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記憶喪失になったぼくが見た世界

正直、衝撃の連続でした。

生まれてからの18年間の記憶が一瞬の事故ですべて奪われる。ドラマのような出来事とは裏腹に、気を失ってもなかなか目が覚めない現実。ご家族の皆さんはどんな思いで過ごしていたのでしょう。そしてようやく目が覚めたと思ったら暴れ、記憶も残っておらず。想像を絶するものでした。

記憶喪失の話はよくあるけれど、現実に当事者が当時のことを書いているのはとても珍しいのでは。読み書きも食事も睡眠の意味も、全てを忘れている状態というのはどんな感覚なのか、不思議。茶碗に盛られたご飯を見て、(このキラキラした白いつぶつぶは何だ?)といったくらい何も覚えていない。言葉を持って赤ちゃんからやり直したらこんな世界なのかしら。一つひとつ感じること、疑問に思うことのセンスが芸術家らしく、描写が瑞々しい。

自分にも名前というものがあって、名前には漢字もあって。国語辞典で一つずつ漢字を調べて意味があることを知る、というエピソードに少し心を揺さぶられました。私たちが当たり前とするもの、事、すべてのものには意味がある。そんなことに気づかされたような気がします。わからないというのは怖いことだらけだけれど、気づきというものは一つひとつが宝物。

坪倉さんは今、染色家として工房を設立し、着物を中心に染色作品を制作しているそうです。

何気ない日常が宝物になる一冊。


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