冬を待つ幽霊
ひとりの部屋。布団の上に寝転がってスマートフォンをいじっては、その何もなさに打ちひしがれる。
はやめに布団に入り目覚ましをつけたはいいものの、まだまだ到底眠れそうにはなくて、もうスマホを触らないぞと決めて天井を眺めた。
希死念慮はいつだって眠れない夜に襲ってきて、死にたがりの夜に布団の殻をかぶる。どれだけの安心材料があったって、人には話さない悩みが常にそこにはあって、ぎゅっと丸まった身体の奥に押し込める。
天井についたまるい明かりは月みたいだと思って、あの日見た星空や流れる星のことを思った。
小学生の頃、冬の流星群の日に姉と二人で実家の前の駐車場に敷物を敷いて、寒いなか毛布をかぶって流れる星を眺めていました。
大して見えるわけではないのだけれど、時々星がスーっと流れていって、今の見た?見えた?と聞き合う。その記憶が今も鮮明に残っていて、冬の夜の空気を嗅ぐといつもそのことを思い出します。
きらきらとひかる星空や途方もない宇宙のこと、冬の夜の空気がいまも好きなのは、きっとその記憶があったからなのでしょう。
何も考えずに宇宙ステーションの布団から、月が照らし車のライトが星みたいに流れる天井を眺める。ここはわたしだけの宇宙だと、手を影絵みたいにしてスペースシャトルを飛ばす。
夢の中に落ちてしまえば、楽になることは分かっているのだけれど、まだこの宇宙を終わらせたくなくて、ずっと眠れないままでいました。
太陽の照らす昼にはいつもどこかに人の気配がして、誰かの目を気にしながら息をしている。
月の照らす夜には自分自身の気配がして、ぜんぶお前のせいだと言われているような気がする。
ただひたすらに心をまもって、朝を待つこと。
だれにも傷つけられてたまるかと膝を抱えて、朝日が照らす前の太陽も月もない街を眺めた瞬間、それは世界の隙間のようでした。
いつだって朝焼けは人の顔も知らずに希望みたいな顔をして、街を白く染めていく。わたしだけの宇宙はあっという間に消えていって、それぞれのアラームが鳴り洗濯機を回す音がしはじめて、当たり前の世界がはじまる。
わたしは消えてしまいたくなって、幽霊みたいに窓の中から外を眺めている。
わたしはあの時のまま、ずっとあの場所で星を見ているのだと思います。手の温もりに触れたらあなただと分かるように、かじかんだ手の冷たさを感じるたび、あの時のわたしと出会えたことに気がつく。
だからわたしは冬を待ってしまうのです。この街に吹く寂しさのことをずっと。その時だけは、この世界に実体があるような気がするから。少しだけ存在していてもいいような気がするから。
大人の顔をして白い街を生きている今も、あの頃のわたしに会えたら、その手をとって原っぱへ向かい、子どもみたいに寝転がって星空を眺められる。
朝焼けに白む街。
冬を待つ幽霊。
流星群の真下。
今はもういないあなたを、わたしはここでずっと待っている。