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カオの本棚より。『薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木』

 図書館が好きです。静かで本がたくさんあって紙の匂いのするところが。
    閉館間際、一人また一人と人が去ってゆく時間の図書館。窓の外の暗さと館内の明るさは対象的ですが、明るい方が不思議と淋しげです。一冊の本を手に取るまでの書架と向きあう時間が儀式めくような、何かしら特別な一刻。時間と空間と本の“丸ごと全部”のそれらがとくに好きです。
    紙媒体でなく「本」が読めるようになっても、図書館という空間のおおらかな魅力は依然としてあります。本屋もわくわくしますが、やはり本屋の本はぴかぴかで商品の顔をしています。アマゾンでポチるのも数百冊分をキンドルで持ち歩けるのも大変便利ですが、本は「もの」ですから「もの」としての魅力は「画面」では半減します。
     装丁というのはとても重要です。背表紙はこちらに向いた顔。表紙は扉。字体、紙の質、レイアウト、サイズ…。“本は中身”なのですがそういう構成要素もまた本の魅力です。
     表紙に惹かれて思わず買った本もあります。また本は経年劣化しますが、色褪せた背表紙の本には新品にはない味を感じます。図書館の本ではごくまれに「貸し出しカード」を差し込む封筒(?)が残されていたりします。その“時の忘れもの”にふと懐かしくなったり。そんな本が現役で書庫に並ぶ頼もしさは、旧友にばったり会ったような気持ちと言えばいいでしょうか。

 と、このように本好き図書館好きの自分にはささやかな夢がありました。
「図書館に住みたい」。
というところから始まり、移動図書館をやってみたい、自宅を私設図書館として開放したい、老後に児童書を中心にして近所の子どもが寄ってくるようなスペースを設けたいなどなど。思うばかりで漠然とし、現実的ではないささやかな空想ですが。
    せめて好きな本に囲まれて過ごしたいものですが、反対に部屋にあまり物を置きたくないという断捨離魔でもあります。そして何より引っ越しの多い人生なのがネックです。本自体よりも本棚が荷物になります。シェルフの他に、解体できるように板とブロックで本棚をこしらえていたのですが、引っ越し業者が苦笑いするほどブロックが大量にありました。増える一方の本は、引っ越しの度、預けたり人にあげたり売ったりしてどうにか(引っ越し先の)許容量内におさめています。
     そんなわけで、いま手元にある本は断捨離と引っ越しの荒波をかいくぐってきた“選ばれし者”たちです。
 
    この愛しい本たちを紹介したいなと思いまして。

栄えある一冊目は、ダカダカダカダカー(ドラムロール)ジャン!

江國香織の『薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木』/集英社/2002年発行/です。

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9人の彼女たちと彼たちの群像劇です。
登場する女性の丁寧な暮らしぶりに、ため息がでるような話。その空気のいちばんキラキラした部分を掬いとったような装丁が、江國さんの世界観にぴったり。

ご覧ください。

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半透明のブックカバーを外すと花輪が!
本扉の趣きといい、見返しの少しざらっとした紙、白抜きのイラストとしおりの白のリンク。
本文を開かずともそこに江國ワールドが出現するような一冊です。

この記事をかくにあたり、久しぶりにこの本を開いたのですが、初見では年上だった女性たちの年齢を超えているのに気がつきました。今、読み直したらまた違った感じがするだろうなと思います。

江國さんの著作の中でいちばん好きな作品は?ときかれたら「神様のボート」と「流しのしたの骨」をあげるでしょう。「神さまのボート」は旅する母と娘の話、「流しのしたの骨」は四姉弟の家族の話です。
普通ではない家族の普通の日常が書かれているところに惹き込まれます。いちばんとは言いましたが、子どもから大人までその年代の人だけが知り得るような心の襞をみせてくれる江國さんの作品は、どれも甲乙つけられません。

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読んでくれてありがとうございます。