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大学生が読んで面白い『トランプ王国の素顔』立岩陽一郎

トランプ大統領支持者はどんな人でどんな考え方を持っているのだろう
トランプ政権が設立された時、アメリカ合衆国に住む人々はどんな意識で生活をしていたのか
と考えたことはないだろうか。
トランプ主義者と聞いて「トランプ主義の白人」というステレオタイプを思い起こした人もいるだろう。では、「トランプ主義の白人」とは具体的にどんな人間なのか。人種差別主義者なのだろうか。

これらの疑問に対する一つの例としての答えを知ることができるのが、この『トランプ王国の素顔』という本である。

初めて題名を見たときはトランプ政権批判の色がかなり強い本なのかと思ったが、著者が実際に経験した事実を書いたものであり、思考が強要される感覚は全くなかった。
NHK退局直後の17年1月からアメリカに渡り、トランプ政権設立時のアメリカの様子を取材し、見聞きしたことをこの本では綴っている。

著者紹介

立岩 陽一郎(たていわ・よういちろう) 
1967年、横浜市生まれ。91年、一橋大学卒業、NHK入局。テヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクなどを務め、その間、中央官庁の恣意的な随意契約の実態や、化学物質による胆管がん多発事件などをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に携わった後、2016年12月末にNHKを退職し、フリーランスとして独立。

(『現代ビジネス』2016年から引用 )

立岩さんの文章は取材する中での不安や緊張がこちらにも伝わってくるため、内容の濃さや読み易さもさることながら、フィクションを読んでいる時のようなワクワク感があった。

素顔

題名に用いられているこの「素顔」という言葉の通り、この本は生活している様々な人の様子や考え方を、一般化することなくそのまま描いている。バスの中で話しかけた女性、50歳以上の人を対象とした求職イベントで出会った男性、デモに参加していた少年など、本書の中で出てくる人物は皆本名で掲載されている。顔写真が載っている場合も多く、「素顔」であるように感じた。

私たちは人種差別主義者ではない。

著者はオハイオ州で取材を行う間、友達一家の家に滞在しており、筆者の友達の妻である白人の中年女性はトランプ政権を支持していた。

しかし、彼女はよく「トランプ主義の白人」という言葉から抱く人種差別的な考え方を持っていないという。

親の仕事の関係で子供の頃に中南米の各地で過ごした経験を持ち、母語の英語だけでなくスペイン語も達者な能力を活かして米国にお金を稼ぐためにやってきたメキシコ人に仕事を手配する仕事を行っていた。しかし、家族と離れ離れになってまで米国に来て安い賃金で買い叩かれ苦しむメキシコ人の姿を見て、米国に来ても社会の底辺に近いところで苦しむだけではないかという思いを持つようになった。この思いからトランプ大統領のメキシコ人を追い返すという主張に賛同したかは明記されていなかったが、「トランプ主義の白人」という言葉が持つ排他的な印象が全員に当てはまるわけではないことがわかった。

「大統領のホテル」に潜む矛盾

この矛盾についてはぜひ本を読んでみて欲しい。ホワイトハウス近くのトランプ大統領が経営する「トランプ・インターナショナル」という超高級ホテルに筆者が滞在した際、客室内である大きな矛盾を発見したのだ。このホテルでの章は全体的にハラハラしたりと、読んでいて大変楽しかった。


私が本書を読んで面白いと思ったエピソードの中の二つを紹介した。これまで持っていたアメリカ内の反応に対して予想通りなことも意外な点も両方あった。
いつもメディアを介して情報を得ているため、実際にそこの当事者が感じていることと違うことを自分は聞いていることがよくわかった。外から見るからこそわかることもあるだろうが、内部からしかわからないことがあるということを再確認した。

題名 トランプ王国の素顔ー元NHKスクープ記者が王国で観たものはー
著者 立岩陽一郎
出版 あけび書房
第一刷発行日 2018年6月1日

↓以下リンク 立岩さんが編集長を務めるNPOメディア「インファクト」

著 璃子

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