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灰塵は流れて星の海神へ

10歳の時、宇宙好きだった祖父に連れられて行った宇宙旅行ツアー。月や火星、金星などを巡って、最後に訪れた,、生まれたばかりの星。マグマにすっぽり飲み込まれているような、原始の星の衝撃的な姿に、言葉を失った。

まさに、灼熱の海だった。

宇宙船が壊れてしまったら、あのマグマの海に落ちてしまうと怖がる私を、お爺ちゃんは笑いながら宥めてくれた。

”頑丈な宇宙船だ。落ちやしないよ。あれは、マグマオーシャンと言うんだ。なかなか見れないぞ。地球もかつては、こんなマグマだけの星だったんだよ”

お爺ちゃんは、窓に張り付くようにしてマグマの海を見つめていた。マグマの煌めく赤色をじっと見ていると吸い込まれそうに感じて、やっぱり私は怖かった。


宇宙旅行から帰って数年後、お爺ちゃんは入院し、私が20歳の時に亡くなった。特に遺言らしい言葉は無かったけれど、何となく、お爺ちゃんの最後の望みを家族皆が悟っていて。遺骨は、宇宙に撒くことになった。

私が代表者となって、お爺ちゃんの遺骨と共に宇宙船に乗った。無人ロケットに遺骨を乗せて飛ばすこともできたけれど、遺族の代表者が宇宙で遺骨を撒くプランを選んだ。

自分の手で確実に、お爺ちゃんを宇宙に開放してあげたかった。いや、私がお爺ちゃんとまだ、別れ難かったからかもしれない。

私の掌から、遺骨は宇宙に放たれていった。ダイヤモンドの塵のように激しく輝きながら、お爺ちゃんは私から離れていった。

”宇宙の塵は、いつか小石に。小石は集まって岩石になる。その岩石が他の岩石と衝突すれば、新しい星になるんだ。そして、あの燃え盛るマグマオーシャンの星になる。すごいだろう”

突然思い出したお爺ちゃんの言葉が、押し寄せてくる悲しみを和らげてくれた。お爺ちゃんは、あの燃え盛る海の星になる。大好きだった、星そのものになれる。そう信じられた。




窓から流れ星が見える。宇宙の塵や小石が、地球に引き寄せられて燃え尽きる姿。燃え尽きた小石や塵も、途方もない年月を経て、また再び宇宙に戻るだろう。新しい星になっても、そのままでも、宇宙を自由気ままに漂うのだろう。

ベッドサイドチェストに飾ってある、家族写真に目を移した。私と夫と息子夫婦と、孫が2人。全員が映っている。私ももう、お婆ちゃんになった。

生まれたばかりの2人目の孫と、もう少し一緒に過ごしたいけれど、仕方がない。遺言状には、お爺ちゃんと同じように葬ってほしいとだけ書いておいた。

父と母、義理の両親、夫を見送って。死が、いつもそばにいてくれる友達のようになって。お爺ちゃんのことを思い出す時間が増えた。

また、星が流れた。光る短いラインが夜空に浮かんで、すぐに消える。お爺ちゃんは、新しい星になれただろうか。私も、あのマグマオーシャンの一部になるのだろうか。

もしかすると、今まさに1つ2つと流れてくる星が、お爺ちゃんかもしれない。そうならば、私の方が先に灼熱の星になってしまうかも。

「おかえりお爺ちゃん。お先に、星になるよ」

少し笑いながら、囁いた。マグマの星の子に生まれ変わる空想の中で遊んでいると、うつらうつらとしてきた。3つの星がまた、夜空に流れる。


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水月suigetu
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