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病理基本用語集#2 分化について

【本日の内容】
(1)正常な分化の過程:表皮を例に
(2)腫瘍・癌の分化・分化度について
(3)分化に関する特殊用語

注:上記写真はロビンス病理学であるが、この記事はロビンス病理学の内容をまとめたものではなく、ロビンスを含めて筆者が今まで読んだ病理学の本から得た知識、経験や先輩方から学んだ知識をまとめたものである。

(1)分化について:表皮を例に

細胞は成長にしたがって、
未熟な細胞から成熟した細胞に変化する

その過程を分化(differentiation)といい、
分化をして成熟(maturation)することにより、
特定の機能(function)を獲得することになる。

たとえば、
皮膚の表面を覆う部分「表皮 epidermis」を例にして考えてみたい。
表皮は「重層扁平上皮 stratified squamous epithelium」から構成される。

本当は写真を使用して説明したいのだが、人体組織の写真をネット上にアップすることは適切でないとされるので、組織像についてはお手元の教科書あるいは他のインターネットサイトなどを参照してほしい。⇒参考サイトの例

表皮の最も深部には基底層があり、
基底層では主として基底細胞が1層に配列し、
「表皮の幹細胞 stem cell」のような役割を果たしている。

基底層の直上には傍基底層が2~3層ある。
基底細胞(≒幹細胞)は基本的に増殖能を有していないが
傍基底細胞は増殖能が高い

傍基底層を含めて、表皮の主要な層を形成しているのが有棘層(有棘細胞層)である。なお、組織学では傍基底層という用語はあまり用いられず、一般に有棘層の一部が傍基底層に相当するが、病理学では「増殖能」を有する部分として重要な部分である。
有棘層では表皮の最大の特徴の1つである「細胞間橋 intercellular bridge」がみられる。細胞間橋は強固な細胞接着に寄与する「tight junction」を反映している。細胞間橋は顕微鏡でみると、細胞と細胞の隙間の「ゲジゲジ」または「トゲトゲ」という感じで観察されるので、有棘層と呼ばれるのである。有棘層をはじめとしたこの強固な細胞接着によって、皮膚は強固なバリア機能を発揮している

さらに表層側には「ケラトヒアリン顆粒」を有する顆粒層があり、ここでは細胞核が濃縮傾向を示して、細胞死の状態へ向かっていく

そして、
最表層にあるのが角層(角質層)である。
ここでは細胞核は完全に消失し、
主として細胞骨格(ケラチン)だけが残った細胞の残骸が重層化している。
なお、この過程からわかるように、角化は細胞死の一種である。
皮膚を擦って出てくる「垢」である。

このように、
組織の中で、細胞は分化・成熟し、
一定の機能を獲得・発揮し、最終的に細胞死に至る。

(2)腫瘍・癌の分化・分化度

癌は上皮性悪性腫瘍である。

良性か悪性か、
上皮性か非上皮性か、
などにかかわらず、
腫瘍は一般に「その発生母地の細胞・組織を模倣する」

例えば、
表皮由来の腫瘍は、
重層扁平上皮の特徴である「細胞間橋」「角化」を示す。

腫瘍も分化するのである。
良性腫瘍の方がより正常組織に類似し、
悪性腫瘍はより違った形態を示す。

腫瘍になると、
細胞は正常とは異なる形態を示すが、
それでも、
多かれ少なかれ正常細胞に類似するのである。

癌腫(癌、carcinoma)では、
正常組織への類似性が高ければ高分化 well differentiated
あまり似ていなければ低分化 poorly differentiated と呼ばれ、
中等度の類似性であれば中分化 moderately differentiated となる。

全身の癌腫の2大組織型として、
1.扁平上皮癌 squamous cell carcinoma
2.腺癌 adenocarcinoma

がある。

主として、
扁平上皮癌では「角化」「細胞間橋」で、
腺癌では「腺腔形成」「粘液産生」で、
分化度を決めることとなる。

何の組織にも全く似ていなければ、
未分化 undifferentiated ということになる。

癌を含む悪性腫瘍の「悪さの指標」として、
グレード(Grade)という用語がある。

グレード(Grade)については別に章立てして詳しく説明するが、
「分化度」「悪性度」と訳されることが多く、
癌では多くの場合で「分化度」と訳される
(もちろん、例外もあるということである)

一般に、
グレード(Grade)=分化度は以下のように分類される。
なお、これも臓器により多少異なり、未分化を G3 に入れる場合もある。

Grade 1(G1)=高分化 well differentiated
Grade 2(G2)=中分化 moderately differentiated
Grade 3(G3)=低分化 poorly differentiated
Grade 4(G4)=未分化 undifferentiated

(3)分化に関する特殊用語

脱分化(dedifferentiation, dedifferentiated)
一度分化したものが分化を失うこと(≒anaplasia)
※ anaplasia は undifferentiated ともしばしば同義で用いられる
全くことなる分化方向に変化すること(heterodifferentiation)

逆分化(retrodifferentiation)
胎児性などの幼若な組織に分化すること ⇒ 先祖返り的な現象:体細胞腫瘍(腺癌や扁平上皮癌など)から胚細胞腫瘍(絨毛癌)が生じる場合

異分化(heterodifferentiation)
全くことなる分化方向に変化すること
(=neometaplasia, dedifferentiation, heterodifferentiation)


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