文字喰い ~モジクイ(アヤの妖怪退治シリーズ)
私が所属しているHEARシナリオ部で書いた作品です。
月に一度テーマを決めて、部員で作品を書き合います。
フリーで朗読・声劇で使用できる物語です。
配信などでご利用される場合は文末の規約に従ってご利用ください。
■HEARシナリオ部公式(他の部員の作品も読めます。現在、150本以上)
■その他の ねこつうが書いたHEARシナリオ部投稿作品
■エッセイも含めたその他の ねこつうの作品の目次へ
■
――チッチッチッチッチ
私は、どこまでも並んでる本棚の間を、舌打ちしながら動く。暗闇の中、その反響を耳で聞きながら、どこに何があるか把握する。エコロケーションと呼ばれる技術だ。
あたしたちは、暗闇で戦わなければならないことがあるので、皆、この技術を持っている。
あたしは、あの女の子の事を思い出した。
■
この屋敷の客間で、あたしと依頼主は、依頼内容を確認をした。
その時、ドアの隙間から、女の子が覗いていたのは気づいていた。
部屋を出ると、小学生くらいの年齢の女の子が近寄って来た。
「お願い『あれ』を殺さないで」
と彼女は言った。
■
――チッチッチッチッチ
謝礼を前金でもらった上に、予定の日に酔いつぶれてるなんて……
あんの! ババアっ!
……ごそっ
音がした。何かが動いた。
いけない、いけない。集中、集中……。
■
あたしは、彼女の問いに答えなかった。
『それ』を殺してくれ、というのが、今回の依頼だったから。
「お願い! お父さんも、お母さんも死んじゃって、わたし、学校にも行けない、悪い子なの。でも、あの子たちは、私になついてくれたの」
両親が交通事故で死に、祖父に預けられた彼女は、
偶然、地下の書庫に入ったらしい。
そこで、本を読んでいるうちに、使用人が気づかず、電灯を消してしまった。
あまりにも広い書庫の中、真っ暗になってしまって、彼女は、恐怖に襲われた。
声も上げられない。
そんな時に、彼女のそばに『あれ』が近づいてきた。
彼女は最初『それ』に恐怖したが、
『それ』は穏やかな存在だということがわかった。
見えないけれど、体も触らせてくれた。
しきりに、彼女の周りにすり寄っては、離れを繰り返した。
彼女もピンと来た。
『それ』を触りながら、ついていくと、出口のドアまで、辿り着くことができた。
■
――チッチッチッチ
モジクイなんて、絶滅したと思われていた。
滅多にいない妖怪で、モジクイの生態は、謎に包まれている。
暗闇の中でのみ行動し、光がある所では絶対に活動しない。
どういうわけか、暗視鏡を使っても、姿を確認できない。
何か、まだ解明されていない特殊な仕組みがあるのだろう。
彼らを追跡するためには、音だけが頼りになる。
モジクイについては、わからない事だらけだが、モジクイが住み着いた書庫や図書館は、白紙の本が増えていく。
文字を食べているのだろうか。
それ以外のことは、何もわかっていない。
■
女の子は言った。
「お願い! あの子たちには、レシートや、チラシの文字だけ食べて、
図書館の本の文字を食べないようしつけるから。
あの子たち、悪い子たちじゃないの。お願い、殺さないで!」
あたしは黙っていた。
「野生生物」に「これは食べないで、この餌だけ食べろ」と、しつけるのは不可能だ。
そして、下手に餌を与えて数が増えても……
ん? あの子……たち?
■
―― チッチッチッチッチ
……ごりっ
今度は、こっちの方が動いた。二匹いる?
一つの気配は小さい。
もう一つは大きい。
私は七千冊もある依頼主の蔵書の中を歩き回った。
――チッチッチッチ
モジクイの動きは非常にのろい。ただ、漆黒の闇の中、複雑な移動するから、捕えにくいだけだ。
■
――チッチッチッチッチ
どのくらい追いかけっこをしただろうか。ようやく、小さい奴に追い付いて、そいつの柔らかい甲羅みたいな体に触った。捕まえた。
―― キーー! キーーー!
ぱたっ! ぱたっ!
急所を見つけて、モジクイの体内に右手を突っ込んで………………
う……相手の感情が、私の中に流れ込んで来た。
捕まえられ、殺される恐怖……
モジクイは人間には危害を加えないし、抵抗する力もない。
ただ、彼らなりに、生きている事が、彼らの営みが……人間にとっては、不都合なだけだ。
モジクイの核をつかんで……
ごそごそごそ……
――ギーーーー!
大きいもう一匹が、モジクイにしては、物凄いスピードでこちらに、近づいてくる。
ああ、そっか…………この子の親……か……
あたしは、すぐそばまで来たもう一匹のモジクイを……
もう一匹のモジクイから伝わってくる感情は、恐怖じゃない……強烈な……怒りと哀しさだ。
―― キーー!
―― ギーーーー……
ばたばた……
大きい方のモジクイの体内にも左手を突っ込んだ。
妖怪の急所は、初見でも、波動でだいたいわかる。
あたしたちは、そういう訓練を受けている。
あたしは、急所を握り、砕いた。
―― シューー!
二匹の妖怪が、消滅する音が聞こえた。
■
…………あれ、おかしいな。なんで、目から液体が出るんだろう。
あはは……おかしいな……多分、疲れてるんだ。
ってえ! こんなの、あたしらくない!!!!
こんな感性があったら、仕事できなくなるじゃん!
ああ、もう!!!!
婆ちゃん、なんで、こんな仕事を押し付けるんだよう!!!!
婆ちゃんが次の仕事してきたときは、しこたま大吟醸を奢らせてやる!!!!
・この作品は朗読、配信などで、非商用に限り、無料にて利用していただけますが著作権は放棄しておりません。テキストの著作権は、ねこつうに帰属します。
・配信の際は、概要欄または、サムネイルなどに、作品タイトル、作者名、掲載URLのクレジットをお願いいたします。
・語尾や接続詞、物語の内容や意味を改変しない程度に、言いやすい言い回しに変える事は、構いません。
・配信の際の物語の内容改変をご希望される場合は、ねこつうまでご相談ください。
・また、本規約は予告なく変更できるものとします。当テキストを用いた際のトラブルには如何なる場合もご対応いたしかねますので、自己責任にてお願いいたします。