ある春の思いと運命と
高校生だった私は、将来の夢もなく、勉強したいことも特になかった。
何のこだわりもなかったのでセンター試験は受けなかったし、母親と塾の先生が相談して決めた大学をいくつか受験し、その一つに通うことになった。
高校を卒業した春休み、自分の部屋にひとりでいる時だった。
何の前触れもなかった。
突然そう思ったのだ。
しかし私には、知識が1つもなかった。学区内や周辺地域にはその施設がなく、施設を見たことも、そこで暮らす子どもに出会ったこともなかったからだ。
私の思いは漠然としていて現実味がないと思った。
特に自分で調べてみたりすることも無く、ゆるゆると春休みが終わって大学生になった。
入学して数日経った頃、学内のトイレの中に貼ってある部活やサークルのビラを何気なく見ていると、
運命だと思った。
私の漠然とした思いが、目の前にそのまま実在していた。
しかもその施設は、当時の最寄駅沿線沿いにあり、通うのにも問題なかった。
もちろんすぐに入部した。
それから大学を卒業するまで、ふたりの小学生と、ひとりの高校生の担当になり、毎週通って宿題やドリルやテスト勉強を一緒にやった。
小学生はお姉さん!お姉さん!と甘えてきたかと思えば生意気で、それなのに帰り際にこっそり手紙をくれたりして愛おしかったし、高校生は私が担当になる前、危うい事をしていたので、「あなたは保健体育のテスト(範囲は第二次性徴期)で満点を取りなさい。」と言って猛勉強したのが良い思い出だ。
夏祭りや運動会などの行事にも参加させてもらった。
行事の最中は職員の方が忙しいので、乳幼児の子守り担当になったりして、それはそれは癒やされた。
なんて。
おこがましいにもほどがある。
彼らの人生の一瞬だけれど、関わらせてもらえたことが本当に嬉しかった。
役に立ったとしても、ほんのささやかなものだ。
逆に私の方が、その後の考え方や人生の役に立つ貴重な経験をさせていただいた。
私は大学である分野に出会い、猛勉強しながらそれに関連したいくつかのボランティア活動をする事になる。
この部活動がきっかけであった事は間違いない。
ボランティア活動では行く先々では喜んでもらえたけれど、私にとっては全部、"させてもらった"事だ。
これは、高校生と大学生の狭間で、ぼんやりとしていたあの春休みの私にはわからなかった、大切な気付きだった。