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【エッセイ】尾張③─名古屋城─ 『佐竹健のYouTube奮闘記(94)』

 門をくぐってまず目の前にあったのが、本丸御殿である。

(立派だ──)

 檜皮葺の屋根に金箔の張られた金具、そして葵紋。何もかもが桁違いである。

 本丸御殿の脇を進んで行くと、立派な天守閣が見えてきた。

「おおおーっ!!」

 白亜の壁、銅葺きの屋根。五層の天守。コンクリート造りではあるが、それを感じさせないほどに立派だった。何より立派なのは、やはり頂上の屋根にある金のしゃちほこであった。

(やっぱり徳川御三家の城は違うね)

 諸藩の頂点にして、藩を持つ徳川一門の中でも別格の存在である徳川御三家ともなると、御殿や天守閣も桁違いに豪華だ。

 言い忘れていたが、名古屋城の天守閣が鉄筋コンクリート造りなのは、戦時中に米軍により爆撃されたことで、天守閣や本丸御殿が焼け落ちたためである。もしも名古屋城の建物が空襲で焼け落ちていなかったら、国宝や世界遺産に登録されていたことだろう。

 天守閣の中は入れなかった。近頃言われている名古屋城の天守閣を木造に建て替える計画のためだろうか。


 天守閣を見たあと、私はすぐそばの本丸御殿へ立ち寄った。

 侍烏帽子を被った受付の人に荷物を預け、この前ハードオフで買ったカメラを片手にいざ、写真を撮影しに向かう。

 壁や襖には、金箔が張られ虎が描かれていた。金箔の張られた壁や襖の中にいる虎は、思い思いに顔をなでたり、動き回ったりしている。

(すごい……)

 入った瞬間これだったから、言葉が出ない。こんな豪華な部屋に将軍は泊まっていたのか。やはり将軍は武家の棟梁なんだなということをしみじみ感じさせる。

 しばらく襖絵を見ていると、虎の中に明らかに違う動物が紛れているのを見かけた。

「君、明らかに虎じゃないよね?」

 見たからに毛柄が違う。虎の黒い縞ではなく、チーターとか豹の丸い黒丸だ。虎と言い張るには無理があり過ぎる。

「せんせー、ここに豹がいまーす!」

 そう言いたくなってしまう衝動を必死でこらえながら、私は写真を撮った。


 奥へと進むと、紅梅や白梅、松などが描かれた襖絵や

 一番豪華であった部屋は、将軍との対面の場として使われていた部屋であろうか。金箔の張られた彫刻と金具がまぶしい。そこから反射される光のせいか、和風建築特有の薄暗さが打ち消されている。

 それだけではない。壁や襖、天井にまで細やかに描かれた大和絵が、その豪華絢爛さをさらに洗練したものにしている。

「わぁ……」

 あまりの豪華さと美しさに言葉が出なかった。一応これは復元であるということはわかっている。なのに、今いる場所があたかも当時将軍様の宿所として使われていた本丸御殿にいるような錯覚してしまう。

 同時に、江戸城の本丸御殿が火事とかで焼け落ちていなかったら、こんな感じだったのだろうな、とも思った。徳川御三家の城の本丸御殿、しかも復元でこれだから、きっと、江戸時代にあった江戸城の本丸御殿の建物は、もっと、ものすごいきらびやかだったのは間違いない。京都太秦の映画村みたいな時代劇のセットや江戸時代をモチーフにしたテーマパークでもいいから、江戸城の本丸御殿を再現してくれないかな。

「名古屋市よ、よくやってくれた」

 そう心の中で叫んだ私は、カメラのスイッチを入れ、写真を撮った。


 本丸御殿を巡ったあと、私は近くにあった茶屋で団子を食べた。

 次の目的地である熱田神宮へ向かおうと駅へ歩こうとしていたそのとき、道の左端に猫がいたのを見かけた。柄は焦げ茶と白であった。

 猫はここが道であることなどお構いなしに、落ち葉のクッションの上で気持ちよさそうに眠っている。

「猫だ!!」

 私は猫の前で立ち止まった。

 写真を撮ろうとしていたときに、カップルが近づいて来た。

 カップルが猫に近づいたとき、しゃがみ込んだ。そして女性の方が、口元をほころばせて、

「かわいいねぇ。死んだように眠って」

 と言って、眠る猫を見ていた。

(隣のお姉さん、地味にセンスあること言ってる)

 目の前の猫は、置物みたいに眠っている。それをロックの歌詞みたいに表現した隣の女性は、素晴らしい言語センスを持っている。


 猫に心を癒されたあと、次の目的地である熱田神宮へと向かうため、私は名城駅から地下鉄に乗った。時刻は午後3時。人のいるところでは、少し地下鉄の車両が混み始めてくる時間帯ではあるが、立たされることはなく、何とか席に着くことができた。

(続く)


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佐竹健
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