<本と映画の答え合わせ>第32回「ロリータ」
【本】
〇タイトル:ロリータ
〇作者:ウラジミール・ナボコフ
〇感想:
・これまでに似たような作品を読んだことがなく、その独特なテーマやアプローチが非常に印象的。物語の核となる主人公ハンバートの異常性に対して共感できる場面は少ないが、それでも彼のような考え方や感情を持つ人物が現実に存在し得るということを認識でき、有益
・こうした倒錯した愛情や感情の背後にある心理を社会がどのように扱うかを考える機会を与えてくれる作品
・ハンバートの内面描写を読み進めるうちに、どこまで彼がナボコフ自身を投影した存在なのか、常に気にかかった。彼の欲望や思考があまりにもリアルに描かれているため、ナボコフの個人的な体験や感情がどこまで影響しているのか疑問を抱かざるを得ない。これが作品の深みを増し、一層引き込む要素でもある
・屈折した自己意識に満ちたハンバートが「ヨーロッパ旧世界」を象徴し、成熟しつつも素朴で無垢なロリータが「アメリカ」を象徴しているという解説には深く納得した。この視点で物語を読むことで、単なる個人の倒錯的な物語ではなく、文化的、歴史的な象徴として捉えられる点が非常に興味深い
〇評価:◎
【映画】
〇ロリータ(1962年)
〇監督、主演:スタンリー・キューブリック監督、ジェームズ・メイソン
〇感想:
・本(原作)ではクィルティの印象が薄く、彼がなぜハンバートに殺害されたのかを明確に理解できなかった。しかし映画を注意深く観ることで、クィルティが物語全体において果たす役割や、ハンバートにとっての脅威が明らかになり、ようやくその動機が納得できた。この点で、映画は本(原作)の補完として機能していると感じた
・ハンバートの自己愛や傲慢さが映像を通じて一層際立つ。性的嗜好に関しては個人の自由があるにせよ、ハンバートの行動はしばしば中年男性のエゴとして描かれており、特に彼の年齢とロリータとの年齢差が強調されることで、視聴者に不快感を与える部分がある。この点に関しては、年齢差が大きすぎる場合、恋愛ではなく支配や搾取の構造が浮き彫りになるように感じた
・監督がスタンリー・キューブリックであることを観賞後しばらくしてから知った。同監督は独特の映像美や構成力等が特徴だが、この作品ではクラシックが流れるわけでもなく、そうした要素が控えめに感じられる。初期の監督作であるためか、彼の後の作品に見られる独特のスタイルがまだ十分に発揮されていないように思う
〇評価:△
【総合】
〇感想:
・冒頭の一文は邦訳に留まらず、原文 "Lolita, light of my life, fire of my loins. My sin, my soul. Lo-lee-ta: the tip of the tongue taking a trip of three steps down the palate to tap, at three, on the teeth. Lo. Lee. Ta. " まで知るべきと思う。原文ならではの響き、まるで詩のようである
・日本では「ロリータコンプレックス」を略した「ロリコン」という和製英語が広く認知されているが、これに対して少年に対して同様の感情を抱く中年男性を総称する用語は見当たらない。こういった性的嗜好は、昨今のLGBTや多様性の推進の流れとは別軸にあり、社会的に公に肯定されることはほとんどないであろう
・特にジャニーズ事務所の問題が報じられたことを受け、少年に対する性的嗜好についても認識され、批判がさらに高まる可能性がある。社会がどのようにこの問題に向き合っていくのか、今後の展開を注視する必要があるだろう
・子供(男女拘わらず)を持つ親は、ハンバートのような性的倒錯者が世の中には一定数存在し、身の回りにいるかもしれないという認識をしっかりと持ち、子供を守る必要がある