赤ワインが、魚介類と驚くほど相性が良い理由:ワインの隠れた味わいの秘密—アミノ酸が生み出す豊かな風味
ワインには、うま味成分以外のアミノ酸もある
うま味成分であるグルタミン酸は、アミノ酸の一種です。ワインには、グルタミン酸がヒトが感じるよりも低い濃度ではありますが、含まれています。旨味成分のあるお料理と合わせることにより、うま味の相乗効果が生まれ、うま味を感じることができると言われてます。
そして、グルタミン酸以外のアミノ酸も多くあります。これらのアミノ酸は、甘味、酸味、苦みなど、ワイン全体の風味や口当たりを豊かにする効果があります。
ワイン中にある甘味のあるアミノ酸たち♫
ワインに含まれているアミノ酸は様々な種類のものがあります。その中で、甘い味わいのあるアミノ酸があります。
「ワインに含まれるアミノ酸 甘味は糖だけじゃなかった」では、D-アミノ酸についてご説明しました。今回は、以前より参考にしているCharlotte Vinther Schmidt博士が、書いている論文を元に、甘いアミノ酸について、整理してみました。
1. Proline (プロリン)
ワイン中で最も多く含まれることが多いアミノ酸
シャンパンに多く含まれている
発酵過程で酵母に利用されにくく、ワイン中に残りやすい
強い甘味を持ち、ワインの風味に最も大きな影響を与える
甘味やまろやかさ、滑らかさを顕著に増強
2. Glycine (グリシン)
穏やかな甘味と柔らかさをワインに与える
繊細な甘味で、他の成分とのバランスを取る
口当たりを柔らかく、滑らかにする効果
飲みやすさや優しい印象を与える
全体的な風味の調和や口当たりの滑らかさに寄与
3. Alanine (アラニン)
Prolineほどではないが、ワインの味わいに影響
甘味を持ち、まろやかさと果実味を強調
フルーティで柔らかな口当たりのワインで重要な役割
ワインに滑らかさを加え、テクスチャを柔らかくする
4. Threonine (スレオニン)
若干の甘味があり、バランスの取れた風味を形成
滑らかさとクリーミーな質感をワインに与える
全体のバランスやテクスチャに寄与
口当たりが柔らかく、まろやかな印象を与える
5. Serine (セリン)
微妙な甘味と柔らかさをワインにもたらす
全体的な風味のバランスを整える重要な役割
柔らかさや滑らかな質感を付与
飲み心地が穏やかで、優しい印象を与える
複雑な風味や柔らかなテクスチャを持つワインの特徴を引き立てる
赤ワインと白ワインに含まれるアミノ酸の濃度
論文によると、赤ワインと白ワインのアミノ酸含有量は、シャンパンと比較して異なるプロファイルを持っています。
プロリン(Proline):
赤ワイン: プロリンは、特に赤ワインに多く含まれています。FAAの中で最も高い割合を占めており、濃度はワイン全体のアミノ酸の約61%を占めます。
白ワイン: 白ワインにもプロリンが多く含まれており、濃度はワイン全体のアミノ酸の約54%に達します。
グリシン(Glycine):
赤ワイン: グリシンの濃度は比較的低く、ワイン全体のアミノ酸の中で約1%を占めます。
白ワイン: 白ワインでも同様にグリシンの含有量は低く、約2%です。
アラニン(Alanine):
赤ワイン: アラニンはワイン全体のアミノ酸の約5%を占め、赤ワインの甘味を引き立てます。
白ワイン: 白ワインでは、アラニンは約4%を占めます。
スレオニン(Threonine):
赤ワイン: スレオニンの濃度は非常に低く、ワイン全体のアミノ酸の1%未満です。
白ワイン: 白ワインでもスレオニンの濃度は同様に低くなっています。
セリン(Serine):
赤ワイン: セリンはワイン全体のアミノ酸の約1%を占めています。
白ワイン: 白ワインでは、セリンの割合は約2%です。
プロリン、グリシン、アラニン、スレオニン、セリンを含む食品
1. プロリン(Proline)
チーズ: 熟成されたチーズにもプロリンが豊富に含まれており、結晶化していることが確認できる場合があります。
2. グリシン(Glycine)
肉類: グリシンは、特に肉や骨髄、ゼラチンに豊富です。調理や加工過程で抽出される出汁やスープに多く含まれています。
豆類: 大豆やその他の豆類にも比較的多くのグリシンが含まれています。
3. アラニン(Alanine)
発酵食品: 味噌や醤油などの発酵食品にアラニンが豊富に含まれています。
穀物: 穀物、特に大麦や玄米にもアラニンが含まれています。
4. スレオニン(Threonine)
卵: スレオニンは卵白に多く含まれています。
乳製品: 牛乳やチーズなどの乳製品にもスレオニンが豊富です。
5. セリン(Serine)
大豆製品: セリンは大豆や豆腐、納豆などの大豆製品に多く含まれています。
魚類: 魚、特に白身魚にもセリンが含まれています。
滑らかなスタイルの赤ワインが、魚介類と驚くほど相性が良い
探してみると、アメリカのワインジャーナリスト Randy Caparoso氏がワイン中の旨味について書いてました。
一部を抜粋して、日本語訳を下記に転載します。
「 白ワインとは異なり、ブドウの果皮と接触させて発酵させることでアミノ酸が濃縮される赤ワインが、うま味を感じさせる可能性が高いのです。このため、ソフトでフルーティー、かつ多種のスパイスの香りがするグルナッシュ(別名ガルナッチャ)、サンソー、ピノ・ノワール、さらには飲みやすいスタイルのジンファンデル、ムールヴェードル、プティ・シラーなどのタンニンの少ない赤ワインは、例えば、ウッドグリルしたサーモンやマグロのステーキと非常に良く合うように感じられます。
また、滑らかなスタイルの赤ワインが、牡蠣、ハマグリ、ムール貝、イカ、塩タラ、その他の意外な魚介類と驚くほど相性が良い理由も説明できる。特に、サフランで色付けしたブイヤベース、ブーリド、チオッピーノ、その他の魚介類のスープではその傾向が強い。つまり、ワイン愛好家がしばしば経験する「目からウロコが落ちるような」感覚の背景にあるのが「うま味」なのです。多くの赤ワインが白ワインよりも魚料理に合うことに初めて気づいたときの感覚です。」
そして、料理との組み合わせで、”うま味爆弾ブイヤベース”とカルフォルニアのパソ・ロブレスの赤ワインの組みあわせた写真を載せてます。
「魚介類は白ワインがあう」と思ってしまいますが、どうやら違うようですね。
まとめ
ワイン中のアミノ酸は、単独ではなく相互に作用し合いながら、ワインの複雑な風味プロファイルを形成しているようです。特にProlineとAlanineは甘味と果実味の強化に大きく貢献し、GlycineとThreonine、Serineは全体的なバランスと滑らかさを向上させていると報告されています。ワイン中の成分がわかると、味わいが予想できたり、お料理とのマリアージュへの理解が進んだりするかもしれませんよね?
参考文献
1.Vinther Schmidt C, Olsen K, Mouritsen OG. Umami synergy as the scientific principle behind taste-pairing champagne and oysters. Sci Rep. 2020 Nov 18;10(1):20077. doi: 10.1038/s41598-020-77107-w. PMID: 33208820; PMCID: PMC7676262.
2.Vinther Schmidt C, Olsen K, Mouritsen OG. Umami potential of fermented beverages: Sake, wine, champagne, and beer. Food Chem. 2021 Oct 30;360:128971. doi: 10.1016/j.foodchem.2020.128971. Epub 2021 Jan 6. PMID: 34052711.
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