【佐竹健のカルトーク】第一夜 深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ
初夏の陽ざしがまぶしい7月はじめの日曜日。
この日は友達3人と一緒に屋台へ行った。
私の住んでいた町では、この時期になると数日間に渡って夏祭りが行われる。特に日曜日はたくさんの屋台が出る。そのため、あらかじめ友達の家で待ち合わせをし、そこから行ったという感じだ。
型抜きや射的といった遊戯、屋台グルメなどをある程度楽しんだ。なので、近所のスーパーで買い物をすることにした。ジュースを買うためだ。
「ジュース? そんなの屋台で買えばいいじゃん」
そう思った人もいるだろう。だが、宵越の銭を持たない江戸っ子のように、屋台で有り金を使いつくしてしまう人間が多かった。そのため、屋台や自販機でジュースは買えない。これらの事情から、どうしてもジュースが100円以下で売られているスーパーで買わざるを得なくなる。
早く買い物を済ませた私と友達(仮にAとしておこう)は、スーパーの軒下で残りの二人(仮にBとC)を待っていた。
Aと他愛もない雑談や同人イベント視察の打ち合わせをしながら時間を潰す。
話題が他愛もない話から愚痴に変わったころだろうか。車がたくさん停まっている駐車場から二人の男が出てきた。二人の男は歳のほどからして、40代後半から50代前半ぐらいだろう。
二人の男が駐車場からスーパーの入り口前に来たときのこと。一緒にいた右脇のワインレッドのシャツを着た男が、
「この野郎!」
と怒鳴りつけ、物凄い剣幕で何度も蹴りつけてきたのだ。
ワインレッドのシャツを着た男に蹴られる相方は、涙目になりながら痛みに耐える。
この様子を私と一緒に見ていたAは、
「深淵を覗いてしまったね」
と小さな声で言った。
「うん」
闇深い光景を目の当たりにした私は、呆然としていた。新宿歌舞伎町や足立区の一端、池袋駅の北口ならまだ話は分かる。だが、ここは田舎町のスーパーの駐車場。白昼堂々大の男が相方を蹴っているなんて、正気じゃない。
このとき、私とAは世の中の深淵を垣間見てしまったのだろう。東京の危険なところや修羅場も見てきた今の私は、そう考えている。そして、相方を蹴っていた男も、その様子を見ていた男子高校生二人の存在に気づいていないはずがないだろう。
「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」
こんな言葉があるように、この世の闇を見たときは、この世の闇もまた、私たちの世界を見ているのだから。
次の話