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1次元イジング模型(外場なし)を高校数学で解く


はじめに

 ねこっちです。今回は、数学・物理に関する内容を書きます。

イジング模型について

 昨日、大学の授業で「イジング模型」を学びました。まず、イジング模型とは何かを簡単に説明します。

 方眼紙を思い浮かべて下さい。正方形が無数に敷き詰められたものを想像すればOKです。次に、この無数の正方形の頂点の1つ1つに、上向きか下向きの矢印を描きます。例えば、次のような感じです。


正方形の各頂点の上に、矢印を描いた図です。

 このとき、次のような規則を考えます。

規則:各正方形の辺に対して、両端の矢印が同じ向きであれば$${-J}$$のエネルギーを与え、逆向きであれば$${J}$$のエネルギーを与える。ただし$${J>0}$$とする。

 この規則のもとで、得られたエネルギーを全ての辺に対して足します。すると、ある矢印の配列パターン$${A}$$に対して、エネルギーの総和$${E(A)}$$が必ず一つ定まります。

 このようにして、矢印の配列に対してエネルギーを対応させるものを、(外場なしの)イジング模型と言います。

 これを、全ての矢印の組み合わせに対して計算して、それについて次の式を計算します:

$$
Z=\sum_{A}e^{-\beta E(A)}\quad\dots(*)
$$

 ここで$${\beta}$$は逆温度という数です。上の和に対しては、定数となっています。

1次元イジング模型

 上の図のように、正方形の上に矢印が並んでいるものを「2次元イジング模型」と言います。矢印が2次元上に並んでいるからです。

 それに対して、直線上に矢印が並んでおり、上の規則に従ってエネルギーを与えるものを「1次元イジング模型」と言います。図で描けば次のような感じです。


矢印が直線上に並んでいる、1次元イジング模型の例です。

 上の図で言えば、左から順に「同じ向き」「逆向き」「逆向き」「逆向き」「逆向き」となるので、$${-J}$$が1個、$${J}$$が4個となり、エネルギーは$${-J+4J=3J}$$となります。

 本記事では、この「1次元イジング模型」について、矢印が$${N}$$個ある場合に、上の$${(*)}$$式を一般的に計算します。

 ここからは専門的な話になります。

 授業では、「自由境界条件」と「周期的境界条件」の2つの場合に対して、分配関数(上の$${(*)}$$のこと)を計算しました。自由境界条件の場合は、各矢印に関する和を1つずつとることで、また、周期的境界条件の場合は、転送行列という行列を導入することで解けると、先生は解説されていました。

 一方、私はこれを(知識上は)高校数学の範囲で解く方法を考えたので、本記事でシェアします。

 なお、自由エネルギーや熱力学量を求めるのは分配関数から機械的に計算できるので、この記事では、分配関数$${(*)}$$を計算することをもって「解く」とします。

 では、始めていきます。

自由境界条件に対して

 通常は、矢印の向きを主役にしたうえで、矢印の間に働くエネルギー(相互作用)を計算するという手法をとりますが、ここでは相互作用のほうを主役にします。つまり、矢印の配置の代わりに、$${J}$$や$${-J}$$の配置を考えて、それが実際の矢印の配置のパターンを再現するように調整します。

 そのために、$${N}$$個の矢印の間に、$${(N-1)}$$個の中間点を考え、そこに$${J,-J}$$のエネルギーをどう配置するかを考えます。$${(N-1)}$$個の中間点に、$${J}$$を$${m}$$個配置するとすれば、$${-J}$$は$${(N-1-m)}$$個配置されることになります。

 この時の場合の数は、$${{}_{N-1}C_m}$$通りとなります。

 その各々に対して、左端の矢印が上か下かの2通りがありますから、$${J}$$が$${m}$$個あるような配置の数は、$${2{}_{N-1}C_m}$$通りとなります。

 一方、$${J}$$が$${m}$$個ある時のエネルギーは

$$
E=E(m)=Jm+(-J)(N-1-m)=2Jm-J(N-1)
$$

となるので、分配関数は次のようになります:

$$
Z=\sum_{m=0}^{N-1}2{}_{N-1}C_me^{-\beta(2Jm-J(N-1))}
$$

 整理して

$$
Z=2e^{(N-1)\beta J}\sum_{m=0}^{N-1}{}_{N-1}C_me^{-2\beta Jm}
$$

となります。これは二項定理を用いれば計算でき、

$$
Z=2e^{(N-1)\beta J}(1+e^{-2\beta J})^{N-1}=2(e^{\beta J}+e^{-\beta J})^{N-1}
$$

となります。これで分配関数が求まりました。

 少しだけ高校数学から逸脱しますが、この解は

$$
Z=2(2\cosh \beta J)^{N-1}
$$

と書けます。

周期的境界条件に対して

 次は周期的境界条件に対して分配関数$${(*)}$$を計算します。周期的境界条件とは、$${N}$$個の矢印が乗っている線が環状につながっており、1番目と$${(N+1)}$$番目が同じ時のことを言います。

 自由境界条件と同様に、相互作用を主役にして考えます。

 $${N}$$個の矢印について分配関数を計算する場合、1周して元に戻る必要があるので、逆向きの相互作用$${J}$$が偶数個であればよいことが分かります。逆に、$${J}$$が偶数個であれば元に戻るので、これが周期的境界条件の必要十分条件であることが分かります。よって、$${J}$$の数を$${2n}$$と置きます。

 また、今度は$${J,-J}$$を置く位置が$${N}$$個になります。この$${N}$$個の位置に、$${J}$$を$${2n}$$個置く場合の数は、円順列ではないので素直にコンビネーションで計算して、$${{}_NC_{2n}}$$通りとなります。

 このとき、エネルギーは$${n}$$の関数として

$$
E=E(n)=J\cdot2n+(-J)\cdot(N-2n)=4nJ-NJ
$$

となります。さらに、上で述べた場合の数のそれぞれに対して、ある一つの矢印が上か下かの2通りがあるので、分配関数は

$$
Z=\sum_{n=0}^{[N/2]}2_NC_{2n}e^{-\beta(4nJ-NJ)}
$$

と表せます。$${[\cdots]}$$はガウス記号です。あとはこれを計算します。

 まず、関数$${T_N(x)}$$を次のように置きます:

$$
T_N(x)=\sum_{n=0}^{N}{}_NC_nx^n=(1+x)^N\quad\dots(1)
$$

 2つ目の等号は二項定理から従います。このとき、

$$
T_N(-x)=\sum_{n=0}^{N}{}_NC_n(-x)^n=(1-x)^{N}\quad\dots(2)
$$

となるので、(1)+(2)を計算すると$${x}$$の偶数次項のみが残り、

$$
T_N(x)+T_N(-x)=2\sum_{n=0}^{[N/2]}{}_NC_{2n}x^{2n}
$$

となります。一方これは$${(1+x)^N+(1-x)^N}$$に等しいので、等式

$$
\sum_{n=0}^{[N/2]}{}_NC_{2n}x^{2n}=\frac{(1+x)^N+(1-x)^N}{2}
$$

を得ます。この式で$${x=e^{-2\beta J}}$$と置くことで、分配関数は

$$
Z=2e^{\beta NJ}\sum_{n=0}^{[N/2]} {}_{N}C_{2n}e^{-4\beta Jn}\\
     =2e^{\beta NJ}\frac{(1+e^{-2\beta J})^N+(1-e^{-2\beta J})^N}{2}\\
     =(e^{\beta J}+e^{-\beta J})^N+(e^{\beta J}-e^{-\beta J})^N
$$

と計算できます。

 自由境界条件の時と同様に、これは双曲線関数を用いて

$$
Z=(2\cosh\beta J)^N+(2\sinh\beta J)^N
$$

と書けます。

 以上で分配関数が計算できました。

最後に

 今回は、外場のない1次元イジング模型について、高校数学の範囲で分配関数を計算しました。各小節の最後の、双曲線関数を用いた表示は高校数学を外れますが、それ以外は、場合の数や二項定理のみを用いているので、分配関数の表式さえ天下り的に認めれば、高校数学の範囲に収まっていることと思います。

 まだイジング模型を知って日が浅く、説明は分かりづらい部分もあるかもしれませんが、その点はご容赦下さると幸いです。今後、さらに勉強して、巧い説明が書けるようになっていきたいです。

 今回は以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

<参考文献>
・『統計力学』(長岡洋介 著、岩波書店)

   ねこっち

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