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[推薦図書]喫茶おじさん(原田ひ香)


はじめに

原田ひ香さんといえば、定年前後の残念な旦那さん、いろんなことに疲れてる旦那さんと同世代の奥さん、冷静で頭が良く、マネーリテラシーが高い子供たちを中心とした作品が多いです。

「三千円の使い方」は、大ブレイクして映画化もされましたね。

近くの図書館では予約ランキング第一位(゚Д゚)

本書「喫茶おじさん」も「三千円の使い方」と似たようなノリですので、
従来の原田さん的な世界観が好きな方には大変おすすめできる作品です。


JTC等の無能な管理職が早期退職

本作品の主人公こと大企業を早期退職した松尾純一郎さん(57)は、
JTC等の大企業にお勤めの無能な管理職でした。

年功序列制度のお陰で、無能ながらも、管理監督職に昇格した純一郎さん。

みんながみんな、島耕作のような役員になれる訳ではありません。

年齢だけで得た管理職の椅子ですから、役員クラスへ出世できる見込みもなく、割増の早期退職金をもらい退職することを決断。

定年の六十まで働いたら退職金は三千万くらいになると純一郎は胸算用していた。それに二千万のプラス。五千万が今すぐに入ってくることになる。

喫茶おじさん、原田ひ香、49ページ

これ以上出世の見込みがないこともよくわかっていた(中略)たぶん、次の異動あたりで適当な閑職を与えられ、定年を待つことになるのだろう。

喫茶おじさん、原田ひ香、51ページ

あー、いますいます。
JTC等で係長職している30代の私が、よく目にする耳にする状況です。

「次の異動あたりで適当な閑職を与えられ~~」と、
自分の立ち位置を理解している部分だけが救いですね。

――米国株の投信にぶち込めば、年最低でも二百万の収入になる。働けるうちは別のところで働いて、年金もらえるようになったら悠々自適。俺なら一瞬で辞めるね

喫茶おじさん、原田ひ香、49ページ

純一郎さんとしては面白くないというニュアンスで表現されていますが、
かなり現実的で良いアドバイスだと思います。

まあ、五千万あれば様々な選択肢が取れますね……
と思い読んでいると、何をトチ狂いだしたか純一郎さん、
人生の終盤で大博打を始めてしまいます。


元無能な管理職が喫茶店経営 ➡ 即閉店

奥さんから「絶対に」辞めるよう強く説得される純一郎さん。

大企業だからこそ、あなたのような性格のいい、おっとりした人でも成果を上げられるの。店をやるなんて、無理。

喫茶おじさん、原田ひ香、50ページ

あなたは大企業しか知らない世間知らずなんだから勘違いしてはいけない。

退職金で店なんて開いたら「絶対に許さない」と釘を刺されますが、
そこは頭がお花畑の、元無能なJTC等の管理職(純一郎さん)です。
読者の期待(?)を裏切りません。

店は半年で潰れ、退職金の半分を溶かしました。
奥さんは愛想を尽かしたので別居生活が始まります)

 lol

思い返せば、私の先輩にも似たような方がいましたね~~。

地方自治体職員(市職員)として20年務めた後に早期退職、
未経験ながらも「酒が好きだから」という理由のみで焼鳥屋を始めた人。

JTCで30年務め定年退職した後、
未経験ながらも「蕎麦が好きだから」という理由で蕎麦屋を始めた人。

……

……1年持ったかな?


原田先生の十八番はドライな奥様

原田先生の作品には、ドライな奥様が欠かせません。
「どうしようもない旦那様」か「性格の悪い姑」が登場するからです。

👆川島れいこ先生の嫁姑バトル漫画を脳死で見るの好きです👆

ドライな奥様方は、長らく専業主婦として暮らしていても、
従来の人間力、コミュ力を活かして自立するという展開が十八番です。

起業なんてしたら「絶対に」許さない(怒)と捨てセリフを残し、
別居後、久しぶりに再会しての会話です。

「私、仕事が決まったのよね」
「え」
「仕事。昔の友達が自宅で服飾の通販の会社をしてて、手伝って欲しいって言われてる」
――中略――
「じゃあ、認めてくれるでしょ? 離婚(中略)もう卒業したいの。妻という役割や人生から」

喫茶おじさん、原田ひ香、117~119ページ

自分のところに戻ってくるのかな~と考えていた純一郎さんですからね。

調子乗ってた旦那様を叩きのめす! という(原田先生としてはよくある)展開が、世の奥様方に受け入れられる秘訣なのかなあ、と思いつつ読ませていただきました。


残念なのは「喫茶シーンが長すぎる」

タイトルに「喫茶」とあるとおり、
内容の3割位は喫茶店と食事に関する事柄です。

全体的に読みやすい文章で書かれているとはいえ、
私は途中で飽きてしまいました😢

喫茶店のメニューがストーリーに与える影響は少なく(ナポリタンくらい)
飛ばし読みしても問題ないと思う次第です😂ゴメンナサイ 


何もわかっていない純一郎さん(57)

本作で一番面白い部分であり、原田先生の上手さを感じる部分です。

何度も繰り返し登場するフレーズ、
――「あなたは何もわかってない」。

読み終わる頃には、読者も口にしたくなるほどに腹立たしい存在。
それが純一郎さん、57歳(無職)。

主人公の娘である亜里砂は大学2年生。
別居中の妻と半年前から同居しています。

純一郎は数ヵ月ぶりに亜里砂から呼び出されて、
池袋の喫茶店でコーヒーを飲みながら雑談をしている最中、
「お父さんって、本当に何もわかってない」と言われ困惑してしまいます。

「あいつの気にさわるようなことを言ったわけでもない」という思考。
おおお、愛しき無能なおじさん! 

早期退職金を半年で溶かして、再就職もままならず、奥さんに愛想を尽かされているお父さんに「社会人とは~~」って言われても、です。


おわりに

原田先生の作品は、垣谷美雨先生、中園ミホ先生、田嶋陽子先生あたりと同じクラスターだと思いますので 👵ジョセイノジンケン 
基本的に女性優位の作品が多くなります。

おもしろおかしく読める人には推奨しますが、あんまり自分の人生を上手に運べていないおじさんは読まない方がいいかもしれませんね。
涙が止まらなくなるかも……

奥様は専業主婦から自立して、第二の人生に突入です。
このクラスターは老後おひとり様の確率が高いですね。
夫の墓には入らなくてすみそうですね!

図書館の貸し出しランキング上位に食い込んでいるところを見ると、
主婦層に大変人気があるのだろうと予想しています。

JTC等に勤めている30代、40代男性にも読んでいただきたいです。
これは能力がないのにプライドだけ高いおじさんの人生失敗事例です。
マネーリテラシーの重要性は元より、会社や結婚、子供、老後について、少し考えてみるきっかけになるかもしれません。

50代、60代女性で、純一郎と似たような旦那をお持ちであれば、
ストレス発散代わりに読むのもお薦めです。
「家の旦那も本当にどうしようもないのよ~~」とか言いながら。



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