいの近くに到達した瞬間、巨大な尾がゆっくりと動き、水面に大きな波紋を作り出した。その波紋が船を揺さぶり、全員がデッキにしがみつく。

「くそ……でかすぎる。」村井が呟く。

赤えいの尾の近くでは、数十匹のクジラが逃げ惑っている。

その様子はまるで、獲物を網に追い込む漁師のようだ。


浜への進行

赤えいはゆっくりと浜に向かって移動を始めた。
その速度は決して速くないが、確実に目的地を目指している。

「このままでは高知の浜が……。」
私は歯を食いしばった。

あの大きさの生物が陸に上がれば、周辺の生態系が壊滅するだけでなく、浜が完全に呑み込まれる可能性がある。

「政府に連絡を!」村井が無線を取り出し、事態の緊急性を説明し始めた。

だが、その間にも赤えいは進み続けている。


作戦会議

船内では緊急の作戦会議が開かれた。
「赤えいを止めるにはどうすればいい?」
村井は軍事的手段を提案したが、私は即座に反対した。

「爆破なんてしたら、赤えいだけじゃなく、周囲の生態系も破壊される。」

「じゃあ、他に手があるのか?」
私は沈黙したが、北村が口を開いた。

「赤えいがクジラを追い込んでいる理由を逆手に取るべきです。

もしクジラがいなければ、赤えいは浜への興味を失うかもしれない。」
「クジラをどうするんだ?」
西崎が言った。

「誘導するしかない。」
私は言葉を絞り出した。

「赤えいを高知の浜から離れた海域に誘導するために、クジラの群れを動かす。」


船のエンジンが低い唸りを上げながら、クジラの群れへと近づいていく。
赤えいの尾が水中でゆっくりと動き、その動きに合わせて周囲の波が大きく揺れた。

背中にはまるで山脈のような突起が見える。
その体積感は、数百メートルという次元ではなく、もはや海そのもののようだった。

「クジラたちをうまく誘導できればいいけど……」
私は独り言のように呟いた。
だが、内心では成功への期待は薄かった。

赤えいの行動には知性が感じられる。
単に餌としてクジラを追い込んでいるのではなく、彼らを利用しようとしている。
それが、ただの巨大生物の本能の範疇を超えているように思えた。

「奈央さん、クジラの群れまであと1kmです!」
西崎が振り返って声を上げた。
船の速度を落としながら、慎重に接近を進める。
目の前の水面がざわざわと動き、クジラの巨大な背中が見え隠れしていた。

「彼らを動かせれば、赤えいの注意をそらせるかもしれない。」
北村が手にした古文書を読みながら言った。

彼女の声には、自信というより祈りが込められているようだった。


クジラの誘導作戦

調査船に搭載されたソナーを使い、クジラたちを別方向へ誘導する準備を整えた。
音波を利用して生物を誘導する技術だが、成功する保証はない。
音波が効きすぎて暴れられたら、それこそ船が危険にさらされる。

「これが最後の賭けね。」
白石教授が低く呟いた。
彼の目には、科学者としての冷静さと、失敗への恐怖が交錯していた。

ソナーが作動し、海中に低周波の音が響く。
その瞬間、クジラたちが反応を示した。群れがゆっくりと動き始め、赤えいの方から遠ざかるように移動していく。

「動いてる!」
西崎が興奮気味に叫ぶ。
だが、その時だった。
船の後方で、巨大な水柱が上がった。

赤えいだ。クジラの動きに気付いたのか、巨大な尾を振り上げ、船へ向かって波を起こしてきた。

「来るぞ!掴まれ!」
宮田船長の叫び声が響き、全員がデッキにしがみついた。
波が船体を激しく揺さぶり、器材が床に叩きつけられる。

「ダメだ、あいつはクジラを絶対に逃がさないつもりだ!」
私は叫んだ。

赤えいの尾が水面を叩くたびに、クジラの群れが再び散り散りになり、混乱する。


赤えいの変貌

波間に揺れる赤えいを見つめていると、その背中に異変が現れた。
背びれがさらに大きく隆起し、細かい突起が生えてきている。
まるで岩肌が成長しているようだ。
そして、その形状が少しずつ変化していくのが見て取れた。

「これは……まさか、陸に上がる準備をしているのか?」
北村が呟く。

白石教授がその言葉に反応した。
「その通りかもしれない。あの生物はクジラを利用して、エネルギーを蓄えているんだ。『オキナ』としての変貌を遂げるために。」

その言葉に、全員の顔が蒼白になった。

赤えいが数百匹のクジラを飲み込み、そのエネルギーで完全体になる。

そんなことが現実に起こるのだろうか?


高知の浜を目指して

船の進路を調整し、赤えいと高知の浜との間に割り込む形で移動を続けた。時間は残されていない。
陸地に到達する前に、赤えいの進行を止める必要がある。

「船での物理的な阻止は不可能です。」
村井が冷静に言った。

「何か方法はないのか?」
私は焦りながら尋ねる。

「一つだけ可能性があるとすれば、赤えいの行動を誘導する方法です。」白石教授が答えた。

「具体的には?」

「赤えいは知性を持っている。その知性に働きかけるんだ。」


最終局面:赤えいとの対話

赤えいの目が水面近くに現れた。
その巨大な瞳は、まるでこちらを見ているかのようだった。私
はその視線に圧倒されながらも、デッキに立ち続けた。

「椎名さん、やるつもりですか?」
西崎が声をかけてきた。

「やるしかない。」
私は船の端に立ち、大声で赤えいに向かって叫んだ。
「私たちは敵じゃない!聞いているのなら、私たちと共存する道を探そう!」

「私たちは敵じゃない!」
声を張り上げても、返ってくるのは波の音だけだった。

だが、赤えいは船の近くで動きを止めたように見えた。
その巨大な目が、こちらをじっと見つめているように感じる。

「本当に理解しているのか……?」
私の心に疑念が生まれたが、それでも立ち止まるわけにはいかなかった。

「赤えい!」

私は再び叫んだ。声が震えているのがわかる。

「あなたは何を求めているの?どうしてここに来たの?」
北村が私の隣に立ち、静かに囁いた。

「奈央さん、伝承によれば、赤えいが陸に上がるのは、次の形態になるための儀式。人間の声が届くなら、その目的を阻止する手がかりになるはずです。」

「わかってる。でも……。」
言葉が途切れた瞬間、赤えいの目が一瞬閉じられたように見えた。
その動きは、人間のまばたきに似ている。

「反応しているのか?」
西崎が興奮した声を上げた。

その時、船が急激に揺れた。

赤えいの尾が大きく振られ、巨大な波が押し寄せてきたのだ。

「掴まれ!」宮田船長が叫び、全員が船の手すりにしがみつく。


赤えいの行動が加速する

赤えいは再び動き出した。
その速度は徐々に増し、浜へ向かう進路をさらに確かなものにしている。

「これは……わざとやっているのか?」
白石教授が呟いた。

「どういう意味ですか?」
私は焦りながら尋ねる。

「赤えいは君の声を理解した可能性がある。その上で、私たちに自分の目的を見せつけているのかもしれない。」

私は目を見開いた。もしそれが本当なら、赤えいは単なる動物ではなく、人間以上の知性を持っていることになる。

「何を考えているんだ……。」


浜の危機

一方、赤えいの接近に気付いた高知県の浜は、騒然としていた。
避難命令が出され、地元の漁師たちは港を離れる準備を進めている。

だが、赤えいの進行速度が予想以上に早く、避難が間に合わない恐れがあった。
「このままじゃ浜が飲み込まれる!」
村井が無線で連絡を受け、苛立ちを露わにした。

「政府はどうするつもりだ?」

「駆除作戦を検討しているが、すぐには動けないらしい。」

「駆除なんて無理だ!」
私は怒りを込めて言い返した。

「あの赤えいの規模を見ていないの?通常兵器で倒せる相手じゃない!」
村井は唇を噛み締めたが、反論はしなかった。


最終手段:クジラの完全誘導

北村が古文書をめくりながら、顔を上げた。
「赤えいは、クジラを取り込むことで変身のエネルギーを得ようとしている。もしそのエネルギー供給を断てば、進化を止められるかもしれない。」

「それはどうやって?」
西崎が問いかけた。

「簡単じゃないけど……クジラを完全に別の海域に誘導する方法しかない。」
私は深く息を吸い込んだ。
その作戦にはリスクが伴う。

赤えいが誘導を振り切った場合、さらに激しい攻撃が予想される。だが、他に手段はなかった。

「やるしかない。」


最後の賭け

船がクジラの群れに向かい、音波誘導を再び試みる。
だが、赤えいの動きはそれに反応するようにさらに激しくなる。
「赤えいが気付いている!」
西崎が叫ぶ。

赤えいの尾が大きく振られ、船を襲う波が激しさを増す。
水しぶきがデッキを洗い、足元が滑りそうになる。

「持ちこたえて!
」宮田船長が必死に舵を取る中、私は赤えいに向かって再び叫んだ。

「赤えい!ここを通らせない!」
その瞬間、赤えいが水面から完全に姿を現した。

巨大な背中が波間に隆起し、まるで海そのものが盛り上がったように見えた。
背中の突起が山脈のように連なり、その中心にある目が私たちを見下ろしている。

「なんて大きさだ……」北村が呟いた。


クライマックス:浜を守る決意

赤えいの尾が再び振られ、クジラの群れが音波に反応して動き出す。
だが、その中で1匹のクジラが赤えいに飲み込まれるのが見えた。
その光景に、私は全身が震えた。

「次は私たちの番かもしれない……。」

しかし、音波が効果を発揮し始めたのか、クジラたちは一方向にまとまり始める。
赤えいもそれを追い、進行方向を少しずつ変え始めた。

「いけるかもしれない!」
船が全速力でクジラを追い、赤えいを浜から遠ざけようとする。

だが、その成功が約束されたわけではなかった。

クジラたちが音波に従って動き始めた。
それは赤えいを浜から引き離す唯一の希望だった。
だが、巨大な海域を覆う赤えいの動きは徐々に加速し、まるでクジラを意図的に追い詰めるかのようだった。

「追いつかれる……!」西崎がソナー画面を睨みつけながら声を上げる。
赤えいの影がクジラの群れにじりじりと近づいている。

「赤えいは意図的に行動している。」
白石教授が言った。
「奴はクジラを追い込み、効率的にエネルギーを得ようとしているんだ。」

その瞬間、私は直感的に理解した。

赤えいは私たちの動きをすべて計算に入れている。ただの巨大生物ではない。


赤えいとの最終対峙

「奴がクジラをすべて飲み込めば、完全体――オキナになってしまう!」北村が声を震わせながら言った。

「その時、高知だけじゃない……赤えいはさらなる進化を遂げ、人間の存在そのものを脅かすわ!」

「ならばどうする?」
村井が苛立ちを込めて問いかけた。
「これ以上、時間を稼ぐ手段なんて残っているのか?」

私は考えた。
クジラの誘導だけでは赤えいを止められない。
奴は私たちの意図を超えた行動を取る生物だ。

「直接、赤えいに干渉するしかない。」
全員が私を見た。

「赤えいは私たちの行動を理解している。
ならば、その知性に直接訴えかける。
これ以上クジラを追うのを止めさせる方法を探るのよ。」

「赤えいが私たちの言葉を理解するとでも?」
村井が半ば呆れたように言った。

「前にも感じたわ。
赤えいは私たちを観察している。

その目で私たちを見て、行動を見定めている。

あれは敵をただ攻撃するだけの生物じゃない。」


船を赤えいの正面に

「宮田さん、船を赤えいの正面に回してください!」
私は叫んだ。宮田船長は驚きつつも、無言で舵を切った。

「奈央さん、本気ですか?」
西崎が不安げに尋ねる。

「本気よ。これ以上、何もせずに奴を浜に近づけさせるわけにはいかない。」

船が赤えいの巨大な体の正面に出ると、その目が再び私たちを見た。その瞬間、全身が冷たく凍りつくような感覚に襲われた。

「見ている……私たちを。」

赤えいの目には、単なる生物には感じられない、何か奥深い意志が宿っているようだった。

その目は私たちを値踏みしているようで、まるで問いかけられているようだった。


赤えいとの対話

「赤えい!」私は大声を上げた。
声が海に吸い込まれていく。
「あなたの目的は何なの?本当に、浜に上がりたいの?それがあなたにとって最善なの?」

当然、返事はない。
しかし、赤えいの動きが止まった。
巨大な体が波間で揺れ、その目が私たちをじっと見つめている。

「共存できるはずよ!」私は続けた。

「人間とあなたは共に生きる道を探せる。浜を破壊する必要なんてない!」


赤えいの反応

その瞬間、赤えいの尾がゆっくりと持ち上がった。
水が大きく渦を巻き、船が揺れた。全員がしがみつく中、赤えいの目が再び閉じられる。
その動きは、まるで人間のように考え込む様子を思わせた。

「止められる……かもしれない。」
私は確信を持ち始めた。赤えいは私たちの行動に興味を示している。

ただし、それが「共存」に向けた反応なのか、単なる観察なのかはまだ分からない。


浜を守る決断

「もう一度クジラを動かす!」私は西崎に指示を出した。
音波をさらに強め、クジラの群れを沖合に向かわせる。
赤えいは再び動きを始めたが、その方向は浜ではなく、クジラの群れが向かう沖の深海だった。

「赤えいが追いかけてる!」
西崎が叫ぶ。

「これで浜を守れるかもしれない!」北村が希望を込めて言った。


結末への道筋

赤えいの進路が浜から離れたことで、港の危機はひとまず回避される。
だが、赤えいの動きが完全に止まる保証はない。

最終的に、赤えいが進化を止めるかどうかは、人間との対話と、赤えい自身の判断に委ねられる。


赤えいが高知の浜に到達した。
私たちは調査船からその姿を見上げるしかなかった。

その巨体はもはや生物の域を超えていた。
背中の突起が空に向かってそびえ立ち、その広がりは30キロメートルにも及んでいる。
浜辺に押し寄せた波が陸地を飲み込み、近くの建物が次々と倒れていく。

「こんなことが……本当に起こるなんて……。」
北村が震える声で呟いた。

黒く変色した赤えいの体は、異様な光景だった。
表面は膨らんでデコボコになり、その膨らみがどんどん大きくなっていく。

膨らみが破裂するたび、黒い霧と悪臭が周囲に広がった。

その匂いは鼻を突き、喉の奥に刺さるような感覚を残す。

「この匂い……まるで死の臭いだ。」西崎が顔を覆いながら言った。


植物の枯死と動物たちの異常行動

霧が地面に降りると、それが触れた場所の植物は瞬く間に茶色く枯れていった。
近くにいた鳥たちは空から落ち、
犬や猫が赤えいの方へ向かって走り出す。
「何をしているんだ……?」
私は目を疑った。

動物たちは赤えいに引き寄せられるようにその体に飛び込んでいく。そして、赤えいの体に開いた大きな穴に飲み込まれていった。

「まるで、生物を吸収しているみたいだ。」
白石教授が低く呟く。その声には恐怖と絶望が滲んでいた。

動物たちだけではなかった。逃げ遅れた人々が霧を吸い込み、赤えいの方へ向かって歩き出す。
彼らの目はうつろで、誰かに操られているかのようだった。

「止めなきゃ……」私は呟いたが、何もできなかった。

赤えいの力がどれほどのものか、その全容すら理解できていなかった。


赤えいの体の変化

赤えいの体にさらに異変が現れた。
膨らんでいた部分が破裂し、中から新たな突起が伸び始めた。
それはまるで木の根のように地面へ向かって伸び、周囲の土を貪るように吸収していた。

「これは……進化だ。」
白石教授が愕然とした表情で言った。
「赤えいは自分の体を作り変えている。生物や植物、そして人間のエネルギーを取り込みながら、完全な形態――オキナになろうとしているんだ。」

「そんなことさせるわけにはいかない!」

私は叫んだが、その声がどれほど無力に響いたか、自分でも分かっていた。


人々の姿

黒い霧の中、赤えいの体表に異様なものが見え始めた。
それは人の姿だった。赤えいの表面に、まるで浮き出るように人の顔や手足が現れたのだ。

「なんだ……あれは。」
西崎が息を呑む。

「吸収された人たちだ。」
北村が古文書を握りしめながら言った。

「伝承によれば、赤えいは自らの体に取り込んだ生物を使い、新たな生命を生み出すと言われている。」

「新たな生命……?」

「それが何なのかは分からない。でも、この状態では、もう赤えいは単なる生物ではない。存在そのものが変化している。」


都市壊滅の兆候

赤えいの突起がさらに大きくなり、地面を引き裂きながら拡大していく
。その影響で近くの都市が次々と破壊されていく。
道路は割れ、建物が倒れ、逃げ惑う人々が巻き込まれていった。

「これが……人間の力ではどうにもできないものの恐怖なのか。」私は膝をつき、呆然と赤えいを見上げた。


決意の時

「奈央さん、何か手を打たないと……!」
北村が必死に肩を掴んで訴えかけてきた。
その瞳には恐怖とわずかな希望が混じっている。

「でも……何を?」
私は答えを見つけられないまま、赤えいの姿を見つめ続けた。

「奴を止める方法を探すんだ!」白石教授が力強く言った。

「奴の目的が進化なら、その過程を阻害する方法があるはずだ。」


赤えいの体はさらに膨れ上がり、その姿は海洋生物の域を完全に超えていた。
黒く変色した表面は細かくひび割れ、そこから溢れ出る霧と悪臭が空気を覆い尽くす。
近隣の都市は壊滅的な被害を受け、道路は裂け、建物が瓦礫と化していた

「完全に変わりつつある……!」
白石教授が低い声で呟いた。
その言葉は現実を突きつけるものでしかなかった。

赤えいの体表に現れた人々の顔や手足は、苦しむように歪んでいた。
そして、その表面に無数の穴が開き、霧と共に赤黒い液体を撒き散らしている。
その液体が触れた植物は瞬時に枯れ、動物や人々はさらに赤えいに引き寄せられるように飲み込まれていった。


進化の先:赤えいの完全体「オキナ」

突起がさらに巨大化し、まるで樹木が地面から伸びるように広がっていく。突起の先端が絡み合い、円形の構造を作り始めた。
それはまるで、赤えいの「新たな体」の一部となるかのようだった。

「この形、まるで――」北村が何かに気付き、手にしていた古文書を開いた。

「この形、伝承にある『オキナ』そのものだわ!」

古文書に記されていたのは、空を覆うほどの巨大な生物の絵だった。
その体は無数の突起で構成され、その突起が絡まり合いながら膨らんでいく姿が描かれていた。

「オキナ……赤えいの最終形態。これが完成すれば、周囲の生命を根こそぎ吸収し、全てを支配する存在になる。」

「その前に止めなければ……!」

私は拳を握りしめたが、次の瞬間、赤えいの突起の一部が崩れ落ち、その内部が露わになった。


赤えいの内部が見え始める

突起の内部から現れたのは、蠢く無数の「顔」だった。
それらは吸収された人々の顔が重なり合い、痛みに歪んでいるように見えた。

「これは……」
その中には、吉岡の顔もあった。
前回の調査で失った助手だ。彼の目は何も映していないが、口が微かに動いているように見える。

「吉岡!」私は思わず叫んだ。
だが、彼の体はゆっくりと赤えいの表面に沈み込み、再び見えなくなってしまった。

「赤えいは、吸収した命を新たな形に組み込もうとしている……。」

白石教授が歯を食いしばる。

「そんな……そんなことさせてたまるか!」


赤えいの最終形態が現れる

赤えいの膨張は止まらなかった。
その突起が空に向かって伸び、ついに一つに繋がり始めた。
それが作り出したのは、巨大な「円」。

「これは……何だ?」北村が言葉を失った。

円の中央が光を吸い込むように暗くなり、その中で渦巻く何かが見える。
それはまるで新たな生命が誕生する「子宮」のようだった。

「まさか、赤えいは自分の中に新たな生命を生み出そうとしているのか?」
白石教授が驚愕した声を上げる。

「そんなこと……許されるわけがない!」


最終的な恐怖の形

赤えいの全体が完成した姿を現すと、その中心から放たれる黒い霧がさらに広がり始めた。

その霧は毒性を持ち、人々を次々と倒していく。

「もう時間がない!」私は叫んだ。


赤えいの影響範囲は、高知県全域に及びつつあった。
黒い霧はさらに広がり、周囲の植物を枯らし、動物たちを飲み込んでいく。

その異様な光景を前に、私たちは無力感を抱きながらも打開策を模索していた。

その時、突如として届いた一つの報告が、状況を大きく変えた。


放射線と赤えいの拒絶反応

「赤えいの浸食が及ばない場所が発見された!」
北村が、興奮気味に電話を切って振り返る。

「どこだ?」村井が詰め寄った。

「伊方原発よ!赤えいの影響が、なぜか周囲数キロ以内に一切及んでいないそうなの。」

「伊方原発……」私はその名前を繰り返した。

「なぜ、そんな場所だけが影響を受けていないの?」

「おそらく、放射線が関係している。」
白石教授が静かに口を開いた。

「赤えいの生態は未解明だが、どうやら微弱な放射線に対して敏感に反応し、それを避ける性質があるのかもしれない。」

「それが本当なら……」私は小さく息を呑んだ。

「放射性物質を利用して赤えいを閉じ込めることができるかもしれない。」


福島原発からの廃棄物輸送計画

この発見は、政府に迅速に共有された。
内閣は即座に危機管理会議を開き、福島第一原発に保管されている放射性廃棄物を輸送して赤えいを封じ込める計画を立てた。

「放射性廃棄物をヘリで運び、赤えいの周囲に散布する。その影響で奴の動きを鈍らせる。」

「それだけで止められるのか?」
村井が疑念を抱きながら尋ねた。

「封じ込めるのが第一段階だ。」
白石教授が冷静に答える。

「次に、奴の中心部――恐らく心臓にあたる部分に、アメリカ軍の核爆弾を投下する。」

その言葉に、船内の全員が息を呑んだ。


放射性廃棄物の効果

廃棄物を輸送するヘリが赤えいの上空を飛び始めた。

専用の容器に入れられた微弱な放射性廃棄物が、赤えいの周囲に撒かれていく。

「散布開始!」
無線越しに伝えられる指示の声を、私たちは緊張の面持ちで聞いていた。

「効果はあるのか……」私は呟きながら双眼鏡を握りしめた。

その時だった。赤えいの体が微かに収縮し、突起が痙攣するように震えたのだ。
そして、赤えいから広がっていた黒い霧が徐々に後退し始めた。

「効果がある……!」北村が叫ぶ。


封じ込め作戦の開始

全国の原発や保管施設から集められた放射性廃棄物が次々と赤えいの周囲に撒かれていった。
その結果、赤えいの動きは目に見えて鈍くなり、突起の膨張も止まり始めた。

「成功だ……」西崎が安堵の声を漏らす。

だが、私は気を緩めることができなかった。

赤えいの中心部――心臓にあたる部分が完全に停止しない限り、この危機が終わることはない。


最終作戦:核爆弾の投下

アメリカ軍が提供した小型核爆弾を積んだB-2ステルス爆撃機が、赤えいの上空に到達した。
目標は、赤えいの心臓部と推測される中心の円形構造だ。

「投下準備に入る!」
無線越しに響く緊迫した声が、全員の耳に届く

「……これが最後の希望だ。」私は小さく呟いた

爆撃機が赤えいの上空を旋回し、核爆弾を投下する瞬間、赤えいが再び大きく動き出した。

突起が激しく震え、黒い霧が爆発するように噴き出したのだ。


赤えいの最期

核爆弾が赤えいの中心部に着弾した。
次の瞬間、強烈な閃光とともに衝撃波が周囲を駆け抜ける。
その光景は一瞬、私たちの視界を白く染めた。

「成功したのか……?」誰かが呟く。

閃光が収まり、赤えいの姿が見えた。
その体は崩れ始め、黒い霧とともに消えていく。
突起は次々と崩壊し、巨大だったその体はついに跡形もなくなった。

「……終わったのか?」北村が呆然とした声で呟いた。

「……いや、まだ。」
私は目を細めながら答えた。

「赤えいが完全に消えるまで、油断はできない。」


余韻と警鐘

赤えいの遺骸がすべて消えた後、高知県の空は晴れ渡った。
だが、その土地に残った影響――枯れた植物や廃墟と化した都市は、赤えいがもたらした破壊の痕跡を物語っていた。

「赤えいは終わったかもしれないけど……」私は震える声で言った。
「また、同じような存在が現れるかもしれない。」

「その時に備えなければならないわ。」

北村が静かに答えた。


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