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【歌詞解釈エッセイ】感情表現が上手い曲

 いろんな曲を聴いていると、感情表現が恐ろしいくらい上手いなと思ってしまう曲に出会うことがある。例を挙げると、スピッツの『夕焼け』と『遥か』、浜崎あゆみの『Dearest』であろうか。スピッツの『夕焼け』と浜崎あゆみの『Dearest』は既に紹介しているので、興味がある人は読んで行ってもらえるとうれしい。

 感情表現は、歌詞においてメロディーと同じくらい大事な部分である。無くても通じる曲もあるが、そうした曲は、曲自体がネタであることが多い。

言葉でハッキリ言えない感じ 具体的に
「好き」では表現しきれない 溢れるほど

スピッツ『夕焼け』

 感情表現の一例として、スピッツの『夕焼け』を例に出して説明してみよう。

『夕焼け』は、君へ思いを伝えられない少年のもどかしさ歌っている。その言葉にできない思いが具体的でないこと、どれだけ強いかについて「『好き』では表現しきれない」くらい強いことをさらりと歌い上げている。歌の主人公が、どういうことを考えたり思ったりしていたかを簡潔な言葉でわかりやすく書いているのだ。

 先ほど出した例はわかりやすい例である。だが、これとは反対に、比喩などを使ってわかりにくくなっているものもある。こうしたものは、国語の読解と同じように前後の文脈から意味を判断するしかない。


 感情表現が上手いなと思って気に入っている曲の一つに、BoAの『Every heart─ミンナノキモチ─』という曲がある。

 この曲について知ったのは『犬夜叉』のアニメのエンディングテーマとして使われていたことだろうか。私自身BoAの曲はあまり聞いたことがなかったからよくは知らないけど、「いくつ涙を流したら」という出だしがエモいなと思って以来、お気に入りの曲の一つとなっている。

「どれだけ涙を流したら素直になれるのかな?」

「誰に言えば安心して話せるのかな?」

「どうすれば夢に踏み出せるのかな?」

 みんなそうした漠然とした不安や悩みを抱えながらも、いろんなことを学んで前に進んでいる。この曲の解釈をするとこんな感じだろうか。また、歌詞には若いときにみんな一度は考えたことのある不安感や祈りも歌われている。みんなが一度は感じたことがある不安。これが『Every heart─ミンナノキモチ─』の正体なのかもしれない。

長い長い夜に怯えていた
遠い星に祈ってた 

BoA『Every heart─ミンナノキモチ─』より

『Every heart─ミンナノキモチ─』で感情表現が上手いなと思ったのは、上に挙げた部分だ。

 ずっと終わらない怖さに苛まれる。自分でもどうしたらいいかわからないから、早く終わってくれないかな、と心の中で祈ってしまう。そんな漠然とした不安が「長い長い夜」に、早く終わってほしいなという祈りが「遠い星に祈る」と喩えられているところだろう。比喩であっても、前後の文脈でそれがどういうものかわかるのが秀逸である。


 この曲に出会ったのは、中学2年の終わりである。この時期から高校、そしてこれからどう生きていくかみたいな話が出てくる。私は「これから」に怯えていた。

 自分には将来の夢も、長所と言えるような得意なことも、やりたいこともない。高校に無事受かるかも不安である。もうどうしたらいいかわからなかった。酷いときは考えすぎてノイローゼみたいになったこともあった。

 そんな時期に近所のレンタルビデオ店でアニメ版の『犬夜叉』を借りていたわけだが、エンディングにこの曲が流れていたのを見たときに、

「どうしたら自分も安心して生きられるようになるんだろうな……」

 と思いながら見ていた。特に出だしのところで。

 そしてサビの前にある「長い長い夜に怯えていた」のところで、将来という得体の知れない不安に怯えている自分を投影していた。漠然とした不安が続く日々が早く終わらないかな、自分の心はどうすれば救われるのかな、みたいな感じで。

 今でもその答えは出ていない。が、はっきりしているのは、そうした不安を抱えながらも一歩一歩前に進んでいるということだった。もちろん人と比べて歩みはとても遅いけれども。


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佐竹健
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