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現代版こっくりさん「螺旋の降霊術師」後編~こっくりさんに憑かれし日々~
前回のあらすじ
安喰工平は「こっくり博士」と名乗る怪異研究者だ。
彼の人生は幼少期から始まった「こっくりさん」との不思議な関係に支配されていた。
毎日百回近くの降霊を繰り返す中で、ただの偶然の産物だったはずのこっくりさんが、実際に霊を降ろす手段へと進化を遂げていく。
行方不明者を見つけたり、占いを的中させたりする一方で、工平の体には代償が積み重なり、次第に人ならざる存在に近づいていった。
ある日、学校の同級生である安土綾香からの頼みを拒否したことで事態は一変する。
彼女が呼び出した魔物と、工平が頼りにする名を持つ武士の霊・石田五郎座衛門。
さらに現れた祟り神が織りなす異形の儀式は、二人の命を翻弄する。
今回は、五郎座衛門の協力で祟り神を撃退する、その影響で新たな力と、更なる脅威に巻き込まれる。道を開くにはこっくりさん以外の方法はなかった。
主な登場人物
主人公: 安喰工平(あじき こうへい)
年齢: 16歳
性別: 男性
容姿: やや痩せた体型で、少し猫背気味。黒髪でぼさぼさの髪が特徴。目は大きく鋭いが、どこか疲れたような陰を感じさせる。制服はきちんと着るがネクタイは緩めている。
口癖: 「これもまた、降霊術の一環だ」
好きなもの: 古い降霊術の本、緑茶、静かな場所
嫌いなもの: 騒がしい場所、大勢の人が集まるイベント
性格・背景:一見すると落ち着きのある優等生だが、実は大きな秘密を抱えている。自分の命を脅かす怪異に対処するため、工平に助けを求める。自分の意志をしっかり持ち、危険を恐れない勇気を持つ反面、他人を利用するしたたかさもある。降霊術に関する知識は浅いが、未知の力に対して天性の感応力を発揮する
ヒロイン: 安土綾香(あづち あやか)
年齢: 16歳
性別: 女性
容姿: 髪はセミロングの栗色で、清楚な外見を持つ。目は切れ長で端正な顔立ちだが、どこか冷たさを感じさせる。制服の着こなしは整っているが、いつも首元に黒いリボンを結んでいる。
口癖: 「助けてもらうからね。お願い。」
好きなもの: 花(特に百合)、香水、夜空を眺めること
嫌いなもの: 虫、裏切り、孤独
性格・背景:一見すると落ち着きのある優等生だが、実は大きな秘密を抱えている。自分の命を脅かす怪異に対処するため、工平に助けを求める。自分の意志をしっかり持ち、危険を恐れない勇気を持つ反面、他人を利用するしたたかさもある。降霊術に関する知識は浅いが、未知の力に対して天性の感応力を発揮する。
霊: 石田五郎座衛門(いしだ ごろうざえもん)
年齢: (生前)34歳
性別: 男性
容姿: 実体化すると、古風な武士の姿をしている。黒い着物に鎧をまとい、腰には二本の刀を差している。目つきは鋭いが、どこか厳格な雰囲気を持つ。
口癖: 「忠告を聞け。それが貴様の命を繋ぐ唯一の道だ。」
好きなもの: 鍛錬、義を重んじる心
嫌いなもの: 無謀な行動、裏切り
性格・背景:戦国時代の武士で、主君のため命を捧げた後、封印されていたが工平によって現代に呼び出される。自らの信念に基づき、工平を守る代わりに厳しい条件を課す。降霊術の力の危険性を熟知しており、工平にしばしば警告を発するが、その忠告は軽視されがち。幽霊としての「力の代償」を工平から少しずつ奪う。。
現代版こっくりさん「螺旋の降霊術師」後編~こっくりさんに憑かれし日々~
新たな違和感
「右手は戻ったけど、本当に大丈夫なの?」
綾香が学校の昼休みに俺に問いかけてきた。
彼女の顔には、まだあの日の戦いの記憶が色濃く残っているようだった。
「大丈夫……多分な。」
俺は適当に返事をしたが、自分でもその答えに自信がなかった。
実際、右手に感覚は戻っているが、それは以前のものとは少し違う。
触れるものの温度が妙に鮮明に伝わるし、時折、自分の意思とは関係なく痙攣するように動く。
そして、それ以上に不安だったのは――たまに右手から声のようなものが聞こえることだった。
その夜、俺は部屋に閉じこもり、文字盤を取り出した。
五郎座衛門に話を聞きたかった。
彼が俺の右手に何をしたのか、それを知る必要があった。
「石田五郎座衛門……応えてくれ。」
文字盤に指を置いてしばらくすると、いつものように鉛筆が動き出した。
「どうした」その文字を見て、俺はほっとした。
「俺の右手に刻まれたこの紋様、一体何なんだ? これのせいで変な感覚がするんだ。」
鉛筆は少しの間止まった後、再び動き出した。
「力の源だ」
「力の源って、どういうことだ?」
「お前の命を守るために必要だ。だが、それには代償が伴う。」
代償――またその言葉か。俺の体に次々と現れる変化は、すべて「代償」という言葉で片付けられている気がして、胸がざわついた。
「代償って、具体的に何だ?」
五郎座衛門はそれには答えず、ただ一言だけ残して文字盤から消えた。
「時が来れば分かる。」
現れる異変
翌日、学校の廊下を歩いていると、ふと視界の端に妙なものが映った。
振り返ると、何もない。
ただ、今まで何も見えなかった場所に、うっすらとした影が浮かび上がっているように感じる。
「またか……。」最近、こういうことが増えている。
見えないはずのものが、見えるようになった。
聞こえないはずの声が、聞こえるようになった。
そして、それらの存在が俺をじっと見ているような感覚が付きまとう。
「工平!」振り返ると、綾香が駆け寄ってきた。
その表情は切迫している。
「どうした?」「校舎の裏で、何かがおかしいの。来て!」俺は彼女に促され、人気のない裏庭に向かった。
そこには異様な光景が広がっていた。地面に奇妙な紋様が刻まれ、それが赤く光っている。
「これって……!」一瞬で分かった。それは俺の右手に現れた紋様と酷似していた。
新たな試練の始まり
「何だこれ……誰がこんなものを?」綾香が震える声で問いかけるが、俺にも答えは分からない。
ただ、一つ確かなのは、この紋様が俺を呼んでいるという感覚だった。
俺は無意識のうちに右手を伸ばしていた。
その瞬間、地面に刻まれた紋様がさらに輝きを増し、俺の右手と共鳴するかのように震え始めた。
「工平、やめて!」綾香の声が届く間もなく、俺の意識は暗闇に飲み込まれた。
新たな世界
目を覚ますと、俺はどこか異世界のような場所に立っていた。
空は漆黒で、足元には無数の影が蠢いている。
その中心に立っていたのは、祟り神とは違う、別の存在だった。
「お前は……誰だ?」
その存在は、俺をじっと見つめながら答えた。
「我が名は『結びの王』。貴様の力の根源を司る存在だ。」
「結びの王」――目の前の存在はそう名乗った。
だが、その姿は曖昧で、見るたびに形が変わる。
時には人間のように見え、時には巨大な獣のようにも見える。
触れようとすれば、きっと霧のように消えてしまうのだろう。
「お前が『力の根源』だって? どういうことだ?」
俺の問いに、結びの王はゆっくりと口を開いた。
声は低く、空気を震わせるような響きを持っていた。
「貴様の右手に刻まれた紋様、それは我の力を宿す器。貴様は祟り神を封じるために、己の魂の一部を我に差し出した。」
「俺の魂……?」
「そうだ。そして、貴様の魂と我は繋がれた。故に、貴様はこれからも“繋ぐ者”としての運命を背負うことになる。」
「繋ぐ者……?」
俺は混乱していた。
繋ぐ者とは何を意味しているのか。
だが、その答えを聞く前に、結びの王はさらなる言葉を続けた。
「この力を使うたびに、貴様の命は削られる。だが、その力を必要とする者たちが貴様を呼び寄せるだろう。断ち切れぬ因果に囚われながら、貴様は生きていくほかない。」
新たな使命
「俺にそんな力を押し付けたのか?」
俺は無意識に叫んでいた。その声には怒りと恐怖が入り混じっていた。
だが、結びの王は冷然とした態度を崩さない。
「押し付けたのではない。貴様が選んだのだ。」
その言葉に、俺は言葉を失った。
確かに、祟り神との戦いで俺は覚悟を決めた。自分の命を代償にしてでも、綾香や自分の周りの人々を守ると決めた。
それがこの結果だと言われれば、何も言い返せなかった。
「それでも、これで終わりじゃないのか?」
結びの王は微かに笑ったように見えた。
「終わりなどない。お前が望もうと望むまいと、この力はこれから先も貴様の命を繋ぎ止めるだろう。そして――新たな敵が現れる。」
「新たな敵?」
「降霊術を極めた者にとって、霊的な存在は引き寄せられる。お前の力を奪おうとする者、利用しようとする者、様々な思惑が交錯するだろう。」
俺は息を飲んだ。
祟り神との戦いが終わったと思った矢先、次の戦いが待ち受けているというのか。
「覚悟を決めろ、繋ぐ者よ。」
結びの王がそう告げた瞬間、世界が崩れ落ちるような感覚に襲われた。
意識の覚醒
目を開けると、俺は旧校舎の裏庭に倒れていた。
目の前には心配そうに見下ろす綾香の顔があった。
「工平! 大丈夫? 気を失ってたんだよ!」
俺は身体を起こしながら、右手を見つめた。
手のひらの紋様が微かに輝いている。
それを見て、俺は結びの王との会話が夢ではなかったことを悟った。
「……俺は大丈夫だ。」
そう答えたが、自分の中に芽生えた不安は消えない。
この力が俺をどこに導くのか、その答えはまだ見えなかった。
新たな異変
次の日、学校の中で新たな噂が広まっていた。
ある生徒が突然行方不明になったというのだ。
しかも、その生徒は俺が以前こっくりさんを行った際に相談を受けたことのある人物だった。
「また……か。」
俺の胸に不安が広がる。
降霊術に関わった人々が次々に怪異に巻き込まれていく。
その事実が、俺自身のせいなのではないかという思いを否定できなかった。
「安喰君、どうするの?」昼休み、綾香が心配そうに尋ねてきた。
彼女も噂を聞いているのだろう。
その表情には不安が浮かんでいた。
「俺がやるしかないだろう。」
そう言って俺は席を立った。
自分の力を使うことに恐怖を感じていたが、目を背けてはいけないことも分かっていた。
新たな降霊術
その夜、俺は再び文字盤の前に座った。
祟り神との戦いを経た今、こっくりさんは単なる占いではなく、もっと深い意味を持つ儀式に変わっていた。
「……応えてくれ。俺を助けてくれ。」
鉛筆が震え、文字盤を滑り出す。
今回応えたのは、五郎座衛門ではなかった。
「待ち人」その答えに、俺の胸がざわついた。
「待ち人」とは何を意味しているのか。
鉛筆はさらに動き続けた。
「西に向かえ」
「西……?」
俺はその言葉を反芻した。
次に何が待っているのかは分からない。
だが、この力を背負った以上、俺は進むしかないのだ。
「西に向かえ」と告げられた言葉が頭から離れなかった。
翌朝、俺はいつもより早く家を出た。
学校のある方向とは逆の、西の街道へと足を向ける。
目的地も何が待っているかもわからない。
それでも、この指示を無視するわけにはいかなかった。
街道の先
街道を歩いていくと、次第に周囲の雰囲気が変わり始めた。
視界に入る民家や店の窓が閉ざされ、人の気配が薄れていく。
風の音だけが耳に響き、不気味な静けさが辺りを包み込む。
そして道の先、古びた神社が現れた。
その鳥居は苔むし、境内は長らく手入れがされていない様子だった。
だが、何かがそこにいる――それだけははっきりとわかった。
「ここか……。」
俺が境内に足を踏み入れた瞬間、背後で鳥居が不自然にきしみ音を立てた。
振り返ると、誰もいないはずのそこに影が揺らめいている。
「待っていたぞ、安喰工平。」
影の中から現れたのは、神主の装束を身にまとった男だった。
年齢不詳のその男は、白髪混じりの髪を乱しながら、不気味な笑みを浮かべている。
「……誰だ?」
「私はこの神社を守る者……だった者だ。そして、貴様が来るのをずっと待っていた。」
新たな試練
「俺を待っていたって、どういうことだ?」
問い詰める俺に、男はゆっくりと答えた。
「貴様の力は、結びの王の意思そのもの。
貴様がこれまで呼び寄せてきた者たちの残滓が、この地に集まっているのだ。」
男の言葉に、胸がざわつく。
降霊術で呼び出した霊たちの残滓――つまり、俺が過去に行ったすべてのこっくりさんが、この場所に影響を与えたということか。
「だから何だ? 俺がここに来る意味は?」
男はゆっくりと手を差し出し、その先を指差した。
そこには、朽ちた拝殿があった。
「この神社には、もう一柱の祟り神が封じられている。」
「……祟り神だと?」
「そうだ。貴様が祟り神を倒したことで、ここに眠るものが目を覚ました。放置すれば、この地を呪いと混乱で覆い尽くすだろう。」
俺の右手が再び鈍い痛みを発した。
刻まれた紋様が光り、暖かさと共に重みを感じる。
それが、次の試練を告げているようだった。
封じられた祟り神
拝殿の中はひどく荒れていた。
柱は朽ち果て、屋根からは光が差し込んでいる。
だが、その中心には、異様な気配が渦巻いていた。
「……これは……?」
目の前には古びた鏡が祀られていた。
だが、その表面には無数のヒビが入り、黒い霧が漏れ出している。
その霧が俺の存在に気づいたのか、不穏に揺れ始めた。
「祟り神が封じられていた鏡だ。だが、力の均衡が崩れ、封印が弱まっている。」
背後から男がそう説明する。
「これをどうにかしろっていうのか?」
「お前以外にできる者はいない。」
俺は鏡に近づき、その表面に手を伸ばした。
瞬間、右手の紋様が強く輝き、鏡の中から黒い腕が伸びてきた!「くっ……!」咄嗟に振り払おうとするが、腕は俺の右手をしっかりと掴み、引き寄せようとする。
「この存在が力を奪おうとしている。安喰工平、今こそ覚悟を示せ!」
男の声が遠く響く中、俺は必死で耐える。
右手が焼けるように熱い。だが、ここで退けば全てが終わる――そう思った瞬間、俺の中で何かが弾けた。
覚醒する力
「……やめろ!」
俺の叫びと共に、右手が眩い光を放った。
光は黒い霧を貫き、鏡の中から伸びる腕を一瞬で消し去った。
「これが……俺の力……?」右手に宿る紋様が、ゆっくりと収まっていく。
それと同時に、鏡の表面に残っていた黒い霧がすべて消え去った。
「やり遂げたな。」
男の声が静かに響く。「だが、これで終わりではない。
お前の力は、さらに多くの者を呼び寄せるだろう。」
新たな予感
その言葉を聞いた時、俺は右手の紋様を見つめながら静かに思った。
この力は俺に課せられた試練そのものだ。
そして、これからも祟り神や怪異たちとの戦いは続いていく。
「俺は、この力を使い続けるしかないんだな。」
俺が呟くと、男は微かに笑みを浮かべた。
「その覚悟がある限り、お前はこの試練に立ち向かえる。」
そう言い残して、男の姿は消え去った。
帰り道、俺は背後に誰かの気配を感じた。
振り返ると、綾香が息を切らしながら立っていた。
「工平……何をしてたの?」
「ちょっとな。次に備えて……。」
その言葉に綾香は困惑の表情を浮かべたが、何も言わずに頷いた。
俺たちの戦いは、これからも続く。それは分かりきった事実だ。
話を聞いたのは、学校の帰り道だった。
町の中心を貫く道路工事が始まってから数日後、奇妙な噂が広まり始めた。
「工事現場の周りに人影がたくさん見えるってさ。でも、誰もいないはずなんだって。」
綾香がそう言いながら、不安げに俺を見た。
俺は足を止めて、彼女の話に耳を傾ける。
その手には、どこからか持ってきた地図が握られていた。
工事現場の場所を示す印がついている。
「工事現場って……霊道の交差点だよな。」
俺の言葉に、綾香はこくりと頷いた。「
そう。あそこは昔から霊が行き交う場所だって言われてる。
「でも、工事が始まったことで、その流れがせき止められて、浮遊霊たちが集まってるみたいなの。」
俺は地図を見下ろしながら、右手に薄い痛みを感じた。
紋様がじんわりと熱を持ち始めている。
どうやらこの場所には何かがある。
いや、何かが起きている。
「集まってるだけならいいけど、それだけじゃ済まないかもな。」
霊道の交差点
工事現場は街外れの広い道路沿いにあった。
夜になると機械の音も止み、重機が置かれたままの静かな空間になる。
俺たちが現場に近づくと、すぐに異様な気配を感じた。
「ここ、何かがいる……。」
綾香が肩を抱くようにして呟く。空気が冷たく、胸を締め付けるような圧迫感がある。
それは、祟り神と対峙したときに似た感覚だった。
現場の中央には、闇の中でぼんやりと揺れる光のようなものがいくつも見えた。それは人の形をした浮遊霊だ。彼らは工事現場の周囲をただ漂い、無表情でさまよっている。
「……あれが、集まった霊たち?」
俺が呟いた瞬間、現場の奥から異音が響いた。
それは足音にも似た鈍い音で、何か重いものが引きずられるような気配を伴っている。
「誰かいるのか?」俺が問いかけると、闇の中から巨大な人影が姿を現した。
徘徊する怨霊「声高」
それは人の形をしていたが、異様に肥大化しており、全身が黒い靄に覆われている。
顔ははっきりしないが、
口だけが不自然に大きく開いており、そこから低く濁った声が漏れ出していた。
「聞け……聞け……。」
その声はただの音ではなく、耳の奥に直接響くような不快感を伴っていた。
俺は思わず耳を塞ぎたくなったが、それでも振り払えない何かがあった。
「……声高だ。」
綾香が震えながらそう呟いた。
「声高?」
「あれは、徘徊する怨霊。強い執念で形を保っている霊よ。意志の弱い霊を吸収して、力を増していくって……。」
その言葉の通り、声高は工事現場に漂う浮遊霊たちに向かって大きく口を開けた。
すると、浮遊霊たちは抵抗する間もなく吸い込まれていく。
「おい、止めないとやばいぞ!」
俺は駆け出し、右手を構えた。
紋様が再び熱を持ち始め、力が湧き上がる感覚がした。
「やめろ! それ以上吸い込むな!」
声高がこちらに振り向き、低く唸り声を上げる。
その口元には、吸い込まれた霊たちの姿がぼんやりと浮かび上がっていた。
「聞け……すべては……終わる……。」
戦闘開始
声高が動き出した。
その巨大な手が俺に向かって振り下ろされる。
俺は咄嗟に右手を掲げ、紋様の力を解放した。
「っ……うおおおお!」眩い光が広がり、声高の腕を弾き飛ばす。その衝撃で周囲の地面が揺れ、浮遊霊たちが再び散らばった。
「工平、大丈夫!?」
後ろから綾香の声が飛んでくるが、俺は振り向く余裕もなかった。
目の前の声高は、なおも立ち上がり、さらなる威圧感を放っている。
「こいつ、簡単には倒せそうにないな……!」
俺は右手に力を込め、次の一撃に備えた。
声高との戦いは、予想以上に厳しいものだった。
右手の力を解放しても、その巨大な体にはほとんど傷を与えられない。
むしろ、声高は浮遊霊たちを次々に吸収し、さらに強大な存在へと変貌していく。
「……まずい!」俺は息を切らしながら距離を取るが、声高の攻撃は止まらない。
巨大な腕が地面を叩きつけ、その衝撃で足元が揺れる。
体勢を崩した俺に、声高の巨大な口が迫ってくる。
「くそっ、ここで終わるのか……!」
目を閉じかけたその時、鋭い風が俺の周囲を切り裂いた。
「貴様はいつも愚かだな!」
低く響く声――それは、五郎座衛門だった。
五郎座衛門の登場
五郎座衛門が漆黒の刀を振り抜き、声高の腕を切り落とす。
その断面から黒い靄が立ち上り、声高は低い呻き声を上げて一瞬怯んだ。
「五郎座衛門……助かった!」
俺が声を上げると、彼は険しい目つきで俺を睨みつけた。
「助かっただと? この場に来る前に、こっくりさんを行ったか?」
「えっ?」
「ほら見ろ、何もしておらんではないか!」
彼の怒声に、俺は返す言葉を失った。
「お前の結びの力は、お前を助けるために他の存在を降ろすことができる。
それが霊道の流れを変え、この場を打開する鍵だ。
だが、その力は使い方を誤れば己を滅ぼす!」
五郎座衛門は声高を一瞥し、再び俺に向き直る。
「お前がこの場を乗り越えたいのなら、まずは結びの王に問え。慌てて力を振るうのではなく、結びの道筋を定めるのだ。」
「分かった……やる!」
俺は地面に文字盤を広げ、震える指で鉛筆を置いた。
結びの王のお告げ
「結びの王、聞こえるか? どうすればいい……どうすればこいつを倒せるんだ?」鉛筆がすぐに動き出した。
その速さはいつもと違い、力強く滑るようだった。
そして、文字盤に刻まれた文字が現れると同時に、周囲の空気が一変した。
「待て」その言葉と共に、眩い光が現れた。
光の中から現れたのは、威厳に満ちた存在だった。
その姿は人間のようでありながら、何か神々しいものを纏っている。
「……誰だ?」
「我は、この土地を守る産土神(うぶすながみ)である。」
その声は荘厳で、まるで空間全体に響き渡るようだった。
「お前の行うべきことを告げよう。この地に八方除けの祈祷を行い、霊道を新たに通すのだ。そうすることで、声高の力を弱め、霊たちを解放することができる。」
「八方除け……?」
「我はこの地相・家相・方位に起因するすべての禍事・災難を取り除き、福徳円満をもたらす神である。お前の右手に宿る結びの力を用いれば、声高の霊道を繋ぎ直すことができるだろう。」
俺は緊張しながら頷いた。
「……分かった。やってみる。」すると産土神は、最後にこう告げた。
「ただし、今回の礼として、お前の体の一部をもらい受ける。」
その言葉に、俺は僅かに躊躇したが、覚悟を決めた。
これ以上霊たちを犠牲にするわけにはいかない。
「いいだろう。代償なんてどうとでもなる。」
八方除けの祈祷
俺は右手を掲げ、産土神の指示に従って祈祷を行った。
言葉にならない呪文が自然と口を突いて出る。
それに呼応するように、右手の紋様が輝き、地面に流れる霊道が再び動き出した。
「これで……霊道が通る!」霊道が繋がった瞬間、声高の体が大きく揺れ始めた。吸収されていた霊たちが次々に解放され、黒い靄が晴れていく。
「よし、あと少しだ!」
五郎座衛門が声高に向かって最後の一撃を繰り出す。その刃は声高を貫き、その体を霧散させた。
戦いの後
声高が消え去り、工事現場は静寂に包まれた。
漂っていた浮遊霊たちも、霊道に沿って静かに流れていく。
「……やったな。」
五郎座衛門が息をつきながらそう言ったが、その目にはどこか厳しい光が宿っていた。
「覚えておけ、安喰工平。結びの力を侮るな。力を解放する前には、必ずこっくりさんを行い、結びの王のお告げを聞け。さもなくば、次はお前自身が滅ぶぞ。」
俺はその言葉に深く頷いた。
だが、その帰り道で俺は、自分の左目が見えなくなっていることに気づいた。代償は、今回も大きかった。
こっくりさんを毎日行い、大きな力を使った後、体の一部を失う。体の全てを失った時。
それが、最後の時、待ち望んだ自分自身がこっくりさんで呼ばれる。
霊をとなる。
こっくりさんになりたい男の物語が始まる。