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こんなとんでもないクオリティなのに一切話題にされてない中国産漫画「BLISS~极乐幻奇谭」が凄すぎるという話

近年、世間を騒がせている中国産の作品たち。
時光代理人」、「羅小黒戦記」、「万聖街」…これらはそのクオリティと話題性から数々の作品が日本語吹き替え、翻訳され、今や「中国産の作品は日本を超えた」などと言われるこの令和の時代。
しかし、こういった作品には「話題になっていないだけで実は面白い隠れ名作」も存在する…

数十年前、中国のとある漫画雑誌にて掲載され、

その壮大なストーリーと設定からかつて中国の子供達を虜にさせたことで噂の漫画作品…

その名も「神契幻奇谭」!!

…おそらくこの記事を見ている日本人はあまりにも知らない作品すぎて困惑していることだろう。実はこの作品、16年前の2008年から中国限定で連載されていた上に一度も日本語訳されたことがない隠れた名作なので知らないのも当然だ。

あらすじは紅軍学院高校中等部にある謎の学生組合「极乐池」からまつわるストーリー。個性的なメンバーが集まるこの組合だが、実はこのメンバーにはある秘密が…

「极乐池」のメンバー6人

本作品は雑誌内の連載作品の中で屈指の人気を誇り、当時の中国漫画界では珍しい約8年間と長期連載した上に、なんと連載終了の1年後にはアニメ化もしたかなりの有名作でもある。(まぁ肝心のアニメはめちゃくちゃ不評だったらしいが…)

そしてその中国漫画業界で異様な振る舞いを見せていた本作のスピンオフに当たるのが、これから紹介する「BLISS~极乐幻奇谭」だ。

一応言っておくが、前作の「神契幻奇谭」を読まなくても、一応設定を大幅に再構築したスピンオフ作品なので、最初から「极乐幻奇谭」を読んでも大丈夫。

設定も一部前作と引き継がれている所もあるが、ちゃちゃっと前作の設定だけ調べて読むなら全然OKだろう。「それでも俺は前作も読みたいんだ!!」という方は、ビリビリ漫画で配信されているので是非とも読みに行こう。↓

ストーリーと主人公が表す物語の魅力

全体のあらすじ

神器戦争」と呼ばれる大規模な戦争による影響で人類が終焉の危機に陥り、壊滅的状況となった世界。そのことを悔やんだ冥界の王は、人類最後の理想郷として、楽園都市「神都朝歌」を作り上げた。

神都朝歌の全貌。高層ビルや建物が立ち並び、かなり発展している

しかしその裏腹、この都市の地下には裕福だろうが貧乏だろうが悲惨過ぎる生活しか出来ず、魔物も跋扈するわで最悪なレベルで治安の悪い都市が置かれている。そしてその街の一角に潜む白髪の痩せた少女…「极乐」が巻き起こす、壮大なストーリーとなっている。(ちなみに「极乐」は日本語で「至福」という意味らしい)

主人公の极乐。彼女の片目には神器の力を大いに発揮できる能力を持つ。

この物語には主に「神器」というアイテムがストーリーを進行させるものとなっている。設定を大まかにまとめると、

神器は中国にまつわる神々や偉人などと契約することで使うことができる
それらと契約するには相手側の精神と自身の肉体を一体化させなければならない(そう契約した者のことを作中では「神识者」と呼ぶ)
種類が様々で、生まれた時期が古い物ほど希少で強力。(階級も色々と分類されているが、色々とややこしくなるので割愛)

…こういった感じだろうか。
そしてこの主人公である极乐は、二人に契約を交わしており、その一人は中国の古代小説「封神演義」に登場する九頭のキジ、胡喜媚(こきび)と、もう一人は誰もが知る「三国志」の英雄、孔明
孔明は分かるけど何で片方がそのチョイスなんだよ」と思う人もいるとは思うが、ネタバレになる可能性があるかもなので詳しくは言わないが実はこの片方が作中で意外と重要な役割になってくるので覚えておこう。

作中の設定に関しては、歴史書や古典文学、神話・伝説などありとあらゆる所にまで史実の設定をストーリーに活かしており、古代からまつわる中国の文化などが細かく反映されているのが本作の見どころだ。

これらの設定事情について、作者であるL.DART氏はこう語っている。
『そんなに沢山のネタが詰まってるなんて、知識が豊富だね』とよく言われることがあるんですが、それは違います。自分の脳内には図鑑、というかインデックス的なのがあるだけです。(中略)
設定には何事にも前後に関連があって繋がってるので、そのためにやるべきことはそれらの情報を整理する事。そして自分の想像を通してそれを繋げれば、一つの物語になるんです。」(「漫者の大陸」インタビュー(一部改変)より)


主人公、极乐の中の『孤独』と『希望』

あぁ 最後まで 私はまた 誰も救えないのか」(作中セリフ和訳)

ガラクタが乱雑する荒地の中で、彼女だけが一人、この場に佇んでいる。
それはまさに、彼女の中の『孤独』を表すかのように…

主人公である极乐は、神器戦争によってかつての仲間達を失った過去がある。自分を信じてくれた存在でさえも消え去り、彼女は永遠に『孤独』という名の荒地を彷徨い続けていた。「もう誰も失いたくない」そんな切実な思いが彼女の中にはあり、それが一番の願いでもあった。だが現実はそんな願いを踏みにじるかのように、数々の壮絶な戦いの末、また誰かが一人ひとり死んでゆく。自分自身を襲う逃れられない「死の運命」には、彼女にとって苦痛で仕方がないものだった。

しかし、その残酷な運命を経験していくうちに、彼女は段々と「生きることへの『希望』」を見出してゆく。時には挫折しながらも、周りの支えや協力によって、また少しづつ、前へと立ち上がる。彼女はそんな『希望』を胸に、一歩ずつ前へと進んでいく

彼女が経験した「絶望」の先にあった「希望」。
その光は、彼女自身が立ち上がるための『道』を指示しているかのようだった

本作はこういった「主人公の成長」というものを丁寧に描き、そしてその想いをしっかりと読者に伝えさせる。この作品が描く、主人公に対しての「希望」や「試練」といったものは、主人公を成長させるための「作者からのメッセージ」のようなものだということを改めて強く感じさせられる


作者 L.DART氏の描く「こだわりのクオリティ」

物語のクオリティは本作の醍醐味とも言える要素で、前作の「神契幻奇谭」の時点でもかなり高かったのだが、本作ではさらに成長を遂げ、(序盤からかなり専門用語は出てくるものの)テンポよく読みやすい構成、そして深いストーリーと共に、特に戦闘シーンで熱量溢れるカッコよさで描かれる見開きは壮大な世界観と微かな中華風味をも感じさせるような圧巻の素晴らしさがある

実はこの見開きも含め、今でも制作は全てアナログで描かれているらしい。凄すぎる…

L.DART氏は典型的なモノクロの漫画制作に強くこだわりがあり、日本の漫画作品にかなりの影響を受けていながらも、作者が描く独創的なストーリーや設定を自ら生み出し、最近では「Webtoon」などの縦読み形式の漫画が主流になっている一方、唯一この作品だけはモノクロ漫画であることを維持し続けているそんな作者の情熱的な想いと才能は本当に評価されるべきだ。

おわりに

いかがだっただろうか。「BLISS~极乐幻奇谭~」は、中国産でありながらかなりの特徴や魅力が多く、作中の物語や設定の素晴らしさ、そして圧巻の作画演出…本当に、ここまでの完璧なクオリティを見せつけてきた本作は、絶対に流行るべき傑作だろう
自分でも「よくこんな名作見つけれたな…」と思ってしまうぐらい、本作はとんでもない作品だ。

現在「BLISS~极乐幻奇谭~」はビリビリ漫画にて連載中。
サイト内では16話まで無料で読むことができるので、試しに読んで凄さを実感してほしい。↓

そしてこの記事が少しでも「BLISS~极乐幻奇谭~」を知るきっかけになれば幸いだ。日本語訳が出ることを切実に願い、待ち続けよう…


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