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瞑想と免疫力:ストレスは炎症や発熱を引き起こす?

これまでのこの記事では“瞑想は脳科学的に良い”、”瞑想で脳内ホルモンが増加”というような健康に良い効果を紹介してきました (*1, *2, *3)。瞑想で精神的に良い状態になると脳内物質もセロトニンやオキシトシンといったホルモンが分泌されて抗不安作用や抗ストレス効果が現れることを紹介してきました。

では反対に心の中が“ストレス状態”であった場合はどうなるでしょうか?

当然ながら精神の状態が良くないと身体の調子も良くないです。しかし、身体の調子が良くないと感じるのは“気分がすぐれないから不調に感じる”のか、“実際に体内に悪い物質が出現している”のか、どちらでしょうか。


今回は、“心の中がストレスフリーの状態”の場合と、“心の中がストレス状態”の場合で身体的には何が違うのか“物質レベルでの違い”について解説していきます。


・転写因子“NF-κB (エヌエフ・カッパビー)”

今回注目する物質は“NF-κB (nuclear factor-kappa B)” という物質で“転写因子(てんしゃいんし)”という仲間に入ります。

転写因子 (transcription factor) とは、細胞核のDNAの特定の場所に結合してそこに組み込まれている遺伝子をコピーする役割を持っています。Figure 2に示すように NF-kBがDNAのある部分に結合するとその領域にある遺伝子からメッセンジャーRNA (mRNA)が合成され、それを元に特定のタンパク質が合成されていきます (*4)。



・NF-kBが合成する遺伝子群

転写因子は数多く種類がありますが、各々の転写因子はどのような遺伝子群を制御するか、それぞれ役割があります。

NF-kBの場合はFigure 3に示されていますが、非常に多くの遺伝子を制御している重要な因子であることが分かります。Figure 3上段を見ると、NF-kBが作用する細胞はT-リンパ球 (T-cell)、マクロファージ (macrophage)、白血球 (好中球:neutrophil) 、樹状細胞 (dendritic cell)、などいずれも免疫細胞であり、“NF-kBは免疫力の制御に大きな役割を持つ”ことが分かります (*4)。

“細胞生存 (Cell survival)”、“細胞増殖 (Proliferation)”、“血管新生 (Angiogenesis)”など様々な機能調節を行っているNF-kBですが、今回は特に“炎症反応・発熱 (Inflammatory response)”等の機能調節とこれらに関わるサイトカイン (調節因子, Cytokines) に注目していきます (Figure 3赤丸)。


・脳による2つの免疫調節機構

免疫機能は周囲の環境によって調節を受けます。周囲の環境を知覚(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)し、情報を統合してポジティブやネガティブな気分を感じるのが私たちの意識や脳です。そしてストレスを受けると脳から刺激が伝達され身体の各部位で免疫反応が調節されますが、以下に挙げるように主に2つの経路が知られています。


a. 視床下部ー下垂体ー副腎系 (Hypothalamic-pituitary-adrenal axis)
Figure 4左側に示されていますが、ストレスを感じると視床下部が刺激され、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が分泌され副腎からコルチゾール(副腎皮質ホルモン)が分泌されます。過去の記事 (*6) でも紹介していますがコルチゾールは“ストレス応答ホルモン”とも呼ばれていてストレス環境に適応しようとするときに分泌されるホルモンです。

このホルモンの場合は炎症から身体を守るため、あるいはエネルギーを別の方へ向けるために、炎症を抑える方向(NF-kBも抑えられる方向)に働きます。よく知られているのが“ステロイド治療薬”で、抗炎症薬としてリウマチを含め炎症性疾患の治療によく用いられています。白血球やリンパ球の働きが抑えられるために細菌やウイルスに対する抵抗力は弱まります。

b. 交感神経系 (Sympathetic nervous system)
もう一つの経路がFigure 4右側の交感神経系でありこちらは“緊急事態/興奮状態”のときに発動する経路です。例えば“山で熊に遭遇した時”、“頭に血が昇って興奮した時”など高度の緊張とストレスによって脳から副腎が刺激され副腎からアドレナリンが分泌されます。その際に身体には血圧上昇/心拍数増加、呼吸数増加、瞳孔散大など自己防衛のための変化が起こります。

このとき、免疫機能としては骨髄造血の増加、ナチュラルキラー細胞やマクロファージの動員が増え、転写因子NF-kBが活性化し、炎症性サイトカイン (インターロイキン:IL-1β、IL-6、腫瘍壊死因子TNF)が増加することが報告されています (*7, *8)。つまり交感神経系では炎症は強くなる方に制御されます。(但し、インターフェロンを介して抗ウイルス免疫は低下します。)

このように、脳(CNS: central nervous system)からのストレスは a. HPA (視床下部・下垂体・副腎)系からのストレス反応と、b. 交感神経系からのストレス反応の二通りが知られています。炎症反応に関してはa. HPA系が炎症抑制的に働き、b.交感神経系が炎症増加の方向に働き制御されていると考えられています(Figure 4)。


・実際に急性期ストレス反応を調べた実験結果

実際に人にストレスを与えてNF-kBやストレスホルモン(コルチゾール、アドレナリンなど)を調査した研究があります(*10)。ストレスを与える方法は“トリーア社会的ストレステスト (Trier Social Stress Test *9)”というもので、“約15分間、数名の他人の前で準備してスピーチを行う”という嫌な緊張感を味わうストレステストです (Figure 5上段)。

19人の健常参加者によってストレステストの直前、直後、60分後など決められた時間に採血され解析に用いられました(*10)。結果はFigure 5下段にあるように左側がコルチゾール、右側がアドレナリンの変化グラフです。

Figure 4でも出てきた2つのストレスホルモンのコルチゾールとアドレナリンですが、Figure 5下段グラフで見ての通り、非常に分かりやすくストレステスト直後に上昇しています。そして、ストレステストが終わって約60分後にはほぼ元のレベルに低下することがグラフに示されており、このホルモン上昇がストレスによるものであることが裏付けられています。


・ストレス急性期にNF-kBが3.5倍増加!

NF-kBはFigure 4にあるように白血球や免疫細胞で活性化されるため、被験者の血液から抽出された末梢血単核細胞 (PBMC: リンパ球、単球、等を含む白血球成分)から計測されました。結果はFigure 6左グラフの通りで、ストレステスト直前の量を100%とすると、ストレステストの10分後は340%に増加していることが分かりました。

驚くべきことに精神的に感じたストレスは数分以内に身体的変化を引き起こすことが分かりました。さらに血液中の白血球や免疫細胞も10分程度でNF-kBが活性化され、炎症誘発物質が合成されることが示されました (Figure 6)。そしてストレステストから60分後にはまた下がっていることから、NF-kBの上昇はストレスに対する急性期反応であることが分かります。

この結果から、ストレス刺激を受けると短時間でストレスホルモンが分泌されることが分かりました。さらにその影響を受けて末梢血中の白血球やリンパ球でNF-kBが3倍以上に増加することが示されました。これが“ストレスが炎症を悪化させる”一つの根拠と言えます。

・長期的ストレスでも炎症性サイトカイン増加

次は慢性的なストレスなど長期に及んだ場合にどのような変化が起こるかを解説します。これまでの研究では長期的なストレスでもインターロイキン (IL-6, IL-1β等)や腫瘍壊死因子 (TNF-α等)といった炎症性物質が増加することが確認されています(*11, *12)。

ある動物実験ではマウスに6日間の長期ストレス刺激を与えたところ、ストレス群では対照群 (Control) に対してIL-6やTNF-αが有意に増加していることが確認されました (*12)。Figure 7に示されるようにストレスを与えたマウス(SDR)が対照群 (HCC) に対して明らかにIL-6、TNF-αが増加していることが分かります。

Figure 3, 4 に示されているようにIL-6やTNF-αは転写因子NF-kBで合成される遺伝子群なので、NF-kBが増加していることも示唆されます。


・長期ストレスによる変化(2):NF-kB抑制の低下

さらにストレスが長期化した場合、HPA経路によってコルチゾール(副腎皮質ステロイド)が分泌しているにもかかわらずNF-kBの抑制が働かなくなります(Figure 8左下)。繰り返しのストレスによってコルチゾールの分泌が多いにもかかわらず、転写因子の抑制が効かなくなる“脱感作 (desensitization) ”という現象が起こります (*11, *13)

こうなった場合、今までは“炎症の引き金になるNF-kB”を抑える経路 (a) と増加させる経路 (b) がバランスを保っていた(Figure 4)のですが、反復的ストレスで“NF-kBを抑える機能が弱まった”結果、炎症を増加させる方へ傾く方にシフトします(Figure 8)。

・ストレスが多い人は実際に体調も悪い

これらの検証結果など今まで分かっているエビデンスを考慮すると、短期的ストレスでもNF-kBや炎症物質が増加し、長期的ストレスに曝された場合でもやはりNF-kBや炎症物質が増加するようです。これらの知見から、「ストレスを抱えている人はいつも体のどこかを痛がっている」「悩みが多い人はいつも風邪で調子を崩している」というのは「気のせいではなく実際に体内で免疫バランスが崩れ炎症反応が起こっている」と言えそうです。“瞑想などで精神状態を良く保つことの大切さ”をぜひ頭に入れておきましょう。


・今回のまとめ

 ・精神的ストレスでHPA(視床下部〜副腎)系と交感神経系の2つの系が活性化
 ・HPA系では副腎からコルチゾール(ストレスホルモン)分泌
 ・交感神経系では副腎からアドレナリン(ストレスホルモン)分泌
 ・アドレナリンはNF-kBを活性化して炎症を誘発
 ・コルチゾールはNF-kBを抑制して炎症を抑える
 ・ストレスホルモン(コルチゾール、アドレナリン)は10分程度でも増加する
 ・短期ストレスでNF-kBが活性化され炎症が増加する
 ・長期ストレスでも炎症物質が増加(NF-kB増加)
 ・長期ストレスではコルチゾールの炎症抑制機能が低下する
 ・結果的に短期でも長期でもストレスは炎症を増加させる
 ・炎症誘発物質はIL-6やTNF-αなど(他多数)
 ・炎症誘発物質を制御する転写因子がNF-kB
 ・ストレスケアは健康維持の重要な要素


・形而上学的に観たストレスと身体の関係

形而上学の法則にヘルメスの第二法則:“一致の法則 (The Principle of Correspondence, *14)”というものがあります。言い換えると“上なる如く、下もまた然り (As Above So Below, *15)”ということであり、“上と下(対になる二つの側面)は一致する”ということを意味しています。これを人間のこころと身体に置き換えると、“あなたの内面(非物質的側面)や精神の状態はあなたの外面(物質的側面)や身体の状態と一致する”ということを表しています。

以前は“ストレス”というと“気の持ちよう、気分が良くないから体調も悪く感じるのだ”と精神論で片付ける考え方が多かったと思います。しかし今回のように“ネガティブな精神活動が脳を介してホルモンを分泌させ、NF-kBのような物質を介して炎症物質を増やす”、ということが科学的に実証されるに至っています。

上に挙げたヘルメスの形而上学的な法則は数千年も前から伝えられているものですが、この世界におけるあらゆる事象に通じる法則です。これまでも何度かこれらの法則を引用していますが、科学が発展した21世紀においてそれが破られるどころか、この非科学的な古い法則を裏付けることが次々と明らかになっています。“宇宙も人体も科学も形而上学的な法則の上に成り立っている”ということを覚えておきましょう。

今回は“精神的に良くない状態ではNF-kBを介して炎症が誘発され免疫状態が良くない方向に変化する”ということが科学的に示されました。それでは“どうしたらNF-kBによる炎症反応を抑えられるのか”、“精神面が良い状態ならNF-kBや炎症物質を介した免疫反応に良い変化が起こるのか”、ということを検証していきたいと思います。忙しくてストレスが多い人ほど瞑想を行うことが勧められます。

(著者:野宮琢磨)2025.1.19

野宮琢磨 医学博士, 瞑想・形而上学ガイド
Takuma Nomiya, MD, PhD, Meditation/Metaphysics Guide
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用/参考文献

*1. ”幸せホルモン(脳内物質セロトニン)”を増やす方法. https://note.com/newlifemagazine/n/nb00026449c2d 
*2. リラクゼーション瞑想と脳内物質ドーパミンについて. https://note.com/newlifemagazine/n/n67caa776ea39 
*3. オキシトシンの抗ストレス作用と瞑想の効果. https://note.com/newlifemagazine/n/n16eca92fa90c 
*4. Liu T, Zhang L, Joo D, et al. NF-κB signaling in inflammation. Sig Transduct Target Ther 2, 17023 (2017). https://doi.org/10.1038/sigtrans.2017.23 
*5. Irwin MR, Cole SW. Reciprocal regulation of the neural and innate immune systems. Nature reviews Immunology. 2011; 11(9):625–632.
*6. 脳内物質(幸せホルモン)“オキシトシン”についての基礎知識. https://note.com/newlifemagazine/n/ncef313003a7a 
*7. Cole S. et al. Computational identification of gene–social environment interaction at the human IL6 locus. Proc. Natl Acad. Sci. USA 107, 5681–5686 (2010).
*8. Nance DM, Sanders VM. Autonomic innervation and regulation of the immune system (1987–2007). Brain Behav. Immun. 21, 736–745 (2007).
*9. Trier social stress test-Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/Trier_social_stress_test 
*10. Bierhaus A, et al. A mechanism converting psychosocial stress into mononuclear cell activation. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. 2003; 100(4):1920–1925.
*11. Engler H, et al. Effects of repeated social stress on leukocyte distribution in bone marrow, peripheral blood and spleen. J. Neuroimmunol. 148, 106–115 (2004).
*12. Wohleb ES, et al. β-adrenergic receptor antagonism prevents anxiety-like behavior and microglial reactivity induced by repeated social defeat. J. Neurosci. 31, 6277–6288 (2011).
*13. Pace TW, et al. Cytokine-effects on glucocorticoid receptor function: relevance to glucocorticoid resistance and the pathophysiology and treatment of major depression. Brain Behav. Immun. 21, 9–19 (2007).
*14. Three Initiates (1908). The Kybalion: A Study of the Hermetic Philosophy of Ancient Egypt and Greece. Chicago: The Yogi Publication Society.
*15. As above, so below -Wikipedia. https://en.wikipedia.org/wiki/As_above,_so_below 
画像引用
*a. Image by freepik. https://www.freepik.com/free-photo/medium-shot-quarantined-woman-working-from-home_26394076.htm
*b. https://www.nature.com/scitable/topicpage/translation-dna-to-mrna-to-protein-393/
*c. https://www.freeimages.com/premium-clipart/mouse-6751219
*d. Image by qaseemz . https://www.vecteezy.com/photo/29283965-ai-generative-photo-of-a-man-practicing-mindfulness-and-meditation-in-a-peaceful-natural-environment-sony-a7s-realistic-image-ultra-hd-high-design-very-detailed

 

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