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文字喰い ~モジクイ(アヤの妖怪退治シリーズ)

私が所属しているHEARシナリオ部で書いた作品です。
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――チッチッチッチッチ

私は、どこまでも並んでる本棚の間を、舌打ちしながら動く。暗闇の中、その反響を耳で聞きながら、どこに何があるか把握する。エコロケーションと呼ばれる技術だ。

あたしたちは、暗闇で戦わなければならないことがあるので、皆、この技術を持っている。

あたしは、あの女の子の事を思い出した。

この屋敷の客間で、あたしと依頼主は、依頼内容を確認をした。
その時、ドアの隙間から、女の子が覗いていたのは気づいていた。
部屋を出ると、小学生くらいの年齢の女の子が近寄って来た。
「お願い『あれ』を殺さないで」
と彼女は言った。

――チッチッチッチッチ

謝礼を前金でもらった上に、予定の日に酔いつぶれてるなんて……

あんの! ババアっ!

……ごそっ

音がした。何かが動いた。

いけない、いけない。集中、集中……。

あたしは、彼女の問いに答えなかった。
『それ』を殺してくれ、というのが、今回の依頼だったから。

「お願い! お父さんも、お母さんも死んじゃって、わたし、学校にも行けない、悪い子なの。でも、あの子たちは、私になついてくれたの」

両親が交通事故で死に、祖父に預けられた彼女は、
偶然、地下の書庫に入ったらしい。
そこで、本を読んでいるうちに、使用人が気づかず、電灯を消してしまった。

あまりにも広い書庫の中、真っ暗になってしまって、彼女は、恐怖に襲われた。
声も上げられない。

そんな時に、彼女のそばに『あれ』が近づいてきた。

彼女は最初『それ』に恐怖したが、
『それ』は穏やかな存在だということがわかった。
見えないけれど、体も触らせてくれた。
しきりに、彼女の周りにすり寄っては、離れを繰り返した。

彼女もピンと来た。
『それ』を触りながら、ついていくと、出口のドアまで、辿り着くことができた。

――チッチッチッチ

モジクイなんて、絶滅したと思われていた。

滅多にいない妖怪で、モジクイの生態は、謎に包まれている。

暗闇の中でのみ行動し、光がある所では絶対に活動しない。
どういうわけか、暗視鏡を使っても、姿を確認できない。
何か、まだ解明されていない特殊な仕組みがあるのだろう。
彼らを追跡するためには、音だけが頼りになる。

モジクイについては、わからない事だらけだが、モジクイが住み着いた書庫や図書館は、白紙の本が増えていく。

文字を食べているんだろうか。
それ以外のことは、何もわかっていない。

女の子は言った。

「お願い! あの子たちには、レシートや、チラシの文字だけ食べて、
図書館の本の文字を食べないようしつけるから。
あの子たち、悪い子たちじゃないの。お願い、殺さないで!」

あたしは黙っていた。

「野生生物」に「これは食べないで、この餌だけ食べろ」と、しつけるのは不可能だ。
そして、下手に餌を与えて数が増えても……

ん? あの子……たち?

―― チッチッチッチッチ

……ごりっ
今度は、こっちの方が動いた。二匹いる?

一つの気配は小さい。

もう一つは大きい。

私は七千冊もある依頼主の蔵書の中を歩き回った。

――チッチッチッチ

モジクイの動きは非常にのろい。ただ、漆黒の闇の中、複雑な場所を移動するから、捕えにくいだけだ。


――チッチッチッチッチ

どのくらい追いかけっこをしただろうか。ようやく、小さい奴に追い付いて、そいつの柔らかい甲羅みたいな体に触った。捕まえた。

―― キーー! キーーー!

ぱたっ! ぱたっ!

急所を見つけて、モジクイの体内に右手を突っ込んで………………

う……相手の感情が、私の中に流れ込んで来た。

捕まえられ、殺される恐怖……

モジクイは人間には危害を加えないし、抵抗する力もない。

ただ、彼らなりに、生きている事が、彼らの営みが……人間にとっては、不都合なだけだ……

モジクイの核をつかんで……

ごそごそごそ……

――ギーーーー!

ん? 大きいもう一匹が、モジクイにしては、物凄いスピードでこちらに、近づいてくる。

ああ、そっか……仲間……いや…………この子の親……か……

あたしは、すぐそばまで来たもう一匹のモジクイを……

もう一匹のモジクイから伝わってくる感情は、恐怖じゃない……強烈な……怒りと哀しさだ。

―― キーー!

―― ギーーーー……

ばたばた……

大きい方のモジクイの体内にも左手を突っ込んだ。
妖怪の急所は、初見でも、波動でだいたいわかる。
あたしたちは、そういう訓練を受けている。

あたしは、急所を握り、砕いた。

―― シューー!

二匹の妖怪が、消滅する音が聞こえた。

…………あれ、おかしいな。なんで、目から液体が出るんだろう。

あはは……おかしいな……多分、疲れてるんだ。

ってえ! こんなの、あたしらくない!!!!

こんな感性があったら、仕事できなくなるじゃん!

ああ、もう!!!!

婆ちゃん、なんで、こんな仕事を押し付けるんだよう!!!!

婆ちゃんが次の仕事してきたときは、しこたま大吟醸を奢らせてやる!!!!


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