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【歌詞解釈エッセイ】冷たい頬と忘れられない人のこと
忘れられない人。そんな人が、誰の記憶の片隅にも、必ず一人はいるのではなかろうか?
特にその人に対して、何かしら強い思い入れがある場合は、いくつ歳を取っても忘れられないものだ。
スピッツの『冷たい頬』という曲は、そんな「忘れられない人」のことを歌っている。
「あなたのことを深く愛せるかしら」
子どもみたいな光で僕を染める
出だしは、回想から始まっている。冷たくなった君の頬を触って、ふいに君が生前を言っていたことを思い出した。そんな感じだろうか。
諦めかけた楽しい架空の日々に
一度きりなら届きそうな気がしてた
一度は2人で生きてゆく未来が現実になりそうなときもあった。けれども、病気や事故などで、描いていた幸せな未来が実現できなくなった。
そして、サビの部分では、もう叶わないことはわかっていても、君のことは忘れずにいたい。そんな思いが歌われている。
夢の粒もすぐに弾くような
逆上がりの世界を見ていた
間奏が終わったあとのサビで、時系列は今に戻る。「逆上がりの世界」は、君がいない現実のことを指しているのだろう。理想という夢さえも醒めさせるような、強烈な現実。最後にはそれを受け入れる段階へと入る。君への別れを告げ、冷たくなった君の頬に触れる。そうして一区切りをつけ、前へと進む。けれども、君のことは永遠に忘れない。そんな感じだろうか。
いなくなった大切な人が思い出へと変わる過程が、上手く歌われている。
「忘れられない人」
私にもいる。縁を切ったり、音信不通になったりした人たちだ。
時々彼らの事を思い出しては、
「長続きしてたら、きっと違ったんだんだろうな」
「勝手に縁を切ってごめんなさい」
と思うことがある。中には後悔の念さえ持てない人間もいるが。
やはり、人のことはそう簡単には忘れられない。たとえそれが、自分にとってどんなに害悪な人間だったとしても。また、顔と名前を忘れていても、
「あ、こんなやついたな」
と思い出してしまう。記憶から消えかけても、その存在はしっかり脳裏にこびりついているのだ。厄介なものだ。
同時に昔懐かしい知り合いや友達と会ったとき、当時の心に戻って楽しめる。この作用があるからこそ、当時を知る人に会ったとき、こうして楽しむことができるのかもしれない。
時々その人のことを思い出してみるのもいい。可笑しくなるときも、胸糞悪くなるときもあるけれど。
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