【創作小説】M美、新たなる世界を見つける②
高校時代後半
K太は別の高校で、頭のいい私立校のサッカー部に所属している。
毎日部活に明け暮れて、逢えるのは部活が休みの月1程度。
外でデートをした事もあるけど、シャイなK太は手も繋げなくて、少し離れて歩くことが常だった。
寂しく感じるのは嘘じゃなかったけど、K太の部屋でなら思い切りくっついて居られたから大丈夫だった。
そんなシャイなK太との1番の思い出のデートは、夏祭りと花火のデート。
地元からは少し離れているけど、有名で大きな夏祭りと花火があるから見に行こう、と誘ってきてくれたのはK太の方からで。
普段は恥ずかしくて、外でデートなんてしたくないK太からの誘い。
私は嬉しくて嬉しくて、めちゃくちゃにはしゃいでいた。
バッチリお化粧をして、新しい服を着て。
K太はどんな反応してくれるかな。
手は繋げるのかな。
隣を歩けるのかな。
夜まで居られるなんて凄いな。
ドキドキしながら待ち合わせの駅で、私は今か今かと逸る気持ちを抑えながらK太を待つ。
少しして、時間通りに来たK太はやっぱりどこか恥ずかしそうにしていて。
でもね、私を見て「可愛いね」って、はにかんで言ってくれたのが今でも忘れられないよ。
お祭り自体はきっと何処でもおんなじ感じなんだろうけど。
たくさんの出店に、人混み。
私にとっては最高な時間だった。
なんと
手を繋いで歩いてる!
「人混みで誰も見ないだろうし......M美がはぐれたら困るし。」
なんて顔を見ないで握られた手の熱さに愛おしさが爆発してしまった私はニヤニヤが止まらなかったのだ。
出店で食べたい物を並んで買って、金魚すくいやクジ引きを眺めるだけで冷やかして。
沢山の人が居るのに、2人だけの世界を過ごせることが嬉しくてあっという間に時間が過ぎていった。
「こっちに行こう」と、花火会場とは少し離れた所に手を引いていくK太。
人がまばらになっても離されない手を握り返しながら付いて行くと、そこには転々とカップルが座っていた。
なんでも「みんな自分達に夢中で他の人なんて気にしない」「花火がいい感じに見える場所」らしい。
つまり、外でイチャイチャしてもOKということか!?
私はそんな所知らないし、ましてやK太が調べてくれた事とココに私を連れてきたという事実に胸が高鳴って、夏の暑さとは違う変な汗をかいていた。
どうしよう。
ちゃんと花火見ていられるかな。
他のカップルから適度に距離をとって私達も座って花火が上がるのを待つ。
待っている間も、手は繋いだままだ。
そんな手を見つめて「 ねぇ、今日どうしたの。すごく嬉しいけどビックリしてるんだよ? 」繋いだ指先で手を撫でながら聞いてみる。
「俺だってM美と外でデートしたいし、手だって繋いで歩きたいよ。今日は夜で暗いし人の目が気にならないだろ。だから.....だからだよ。」なんて空を眺めながらK太の指先が私の手を撫で返してくれる。
ヤバい
顔があっつい
暗くて本当に良かった
コレなら赤くなっててもバレない
「そうなんだ……。嬉しい。ありがとう」K太の顔なんて見れないから、空を眺めて誤魔化す私。
隣に並んでいるから分かるK太の汗の匂い
繋いだ手から伝わる熱さ
買ってきた焼きそばと唐揚げの匂い
夏特有のぬるい風
全部が全部わたしの胸にグッときてクラクラしてしまう
「花火上がるまで少し時間あるからさ、買ってきたの食べよ」ってK太の言葉にスルッと離される手。
少しの寂しさと高揚感の収まりにホッとする綯い交ぜ(ないまぜ)な感情を抱えながら、2人して買ってきたものを食べ始める。
少しして花火が上がり始め、色とりどりに彩られる夜空はすごく綺麗で魅入ってしまう。「めちゃ綺麗だねー!花火の色って火薬の種類だっけ?なんかで色分けしてるんでしょ?」金色に輝く花火の光に照らされる横顔に向かって、自分よりも博識なK太に聞くと「えーっと...赤いのはカルシウムで、黄色はナトリウム、緑はバリウムだっけな?あと青色は銅。他の色はいろんなの混ぜて作ってるんだって」と、スラスラと答えてくれる。
さすがである。
少し惚れ直したぞ。
沢山の花火を眺めながら他愛もないことを話したり静かに魅入ったり。
そんな楽しい時間もあっという間に終わりをむかえてしまう。
「さて、混む前に帰ろ」立ち上がりそう言うK太の方を向くと差し出されている手。
コレは、あの、起こしてくれるだけだよね?
淡い期待をこめてその手を握ると「よっと」という声と共に引き上げられる。
「駅までどのくらいかかるかなー」なんて言いながら歩きだすK太。
私は何も答えられなかった。
だって
手が繋いだままだったから。
駅まで送ってもらい、離れがたいけどまだ未成年な私達は別々の家へ帰るしかなくて。
改札口で手を離し、またねって手を振って。
花火の残響とK太の手の熱さを胸に抱き、愛しさに溺れながら眠りについた。
そんな特別でキラキラと輝いた時間は、知りすぎてピュアなままで居られない大人になった私は二度と味わえないだろう。
何度かK太のお部屋デートを繰り返して数ヶ月。
付き合って数年。
健全な青少年少女同士、もちろん性的な事には興味津々で。
抱き合って、キスをして。
そのまま始めての性行為をした。
結果としては、あまり上手くいかなかったけど、初めて感じる男の人の体格や体温に私は幸せでいっぱいだった。
その後も、K太と逢う度に体を繋げていった。
求められる事が嬉しくて。
喜ぶ姿に心が満たされて。
K太の望む女の子らしい、理想の女の子を演じる事が当たり前になっていった。
受験の冬。
私は保育士という夢を叶えるために、奨学金制度を使ってギリギリ狙える大学を目指していた。
K太は学校の先生になりたいという夢の為に、教育学部のある有名な大学を目指していた。
もちろん高校受験の時同様に、連絡を取り合う頻度は激減する。
特にK太はストイックな性格だから、やると決めた事に対して全力で向かうタイプで。
高校受験の時とは比べ物にならないくらい、他の事には時間を割くことはせず、目標達成に向けて黙々と勉強に打ち込んでいた。
そんな私達の恋人らしいやりとりは、朝と晩に一通ずつの長いLINE。
近況報告と励まし合う内容。
相変わらず私はクラスでハブられていて。
勉強や学校で辛いことがあって、K太の声を聞きたいと思っても出来ない。
だって、 頑張っている事を知っているから。
理解のある彼女でありたくて
我儘な女だと思われたくなくて
この苦しい気持ちは一緒だと思い込んで
私の誕生日も、K太の誕生日も、唯一電話でおめでとうを伝えただけで、逢う事は出来なかった。
それはなんでもない日だった。
きっかけなんてない。
でもね
寂しさがね
大波となって襲ってきたんだ。
それはもう、逃げられないほどに。
ねぇK太
私
そんなに強くないんだよ。
..............次回。
M美に新たな出逢いが。
K太との関係は?
M美の心がまた揺れ動きます。
お楽しみに。