ふたりの少年の友情が爽やかな感動を呼ぶドイツ映画『はなれていても』≪6/4-10開催!ヨコハマ・フットボール映画祭2022≫
生まれ育った村を失ったサッカー少年が、シリア難民の少年と出会い、友情を深めながら成長する姿を描いたドイツ映画『はなれていても』をご紹介します。
みなさん、こんにちは。ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン第48回を担当します、スタッフの細川です。
サッカーファンのみならず、映画ファンも楽しめるのがヨコハマ・フットボール映画祭の魅力のひとつ。YFFF2022では例年以上に映画ファンにもぜひ観てもらいたい作品が目白押しです!6月の開催に向け、note公式マガジンではあらすじよりも少し詳しくYFFF2022の上映作品をご紹介していきます!
映画『はなれていても』作品紹介
主人公のベンは地元サッカーチームのフォワードで活躍している11歳の少年です。華麗にゴールを決め、チームを勝利へと導きますが、彼にとってはそのチームでの最後の試合でした。褐炭採掘地拡大のため、村の住民たちは立ち退きを余儀なくされ、ベンの家族は離れた街への引っ越しが決まっていたのです。
仲間たちと離れるのは寂しいものの、少なからず新しい生活への希望を持っていていたベンに対し、姉のイザは納得しないまま家族は新しい街へとやってきます。しかし、ベンは転校初日からクラスのいじめっ子たちの標的にされてしまいます。そして、サッカーチームにはフォワードの空きがなく、ディフェンダーを命じられてしまうのでした。
その後間もなく、シリア難民のタリクが転校してきます。席はベンの隣。タリクと仲良くなりたいわけでもないのに、新入り組で括られて見られることはベンにとっては不本意でしたが、周りを見回してもひとりぼっちなのはベンとタリクだけです。サッカーチームでもストライカーとしての力を発揮することもできず、かつてのチームメイトとのビデオ通話だけが心の拠り所でした。
それでも毎日顔を合わせている内に、ベンとタリクは徐々に打ち解けていき、ベンはタリクの故郷であるシリアのことにも興味を持ち始めます。タリクもサッカーチームに入り、見事なボールさばきでチームに歓迎されるのでした。
仲良くなっても自身のことを多くは語ろうとしないタリクでしたが、やがて、シリアで体験したこと、彼の置かれている状況についてベンに打ち明けます。
タリクの深い哀しみと傷を知ったベンは、ある秘密の計画を思い付きます。さらに、授業中に咄嗟にベンが発した言葉をきっかけに、クラス全体が一丸となってあるプロジェクトに取り組むことになります。
ベンの思い付いた2つの計画は同時に進行していくのですが……
ドイツ、ヨーロッパ映画で描かれること
ヨーロッパの映画を観ていると、スタジアムに出かけたり、カフェやバーでテレビの前に集まって観戦したり、家庭のテレビで流れていたりと、ストーリーの本筋に関係なくサッカーが登場することが多く、日常の風景に溶け込んでいる文化なのだと感じます。
そして近年のヨーロッパ映画に多く見られるのが難民、移民の存在です。ヨーロッパ内でもドイツは最大の難民受け入れ国ですが、ドイツ以外のヨーロッパ映画でも、そのものをテーマとして問題提起をしている作品だけではなく、日常としても描かれるようになってきています。
また、子ども向けの映画は日本では制作も公開される海外作品もアニメ作品が多いのが現状です。一方、ヨーロッパでは子ども向けの実写ドラマも多く制作され、賞のカテゴリーとしても設けられています。本作は2019年のドイツ映画批評家賞でBest Children's Filmを受賞。そして、2021年にはウクライナ最大の映画祭である、モロディスト・キーウ国際映画祭でTeen Screen Competitionを受賞しています。本作を評価した映画祭の開催地が、今、ベンやタリクのように国民が地元を離れなければならない状況にあることは、とても哀しい出来事です。
ドイツの炭鉱事情
ベンが住んでいたニーダーキルヒバッハは架空の村ですが、村のあるノルトライン=ヴェストファーレン州のルール地方はルール炭田を中心としたヨーロッパ最大の工業地帯になっています。また、ブンデスリーガのボルシア・ドルトムント、FCシャルケ04の本拠地でもあります。鉱山は200年以上地域の人々の生活に密着した産業だったため、2018年のドイツ最後の炭鉱「プロスパー−ハニエル炭鉱」の閉山を惜しむ声も多く、両クラブでは労働者たちを試合に招待したり、感謝のメッセージが書かれたシャツを着たそうです。
炭鉱は2018年にすべて閉山しましたが、褐炭の露天掘はまだ行われています。ニーダーキルヒバッハは露天掘の対象地区で、住宅地の向こうでは露天掘が進んでいます。ベンはその様子を眺めながら掘削機(バケットホイールエクスカベーター)をかっこいいと思っていますが、姉のイザには嫌悪感しかありません。褐炭はCO2の排出量が多く、また、露天掘は森林の伐採や住民が立ち退きが行われるため、環境活動家たちによる反対デモも行われています。イザも「露天掘反対」のバッジを付け、ステッカーを持ち歩いています。
出会いと別れを繰り返し、人は成長していきます。フォワードにこだわり、新しいチームでワンマンプレーに走ってはチームの輪を乱していたベン。心を開けず伏し目がちだったタリク。このふたりが出会い、友情を深めることで起きる奇跡をぜひ多くの方に見届けてもらいたいな、と思っています。
日本語字幕での上映になりますが、難しいセリフはないので、ふたりと同じ小学校高学年くらいから問題なく観られると思います。
「ヨコハマ・フットボール映画祭 2022」は6/4(土)-5(日)にかなっくホール(東神奈川)、6/6(月)-10(金)シネマ・ジャック&ベティにて開催します。初の夏開催になります。開催に向けてYFFFの情報も発信していくのでご注目ください👀
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