あさ
動物とすぐに仲良くなれる女の子が、動物たちの助けを借りながら、友達を助けるために元の世界に戻ろうとする冒険ファンタジー(完結済み)です。
カナイは、ぶら下がった板をにらんだ。板には三重の円が描かれていて、真ん中から一○○、五○、三○と書いてある。五○には青に染められた矢羽が、三○には緑に染められた矢羽が刺さっていた。 「はずしたら、わかってるだろうな?」 低い声で、三つ年上のテンデが笑う。カナイは口をへの字にすると、枝とツルで作った弓を引き絞った。ギチギチギチ、と枝が悲鳴を上げる。狙いを定めて、赤い矢羽を放した。 「痛っ」 バチンという音がしたかと思うと、カナイの腕をツルが鋭く打った。手を放した瞬
あくまでも2人の長寿も長寿の老人を語り手、若侍を相槌役という体で物語れるのが興味深いです(この時代、ファンタジー書いたら地獄行き) 道長マンセーに多少イラッとしつつ(笑)、血が濃すぎないかいらない心配をしつつ(笑)も、個人個人のエピソードがおもしろかったです。 系図は本当に簡易なので、ちょっと不親切に感じるかもしれません。あと、しかたないことですが、敬語がくどく読みづらく感じます。
ファンタジー小説部門と言っても、魔法や竜が登場するわけではありません。 けれども、2人にとって共にある瞬間を迎える大事なものでした。 物語はじっくりと進んでいき、彼等の人間関係、行き違ってしまう思い、読んでる側にも切ないものが積もりましたが、同時に心にじんわりと染みる温かさもありました。 視点変更のあるお話です。 特に最後2話が秀逸で、とても良かったです。
夜が明けると、村の入り口に十人の騎士団員がやって来た。彼等は黒塗りの馬車に、団長とチンとエレを乗せている。 彼等の様子を、カナイ達は少し離れたところから眺めていた。 「カストル兄さんが、遺跡に入る前に、鳥を首都へ飛ばしていたんですって」 「あの人、僕が目の前で変身しても、まるで驚かなかったんだ。つまらないったらなかったよ」 肩をすくめるオークに、シスカは笑った。 「それは、仕方ないわ。うちにはオーク達と同じように、七色の宝石があるのだもの」 「全部、旅の人が
「うわー、最悪だっ。ん? いででででっ。爪っ。爪が刺さってるっ」 いち早く暗闇に慣れたチチが、足でアークを掴んで飛び立ったらしい。チチの羽音と、チチの鋭い爪が背中に刺さって悲鳴を上げるアークの声が、カナイ達の耳に届いた。次いで、団長の笑い声が耳に届く。 「うわはははは、動ける。動けるぞ。今度こそ、池に突き落としてやる」 「痛っ。団長、俺はエレですっ」 闇雲に伸ばされた団長の腕が、エレに当たったようだ。カナイの目はようやく窓の外にある星を捉えられるようになったが、ま
テンデとシスカは、手首と足首を細い縄で縛られていた。本来は、テントを張る時に使用する縄の予備だ。強度が高くて、刃物が無いと切れそうにない。二人が捕まっている部屋の中は既に漁られた後で、いろいろな物が散乱していた。しかし、肝心な刃物が見当たらない。しいて言えば、壁に掛けられた弓矢の矢じりで、縄を削れるかもしれない。 二人が捕まっている部屋の出入り口には、チンとエレがいる。彼等は見張りという役目に飽きてしまったのか、床に座り込んで話に花を咲かせていた。話の内容は、主に団長の
「それより、どうして僕まで、ネズミの言葉が分かるんだろう? ウークは、自分が偉大な魔法使いだからって言っていたけど」 首を傾げるシュリに、アークは寄ってきた頭を避けるように身を低くした。オークは否定するように、手を横に振っている。 『ウークは僕達と同じ、普通のネズミさ。それに、坊ちゃんが分かるんじゃなくて、僕達が坊ちゃんに合わせてるんだ。この石の力でね』 『そうそう。相手の言葉を聞ける耳と、相手の言葉を話す口を持つことができるのが、黄色い石の力なんだ。お嬢さんは黄色い
対してシュリは、カナイ達の反応に目を丸くする。 「ちょっと、みんな。落ち着いて」 シュリがその場をなだめようと両手を挙げた時、彼の背後から金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。シヤークの護衛達だ。鎧の音と、複数人の足音とが、徐々に大きくなる。 シュリは後ろを振り返ると、大きく息を吸った。 『兄上っ。父上も、母上も。申し訳ありませんっ。僕は、カナイと一緒に向こうの世界に戻りますっ』 カナイは目を見開いて、シュリの背中を見た。細いと思っていた幼馴染の背中が、一晩離
紫の光は、アークを包み込んだ後、上へ上へと伸びていった。シュリの母親の身長と同じ高さにまで成長すると、煙のように消え去った。と同時に、アークの姿も無くなっていた。 代わりに現れたのは、もう一人のシュリの母親だった。 『シュリのお母さんが、二人いるっ』 『触れたものの姿に変化できる。これが、紫の石の効果だよ』 花飾りと共に結い上げられた銀色の髪に、シュリにそっくりな細面の顔。純白のブラウスに、つま先まで隠れる黒いスカート。本物のシュリの母親と、彼女に化けたアークは
『じゃあ、そろそろ行こう。お嬢さん』 水面に大きな波紋だけが残されたところで、アークが口を開いた。 『通気溝は慣れているから、任せておくれよ』 『下調べも、ばっちりさ』 二匹のネズミは胸を叩くと、カナイの前を歩き始める。カナイは四つんばいになって、ネズミ達の後を追った。通気溝の中は暗くて、カナイの片手で届く範囲くらいしか見通しが利かない。それでも直線が多く、分かれ道ではネズミが待っていてくれたので、迷うことが無かった。 『入ってきた穴は、地下一階。坊ちゃんの部屋
『チョット、カナイ。何ヲ言イ出スノヨッ』 チチは、羽をばたつかせて抗議する。カナイは、目を伏せた。 昨夜、初めて見たシュリの表情や、彼の母親の涙を、カナイには忘れることができない。もしもカナイが家族と離されたら、嫌だし悲しい。それは、きっとシュリも同じだ。 『私はシュリを助けたつもりだったけど、本当に正しいことだったのかな? 今、家族と引き離しても良いのかな?』 カナイが疑問を口にすると、チチはおとなしくなった。うなだれるカナイとチチを、ネズミ達が交互に見上げる
チチの声に、カナイは渡り廊下の外へと飛んだ。渡り廊下の下を、青い鳥が潜り抜ける。カナイは青い鳥の背中の上に落ちると、首に腕を回した。 『アラカジメ、手綱ヲ付ケテアルノ。シッカリ掴マッテ』 カナイは手探りで手綱を見つけると、両手でしっかりと握った。 『掴んだよ』 『ソレジャ、高度上ゲルワヨ』 青い鳥が大きな翼を動かすと、徐々にカナイの頭が上を向いていく。カナイは落ちないように、手綱を持つ手に力を入れて、鳥の胴に足を回して、必死になってしがみついた。耳には常にゴウ
木の扉が開く音が、塔内に響く。カナイの耳にもしっかりと届いて、目を覚ました。上半身を起こすと、背中や腰が少し痛みを感じる。 階段を上る足音を聞きながら、カナイは頭の上で両手を組んで伸びをした。両手を下ろしたところで、足音が止まる。 『起きていたか。父上がお待ちだ。ここから出ろ』 シヤークは上着の中から鍵の束を取り出すと、一本の鍵を選んで鍵穴に差した。鈍い音を立てながら、鉄格子の扉が開かれる。立ち上がったカナイに、シヤークは護衛から受け取った柔らかい布を投げて寄越し
『宝石が力を持つのは、常識じゃないか』 『そんな常識、私の村には無いよ』 ネズミは大きな口を開けると、手にしていたクッキーを落とした。クッキーが水の中に落ちて、跳ねた水滴がネズミの腹に掛かった。 『そんな馬鹿な。お嬢さんの村は、どんな田舎にあるんだい?』 『確かに、首都から離れてるし、田舎だけどね』 カナイは眉を吊り上げ、口をとがらせた。森の緑が濃くて、川と海の水がきらめいて、風が歌うように吹く、とても大好きな村なのだ。馬鹿にされっ放しのままではいけない。 『
『母上。この者は、私が客室へご案内いたします。どうぞ母上は、シユーリと自室にてお過ごしください』 シュリの母親は、シヤークを見上げて頷いた。 『ありがとう、シヤーク』 シヤークは母親に頭を下げると、護衛の一人を指差して、カナイ用の毛布を持ってくるように指示を出した。護衛は鎧を鳴らしながら、部屋を飛び出していく。 『では、お客人は、こちらへ』 カナイは何度もシュリを振り返ろうとするが、両肩を押さえられていて、うまくいかなかった。それどころか、あっという間に部屋の
シュリは部屋に戻ると、右側の壁を指差した。カナイも窓から身を乗り出すのを止めて、シュリが指を差している壁を見る。文字のような記号のようなものが、青い絵の具で壁一面に書かれていた。 「追われて部屋に入った時は、床に魔方陣が描かれているだけで物なんて無かったし、壁にも何も書かれていなかった」 カナイは、右側の壁に近付いた。途中で椅子の山に腕が当たり、椅子の山が大きな音を立てて崩れた。それでも気にせず壁の前に立ったカナイは、青い絵の具でいっぱいになった壁を隅から隅まで見た。