カンカン詰めのカンカンガクガク
暗い缶詰の中で、まどろみ続ける。
地球に到着したばかりの私たちは、まず数週間ほど、地球人に見つからずに、安静にして地球環境に慣れる必要がある。そんな私たちにとって、缶詰の中は絶好の場所。
先に地球に忍び込んだ先輩たちに倣って、私たちも意気揚々と大きなフルーツ缶に入った。
先輩に忠告された通り、できるだけ大きい缶詰を選んだ。万が一、人間が空けようとしても、「缶切り」なるもので蓋を開けている間に、透明になって脱出できる可能性が高いからだ。
私は4体を率いるグループのリーダー。落ち着いてきた今は皆、本来の姿に戻り、眠っている。私たちは今、半透明の白い球体だ。どうか人間に見つかりませんように。
何光年も宇宙を駆け、やっと地球に辿りついた。予想以上に美味なシロップ漬けのフルーツを食べ尽くしたばかりで、満腹だ。私も、眠い。
ボカン!ドガガガガガガゴーン!
凄まじい爆発音で、ばっちり目が覚めた。
「皆、中央で固まるんだ!」
凄まじい爆発音は止まない。激しく揺れる缶詰の中で、私たちはお互いの身体を支え合った。
爆発音が遠くなっていく。
ほっとした瞬間、身体が浮き上がってきた。5体揃って、ふわふわと浮かぶ。おかしい。地球には、重力があるはず。
「地球が、もしや……爆発?」
「そんなはずない!地球が爆発していたら、こんな缶詰、一瞬でぺっちゃんこだろう」
「……缶詰の外に、出てみないか?」
「駄目だ!人間がいたら、大変なことになってしまう」
「ずっと缶詰めの中にいても、状況が分からないじゃないか」
「静かに!総員、注目!」
混乱して騒がしくなり始めた場を静める。咳払いして、動揺を隠す。今が凛としたリーダーの出番だ。
「とりあえず、救難信号を送る。地球に潜伏している仲間に届けば、救助が来るだろう」
すぐに、白く細長い棒状の手が3本上がった。
「仲間が無事でなかったら?」
「隊長!早く、缶詰の外に出るべきです!」
「いつまで、缶詰で待機するのですか?」
「まだ私たちには体力を取り戻すための休息が必要だ。とりあえず仲間の生存を信じて、3日間、缶詰の中で待機しよう」
またすぐに、手が2本上がる。
「缶詰がいつまで無事かも分かりません!すぐに外に出た方がいいのでは?」
「隊長、救難信号送りました」
「ご苦労。不安なのは分かる。が、今は缶詰を信じよう。あの爆発にも絶えた缶詰だ。しばらくは、大丈夫だろう」
また1本上がった。
「隊長、救難信号が、送信できません……」
「ああ、もうだめだ」「万事休す……」「ほら、外に出ましょうよ!」
再び騒がしくなる缶詰の中で、私は2本の手を出した。頭の上に手を掲げて、救難信号を出してみる。
私たちが今、地球に存在しているならば、強力な電波で送る信号は一瞬で地球の表面全体に届くはず。しかし、届いている感じがしない。ふわりと身体が浮かんで、転がりそうになる。
この浮遊感。もしかすると。これは。認めたくないが、妥当な推測。
「隊長!」「隊長!」「どうしますか隊長!」「隊長!早く脱出を!」
「……皆、落ち着いて聞け。この缶詰は、きっと、おそらく、宇宙空間にある……なにがなんだか分からないが、缶詰ごと宇宙に戻されてしまったんだ……」
一切の音が無くなる。静寂が1分ほど続いた後、1体が缶詰の上蓋にほんの少しの穴を開け、外に出た。しばらくすると、缶詰の外から大きな声がした。
「ああ、なんてこった!本当に、宇宙に戻ってる!」
恐るべし、地球人。
「ビスタ5号との、交信が途絶えました」
オペレーターの声で、私の周りの技術者たちが両手で顔を覆い、しゃがみこんだ。
「画像を見せてくれ」
「はい」
目の前の巨大スクリーンに、もはや宇宙船だったとは思えない、ただの金属の瓦礫が映っていた。頭を抱えた。何てことだ。もはや、修復不可能だ。
宇宙ステーションに物資を補給する宇宙船だったから、被害者が出なかったのは喜ばしい。しかし、たっぷり物資を積んだ輸送機を丸ごと1機失ってしまうのは、大きすぎる痛手だ。
今回は、宇宙食として初めて採用された美味しい缶詰がたくさん積まれていた。特に、あの巨大フルーツ缶は豪華だった。缶詰を待ち望んでいた宇宙ステーションのクルーたちも、がっかりしているだろう。
「……ビスタ5号の修復作業は断念。回収作業は後回しだ。すぐに、代わりの補給機の打ち上げを手配しよう」
スクリーンに、あのフルーツ缶が映り込んだ気がした。
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