
五行五色のアニバーサリーギフト
残った5色のコード。黄色と赤と、青と白黒。既視感がある。いや、色などどうでもいい。どれだ。どの色の線を切ればいい。カッターを握る手に力が入る。
蒸し暑い倉庫で、一人荷物を片付けていたら、見覚えの無い大きな木箱を見つけた。開けなければ良かった。無数の電線と、残り時間を示す数字が減っていくデジタル画面に対面した後から、ずっと後悔している。
あと5分しかない。プロに任せるべきだろうが、時間が少なすぎる。この雑貨店を守るためには、店長の私がやらねば。幸い、機械には強いほうだ。おそらく、5本のコードのどれかが大当たり。そして、どれか一本が大はずれ。
額に汗がにじむ。深呼吸して、覚悟を決める。青いコードを掴み、カッターで切断した。
目を開けると、唐突な青空とせせらぎの音。ざわざわと、木の葉が擦れ合う音。がばりと身体を起こす。木々に囲まれている。山?柔らかい芝生が、手に触れている。
「まったく、真っ先に僕を切るなんて。僕が春を繋げてるのに」
驚いて後ろを振り向くと、翼のある青い大きなトカゲがいた。後ろには、孔雀のような派手な鳥。息を呑んだ。
「本当本当。春が無くなったら困るでしょうに」
「夏が無くなっても困るよ」
「そうね。まぁ、どの線も切らないでいて欲しかったわ」
不機嫌な様子の鳥とトカゲが話している。ここはあの世か?あの爆弾は、爆発してしまったのか?
「いいえ。あれは爆弾ではありませんし、あなたは生きてます」
「麒麟、あれは勘違いしても仕方がないと思うぞ。すまんね。あれは爆弾ではない。私達からの贈り物だ。私と青龍、朱雀と白虎、麒麟からのね」
「私達のミスであんな風になってしまった。すまない。だから、皆でお詫びするために君をここに案内した。帰りは私が送ろう。白虎の背中に乗れるなんて、なかなか貴重だぞ」
また後ろから声が聞こえた。今度は角が立派な鹿?のような動物。大きな亀と白い虎を従えている。そして、それぞれが順々に、滑らかにしゃべり出す。思考を放棄したくなった。
後ろにいたはずの派手な鳥が目の前に現れ、のけ反る。
「ここはね、人間は来れない神聖な場所なの。実際に存在してる場所だけど、人間は入れない。神様用の会議室みたいなもの。つまりVIPルームね」
麒麟、と呼ばれていた鹿のような動物が進み出てきた。
「七夕は、私達とあなた達が祈り合う日。その日に、私達はいつも贈り物をするのです。今回は、手違いが起きてしまったのです。本当に申し訳ない。後日、お詫びの品を送ります」
「それじゃ、そろそろ送ろう。ここは人があまり長居するべきとこじゃない。さぁ、行くぞ」
白い虎がこちらに飛び込んできたと思った瞬間。
私はいつものベッドの上で目覚めた。
変な夢を見た気がする。着替えて顔を洗い、コーヒーを淹れる。そして、ポストを確認した。新聞と一緒に、分厚い封筒が入っていた。
何も書かれていない封筒。不思議に思い、封を開ける。様々な押し花が収まっている手帳と、5色の長い紐。組紐?というものだろうか?光沢のある糸で、しっかり編み込まれている。
黄色と赤と、青と白黒。あ、これは、確か。壁にかかったカレンダーを確認する。やっぱりそうだ。まさに今日だ。
七夕。星祭りの日。黄色と赤と、青と白黒の短冊を掲げる日。
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