見出し画像

新春ミステリー 『恐怖のジェノベーゼ事件』 このナゾが解けるか?

皆さま、お正月いかがお過ごしでしょうか。
お時間ある方、世にも恐ろしいミステリーに、
ゆるゆるとおつきあいください。

***


さて、あなたは、ジェノベーゼのパスタはお好きですか。

大量のバジルと、チーズや松の実などをすり潰してペースト状にしたものを、パスタにあえた緑色のアレですよ。
こってりとした濃厚なソースで、瓶詰やレトルトなんかで売っているのをよく目にしますね。

ジェノベーゼパスタのイメージ画像


先日、夫とふたりで、とあるチェーン店のイタリアンに行きました。

夫が「魚介のジェノベーゼ」を頼んだのですが、40代くらいの男性のスタッフさんが、
「魚介のペペロンチーニでございます」と言って持ってこられたので、

「頼んだのは、ジェノベーゼです」と夫が訂正しました。


実際、テーブルに置かれたパスタは、見るからにオイルベースの白いパスタだったので、「注文と違うものがきたよ」と、お伝えしたわけです。

運ばれてきたのが、こういう感じのヤツ(イメージ)


「すぐに作り直します」と言われるだろうとみていたところ、

「あ、わたくしが言い間違いをしました。こちらがジェノベーゼでございます。言い間違えてしまいました」


夫「……は??」


『ジェノベーゼでございます』


スタッフさんは、自分が「ぺペロンチーニと言ってしまったことが間違い」で、「これがジェノベーゼで、注文は合っている」と主張したのです。



言っている意味がまったく分からず、夫が再び、

「えーと、そういう問題じゃなくて、ジェノベーゼを頼んだんです。これはジェノベーゼじゃないですよね?」


夫の想像するジェノベーゼ


「いえ、こちらがジェノベーゼでございます」


なぞの『ジェノベーゼ』

イヤ、見た目からして「ペペロンチーニ」だと思うから、スタッフのあなたもそう言って運んできたんじゃないの?


夫「……あー……えーと、これをいただくのは、構わないんですよ。せっかく作ってくださったんだから」


夫はぺペロンチーニも好きなのです。

夫「……でもこれは、ジェノベーゼではないですよね?」


「いえ、ジェノベーゼでございます」



なにこの会話wwww




私は、のびないうちにと、ちゃっかり自分だけ先に、トマトクリームパスタをいただくことにして、このナゾの問答を眺めておりました(笑)

スタッフさんは、日本人ですので、言葉が通じないということはない。

そして夫は「このぺペロンチーニを食べますよ」とも伝えている。

なのになぜ「ジェノベーゼ」だと言い張るんだ!!(笑)

夫「あのあなた、失礼だけどジェノベーゼのソースって見たことあります?」


夫は、まったく怒っていない。
おだやかそのもの。

ただ、夫の頭の中から、大量の「?????」があふれ出ているのだけは、こちらからくっきりと見える(笑)


夫の問いかけに、スタッフが神妙な様子で「はい」とうなずいている。

ジェノベーゼソースを、知っているんだね。
うん。
まずは、そのことが分かってよかった。

では、その上で、なぜこの白いパスタをジェノベーゼだと言い張るんだい?

私は、メニュー表に手を伸ばし、確認してみるも、
「ジェノベーゼ」に関しては、文字情報のみでビジュアルがない。


とにかく、スタッフさんがこれを「ジェノベーゼではない」とさえ言ってくれたら、すべてはクリアになるんだ。
スタッフさんよ、なぜそんなに頑ななんだ(笑)


注文の品が間違っていたことは、咎めていないではないか。

隣の客もチラチラこちらを見始めている。
おそらく何かに難癖つけてる面倒くせー客だと思ってるかもしれんが、そうじゃないんだ、こちらは言葉の合意が図れない恐怖の渦に呑み込まれそうになっておるのじゃ

私は、どうにか目の前のパスタを「ジェノベーゼである」と思ってみようとする……が

イヤ、絶対にムリ(笑)



でもよく見ると、真ん中にちょろっとふりかけてあるのは、乾燥パセリっぽいけど、乾燥バジル……なのかな? 


……だが、やはり「ジェノベーゼ」ではない。
乾燥バジルであえた「バジリコ」でもない。


夫「えーと、あの、もう結構です……とにかく、これをいただきますんで」



夫がそう言うと、店員が申し訳なさそうに去っていった。

***


早く食べないと、のびちゃうよー。

夫が一口食べる

夫「うん、完全なるぺペロンチーニ」


ジェノベーゼでございます♡


夫「でも、まぁおいしいから、いいけどね」

夫が気を取り直して、くるくるとパスタを巻きながら食べ進めていると、少しして、さっきのスタッフさんが再びテーブルにやってきた。

「作り直しますよ」


夫「いえいえ、それはもう大丈夫です。これもおいしいんで……でも今、食べてみましたけど、やっぱりジェノベーゼではないですよね?」


夫も、そこだけは、絶対にはっきりさせたいんだね(笑)

夫の想像するジェノベーゼ


「作り直させてください」と、スタッフが再度言ってくる。


夫「……いや、それはもう結構です、ホントに。これも充分おいしいんで」


なぞのおいしいパスタ

「いえ、お客様が想定された味とは違っているということなんでしょうから、ぜひ作り直させてください!!   3~4分でできますので!」


しつこいなぁ
いいって言ってんじゃんよぉ


ただ……ここまで強くすすめてくるってことは……
次はちゃんとしたジェノベーゼが出てくるってこと?

でも、それじゃあ、なぜこのパスタをジェノベーゼだと言い張るの???

私も夫も、さらに混乱した。

「作り直します!!」


夫「……はぁ……じゃぁ……」

ついに夫がフォークを置いた。

***


数分後。

例のスタッフが意気揚々と、新しい皿を持って近づいてきた。


「お待たせいたしました! ジェノベーゼでございます!」





ドン!

「ジェノベーゼでございます!!」


……は????


こわいこわいこわい(笑)


このビジュアルはイメージ画像なので分かりづらいが、よくみると、皿の底のオイルの中にバジルが浮いている。


……が、一皿目と、さほど見た目の変わらないオイルベースのパスタで、
一般的にイメージされるペーストが絡めてあるジェノベーゼではない。

夫「え……と、これが、ジェノベーゼ……なんですね?」


私たちの混乱は、極まった。

「バジルが薄かったですか?」


夫「……いや薄いとかそういう問題では……」


このスタッフさんは「バジルが薄いか」と何度も訊いてくる。
バジルの量を増やしたところで、このパスタが「ジェノベーゼ」になるかと言ったら、

絶対にならない……
なぜならまったく違うものだから


このスタッフは、なぜ「作り直す」などと言ったのだろう?

作り直してこれならば、最初のパスタもこの店では「ジェノベーゼ」だったのだ。


なぜここまで、あの緑色の一般的な「ジェノベーゼソース」の合意が果たされないのか、もはやカオスである。

「群盲象を評す」ってこういうことを言うのかな。 違うか……

ああ、いとしのジェノベーゼよ、おまえはどこにいる



ようやくここに至って、私たちがイメージする「ジェノベーゼ」の定義が、間違っているのかもしれないとの、疑念が湧いた。


しかし最初のパスタが、本当に「ジェノベーゼ」だったのならば、
「一般的にイメージされているジェノベーゼではなく、これが当店のジェノベーゼなんです」となぜ、一言 言わなかったのだろう?


それとも、さっきのは、やっぱりただの「ペペロンチーニ」だったのか?

そして、今度こそ、これは「ジェノベーゼ」なのか?

わからない
わからな過ぎる

夫が気を取り直して、食べ始める。

名のないパスタ

もちろん、ジェノベーゼの味はしない。
パルメザンチーズも松の実も入っていない、オイリーなパスタなのだから。

私も一口食べてみる。
バジルの香りもなく、ぼやけた味のパスタであった。

(……さっきのぺペロンの方がおいしい)


夫とふたり、こそこそと笑い合いながら、食事を終えた。

***

それから私たちは、テーブルの上で「ジェノベーゼ」について、検索しまくりはじめた。

ジェノベーゼとは、なんぞや。私たちが信じるジェノベーゼは、この世界には存在しないのか


ジェノベーゼで検索すると、やはり、画面はグリーン一面になる……。

それでもしばらく検索し続けると、こんなサイトを見つけた。

えっ! 本場のジェノベーゼは、緑のバジルペーストではない!?


私たちが広く、「ジェノベーゼ」だと思っているものは、正確には「ペスト・ジェノベーゼ」と言うらしい。「ペスト」は「すりつぶす」という意味だそうで、にんにく、松の実、チーズにジェノバ産生バジルをくわえてすりつぶしたソースということ。まあ、バジルペーストってことだよね。

対して、ただの「ジェノベーゼ」は、バジル風味ですらないらしい!?  

なんと言うことでしょう。
「バジルを使わぬ本場のジェノベーゼ」
なるものが存在する!?


この「本場のジェノベーゼ」の味つけは、「牛肉の赤ワイン煮込みソース」といった様相。

えっ!!

じゃあ、さっき出されたのは「本場のジェノベーゼ」……


……では、なかったわ、絶対に(笑)



一皿目は「ぺペロンチーニ」
二皿目は「オイルに乾燥バジルが少々浮いています風 創作パスタ」

***

結局、疑問はひとつも解決せぬまま「まぁいいか」と立ち上がると、例のスタッフさんがレジで待っていた。


会計をしながら、重ねて謝罪をしてくる。


夫も私も、なにひとつ怒ってはいない
ただ、何もかもが解せないだけ

というか……
あなた店長さんだったんですね(笑)


夫はイタリアンの店長さんに向かって
「ジェノベーゼソースを見たことありますか」と問うていたんだね(笑)

(でも本当に、見たことがないのかもしれない……)



最後に店長さんは、私たちに言った


「あの、やっぱりバジル薄かったですか?」



夫が噴き出した。

わたし達は、笑いながら頭を下げて、店を後にした。

外に出ると、冷たい風が吹いていた。
寒いけれど、これまでの混乱を吹き飛ばしてくれるようで、気持ちいい。

パラレルワールドから生還した私たちは、
「今度、絶対、ジェノベーゼを食べに行こう」
そう固く誓いあいながら、家へと帰ったのでした。

『ジェノベーゼでございます』

***

新春から、しょーもない話におつきあいくださり、どうもありがとうございました!
本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

いいなと思ったら応援しよう!

アサ💮自分に「いいね」ができるようになろう
サポートくださる方、いつもありがとうございます。受け取り下手の私ゆえ、チップをお渡しくださる際、なんでもいいのでコメント欄に「あなたのリクエスト」を書いてくださると嬉しいです。例えば「自分の〇月〇日の記事を読んで、いいところを書いて」「今度、〇〇に関する記事を書いてくれ」など^^