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「普通」の人のためのSNSの教科書(徳力基彦さん)を読んで:SNS時代を生きる日本人のための道しるべ

人間同士がコミュニケーションをしている以上、ネットもSNSも特殊な場所ではなく、「リアルの延長線上」である。徳力さんはこの点を一貫して強調しており、私自身この本でのすべて主張はこの点に集約されると思うし、今後さらに加速していくであろうネット社会で最も人々に共有されるべきことだと思う。

発信内容はもちろんであるが、ネット上での炎上やディスカッションに関しても、リアルでしないような不適切な言動をしない、自分が悪くない場合でもできるだけ丁寧な対応をする、自分に過失がある場合は素直に謝るなど、あくまで人間同士のコミュニケーションとして対応することが重要だという。徳力さん自身は言及していないが、これは昨今問題となっているネットリテラシーの問題、匿名性から生じる暴力性の問題とも深く関連する。

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本の中では「普通」に人がSNS発信をするメリット、その具体的な方法やメンタルセット、注意点が記されている。その記し方もまた独特であり、本文中で説明される徳力さんのブログの書き方「徳力メソッド」と酷似している。ブログではなく本なのに。「徳力メソッド」は(1)タイトルで言いたいことを語りつくす、(2)本文は思い付きで、(3)締まらない締め方、何もまとめずに終わる、である。ビジネスパーソンとして結論を曖昧にしてしか書けないという事情であるが、これが議論を呼び起こすきっかけになるし、意見の多様性を認める下地ともなっている。実際、本書のエッセンスはプロローグで語りつくされ、プロローグ以降は細かい内容や具体例が出てくるのみである。しかし、面白いし、わかりやすいし、どんどん読み進めてします。話が見えているから具体例に入りやすく、理解しやすいのであろう。これは長年のブロガー生活で培われた「型」なのだろう。そして、本書の読み手には、一般常識的な社会的節度を守った上で、それぞれに合った発信方法を許容してくれているのである。押しつけがましくなく、読み手が安心するというのが徳力さんの人柄なのだろう。

ビジネスパーソンとして「自分メモ」をネット上にあげておくことで、人に押し付ける「プッシュのコミュニケーション」ではなく、見たい人が見に来る「プルのコミュニケーション」ができるという。インフルエンサーを目指す必要はないし、自分の考えをメモとして残しておくだけで、自分を理解してくれる人が出てくるし、そこから新しい人脈を得ることも可能となる。これがビジネスにおける「プルのコミュニケーション」である。

「自分メモ」ではあるのだが、少し一工夫することで「プル」の作用を強くすることができる。そのことを「アウトプットをズラす」と表現しており、発信したい相手、内容の独自性など様々なズラし方が語られている。ニッチに絞って内容の深さで勝負することも含まれている。これは私が note をしようと思ったきっかけとも関連している。


私は病理医という医師の中でも稀有な仕事をしている。病理医とは患者から採取された組織を肉眼的・顕微鏡的に観察し、病気の診断をする仕事であり、特に「がん」の診療では治療方針決定のために必須の仕事である。「がん」の診断は担当医・主治医がしているのではなく、表には出てこないが病理医が担っている。米国では医師の中も上から数えるくらいに人気があり難しい仕事であるが、日本では認知度が低く、医療従事者さらには一般の医師でも仕事内容を把握していない人がいる。外国の医師に聞くと、日本の病理医の少なさは ”It's crazy!” と言われるほどである。米国との比較では産婦人科の6倍足りないというデータもある。そして、人数が少ないため教育が行き届きにくいという悪循環が生じているを日常的に感じる。私は病理医の活動の一般向けの広報とともに、若手病理医の教育コンテンツを作成するためにSNSを利用したいと前々から考えていた。

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しかし、日本では人体由来の組織の写真をネット上にアップすることは、各種学会の声明でよくないとされている。そこで文章ベースのブログで、管理しやすいフォーマットとして見出したのが note であった。写真は載せたいが、必ずしも写真を載せずとも、若手病理医が育つための教育コンテンツの作成は可能であると考えている。勉強法から、教科書にないコツなど、できることはたくさんあると思っている。

内容がビジネス関連で、かつマネタイズに繋がる必要性は必ずしもないと考えている。直接自分の仕事に役立つ必要もない。この考えは普段から多くの医師が報酬目当てに診療をしているわけではないことの延長にあるように思う。また、自分が目的とすること1個に絞らないといけないということもない。非医療従事者から見て特殊であろう医療の世界の実情を語ったり、情報過多の時代に選ぶべき医療の情報について広報したり、自分独自の視点で物事を語るだけでも誰かにとって価値ある情報となればうれしいものである。


私は本書から大切なことを多く学んだ。発信は「普通」の人としてすればよいということ。「リアルの延長上」としてSNSを活用すること。そして、そこにはちょっとしたコツがあること。文字通り仕事に役立つ必要はない。
生きるために必要なこと、自分と他者に利することであれば、そこに必ずしもお金が絡む必要はなく、お金ではない生きやすさなどの価値が生まれる。価値はマネーに限らないのである。これからの時代を生きるために、本書、「普通」の人のためのSNSの教科書を薦めたい。


<あとがき>

今回はせっかくの機会であったので、「#読書の秋2020」のために書いた。いや、いつか感想は書こうと思っていたが、note の中の人の本をここで書かない手はないと思った。対象図書ではなかったが、ここで書きたいと思った。ネット社会に疎い私は徳力さんのことを存じ上げていなかった。note を始めて初期の頃に相互フォローさせていただいたシータ先生の記事で本書が取り上げらており、非常に感銘を受けたのがキッカケであった。

シータ先生の記事の中で徳力さんとコメントのやり取りを少しして、フォローさせていただいたら、快く(と思っている)フォローを返してくださった。全然知らなかったのであるが、少しのやり取りの中から「ああ、この人はきっと苦労した結果成功している人なんだろうな」と思い、何となく温かさと懐の深さを感じていた。実際、その後本書を読み、想像していた以上に大変なことを乗り越えてきて、周りに感謝しながら生きている「普通」の人だと思ったのである。「普通」というのは「普遍的で誰にでも共通し得る、誰からも共感され得る」ということである。徳力さんの本書の中の言葉を借りれば「ひろく通用する状態」である。

なお、この<あとがき>の内容は決して忖度ではない。私はまだ note を本格的に書き始めてまだ5週間程度である。その初期の頃に note の中にあふれる感銘を受けた記事を「note の世界」としてまとめた(下記)。今思えば「#note感想文」に相当するのだが、これを書いたきっかけが徳力さんのSNSの教科書が取り上げられたシータ先生の記事であったのである。ここに挙げたお二方に限らず、note では人と人の出会いに感動している。すべての note の出会いに感謝してこの長い<あとがき>を終えたい。

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