上北ふたご(著)、東堂いづみ(原著) 『HUGっと!プリキュア』 第1巻 : 未来を諦めない!
書評:上北ふたご(著)、東堂いづみ(原著)『HUGっと!プリキュア』第1巻(講談社)
6つのエピソードからなる本書の特徴は、はなたちの日常を描いて、変身後のアクションシーンはほとんどない、という点だろう。
これはメディアの特性と各エピソードに費やせる毎数を考えれば、まったく正しい選択であり、本編アニメでは比較的あっさりと描かれる「心の交流」の部分を丁寧に描いて、本編を補強する内容となっている。
さて、私は『HUGっと!プリキュア』のメイン視聴世代から言えば、祖父にあたる年齢で、いわゆる「テレビアニメ第一世代」に属する人間である。
だから、日本のテレビアニメーションの流れはおおよそ押さえてきたが、趣味がアニメに限定されるわけではないので、ある時期からは、時間をとられるテレビアニメはリアルタイムで視ることはせず、放映が終って、特に高い評価が確定してから、まとめて視る、ということをしている。こうしていれば、5年に1シリーズも視れば、それでおおよそはそれで済むからである。
ちなみに、私がリアルタイムでアニメのテレビシリーズを視たのは『超時空要塞マクロス』までで、上のようなかたちで選択的に視たのが『新世紀エヴァンゲリオン』『魔法少女まどか☆マギカ』『けものフレンズ』『DEVILMAN crybaby』といった名作である。
したがって、「プリキュア」シリーズに付いても第1作から、たまにチェックはしていて、それなりに良心的な作品だというのは知っていたものの、シリーズを通して視たことはなかったのだが、『HUGっと!プリキュア』は、ネット上に公開されていた「『ハグプリ』は、少女だけではなく、あらゆる人を、そして大人をも応援する、野心的な作品である」という趣旨の評価を読んで気になり、あとからYouTubeでチェックして「これは作品論を書かねばならない作品だ」とまで思ったのである(ちなみに、今は第1話から順番に鑑賞するため、DVDを買い揃えている最中である)。
私の『HUGっと!プリキュア』論のキモは「大人をも応援する作品」という部分にあり、その画期性をすこしでも多くの人に知ってもらいたいと考えた。
現代は、特に現代日本は、大人たちが「未来」に失望し「暗い明日(クライアス)」しか想像できなくなった時代だと言っても、決して過言ではないだろう。だが、子供たちの未来のためにも、大人には「明日への希望」を決して「諦めない」という強い意志が求められている。絶望して当然の状況でありながら、それでも未来の可能性を切り開くのは、結局のところ「未来を諦めない意志」、つまり『HUGっと!プリキュア』の主人公である、野乃はなが体現した意志なのだ。
こうしたことを、作品にそって少し丁寧に論じた作品論を書いて、すこしでも大人たちに届けたいと、私は考えたのである。
アニメ本編もまた「子供たちを励まし導く作品」であることに違いはないのだが、このようにその対象は「大人」さえも含んでいる。その点、上北ふたごによる、このコミカライズ版『HUGっと!プリキュア』は、ハッキリと「子供向け」に描かれた作品だと言えるだろう。
そこには、愛や希望や友情といった「人間のあるべき姿」が丁寧に描かれている。「スレた大人」たちには「きれいごと」と映るかもしれない内容だが、しかし上北は臆することなく、子供たちへの励ましのメッセージとして、それらを真正面から描き切っているのだ。
作画も大変丁寧で、原作を踏まえつつも新たに付け加えられたエピソードは、原作の志しをよく汲んで補強してさえいる。アニメ本編を楽しんだ子供たちに、ぜひ読んでほしい作品である。
初出:2019年6月28日「Amazonレビュー」
(2021年10月15日、管理者により削除)
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