10月のねこ

生まれ落ちた10月の、乾いた秋の空気と金木犀の香りが好きです。「陽だまりのかけら」という場所で毎週エッセイを更新しています。

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最近の記事

冬を待つ幽霊

ひとりの部屋。布団の上に寝転がってスマートフォンをいじっては、その何もなさに打ちひしがれる。 はやめに布団に入り目覚ましをつけたはいいものの、まだまだ到底眠れそうにはなくて、もうスマホを触らないぞと決めて天井を眺めた。 希死念慮はいつだって眠れない夜に襲ってきて、死にたがりの夜に布団の殻をかぶる。どれだけの安心材料があったって、人には話さない悩みが常にそこにはあって、ぎゅっと丸まった身体の奥に押し込める。 天井についたまるい明かりは月みたいだと思って、あの日見た星空や流

    • 10月11日

      アラームが鳴って目を覚ました。 休みの日だというのに起きなければいけないのは何故なんだろう、と思いながら「明日は午前中に起きて洗濯や掃除を済ませよう」とアラームをセットした自分のことを恨む。 ひとまず歯を磨いてからシャワーを浴び、体にもうすぐ昼になってしまうぞと伝える。目を覚ますという行為が昔からほんとうに苦手だ。 今日は何も予定を入れていない休みなので、普段洗えないものもみんな洗ってしまおうと、洗濯機を2回まわした。 洗濯をしている間に、ラグにコロコロをかけクイックルワ

      • いつか風に変わった記憶

        今年も、ようやく秋の風が吹きはじめました。 音がなくなったように乾いた空気のなか吹く、つめたい風のことがわたしはとても好きです。 放課後、一人のライブハウス。 コーヒーとドーナツ、何も知らない映画のチケットを取ったミニシアター。 学校帰りの川沿いを歩けば、当時の友人たちがいまも歩いているような気がする。 それぞれの季節に、それぞれの記憶がありますが、秋の香りがするとその多くの記憶を思い出します。 わたしがいつか死んでしまったとして、記憶をいくつかなくしたとしても、この香り

        • 生活を営むこと

          この8月から、一人での暮らしをはじめました。 心身ともにあたらしい場所にいきたいという気持ちからはじまって、単純に職場に近い場所だからとか、パートナーや友人たちとすぐに会えるからとか、そういうメリットもあって進めていました。 分かってはいたことですが、いざ一人で暮らすとなるとけっこう大変なものです。 仕事に行く前に洗濯やちょっとした掃除をして、帰ったら夜ごはんをつくって食べる。あらためて考えてみると生活を営むというのは忙しないことだなと思いました。家族やペットがいる人を

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          変わらない過去とイヤホンから流れるラジオのこと

          『みなさん、こんばんは。……です。本日は…』 朝起きて仕事に行くとき、いつもの駅まで40分くらい歩いています。 近くに15分くらいで着く駅もあるのですが、夏や雨の日以外はずっと、仕事に行く前のお散歩の時間としてよく歩いています。 ここ最近は金木犀が咲きはじめ、ふわっと香るたびに「うわ…うれしい…」と、大好きな10月がようやくやってきたかと胸を躍らせて。 暖かい日差しと肌を撫でる涼しい風、秋の花は咲いて草の香りがする。これほどに美しい季節のことを、わたしはとても愛していま

          変わらない過去とイヤホンから流れるラジオのこと

          また会えたね

          これまで書いてきたエッセイを、ふと読み返してみることがあります。 数十日前。数ヶ月前。数年前。 いろんな眠れない夜にたくさんの言葉を綴ってきました。始めた頃は、すぐに書けなくなってしまうのではないかと思っていましたが、いまは数ヶ月単位ながらもなかなかによく続いているものです。 生活の中で、日々の中で、自分で書いた言葉たちのことをどんどん忘れていきます。一緒にいたことは覚えているけれど、なにを話したのか覚えていない記憶みたいに。 ありがたいことに、エッセイをいつも読んでく

          また会えたね

          冬の光

          わたしは移り変わる季節の中、冬に差す光のことがとても好きです。それは必ずしも目に見える、行き交う人や街並みを照らす光だけではなくて、心の内側に差す光みたいな記憶のこと。 指先まで冷え切るような夜に、コンビニで買ったほかほかのにくまんとか、自販機に並ぶ赤いラベルのついた飲み物たち、この日々にしかない缶に入ったおしることか、なかなか粒の出てこないコーンポタージュとか。 それらはどれも、この真っ暗な世界に薄く光る灯りみたいなもので、もう目に映すことのない過ぎ去った時間のこと。た

          この星のかけら

          「ツートントン、ツーツー。」 この広い宇宙のなかで、その星の上にいるあなたに、この声が届いているでしょうか。モールス信号を使ってみましたが、意外と通じるかもしれないと思って話しかけています。 子どもの頃から、そういう空想をするのが好きでした。宇宙人はどんな言葉を話すのだろうという楽しい空想もしていましたが、ある時から果てしない宇宙のことを考えては怖くなって眠れなくなり、どこかで「宇宙の果てにはブラックホールがあるらしい」という話を聞いてから、ひと安心したことを覚えています

          この星のかけら

          あなたのための星であること

          わたしの住む星には、ほんの少しの美しいものがある。 そう感じたのは、ここ数年のことでした。 自分の星から旅立って、たくさんの誰かが住む星を巡って、自分が何者かさえ忘れてしまったとき、それぞれの星に住む人から、そんな美しさを教えてもらったのです。 カーテン越しに差し込んでくるやわらかい陽の光のことや、淹れたばかりのあたたかい飲み物から立ち上る湯気のこと、それらすべてを感じられること、わたしはそれをとても愛おしく感じるのです。 あの頃のわたしには、冬に吹く風が連れてくる、襟

          あなたのための星であること

          12月31日

          こんにちは、ねこです。 これを書いているのは12月31日、忙しなく働く人たちと年末年始お休みの人たちがゆっくりと行き交う街に、年の終わりらしさを感じています。 みなさんはいかがお過ごしでしょうか。 年末年始もお仕事の人はきっと忙しいでしょうから、無理をしすぎず体に気をつけてくださいね。がんばっていてほんとうにえらいです。 お休みの人はここぞとばかりにたくさん休んでください。「なにもしない」をするように、たくさんゴロゴロしてくださいね。 一年がんばってきたあなたに、ちょっと

          光の中に

          窓から光が差している。 わたしはその光で目を覚ました。 今日はすこし早起きをしたから、朝から湯船に浸かって、電子レンジで温めるパスタソースを、冷凍のうどんにかけるだけの簡単な昼ごはんを食べて、すこしドラマを見て、いつの間にか椅子に座りながら眠っていた。 眠っているうちに進んでいた物語を、とりあえず止めて「うーーーん」と言いながらひとつ伸びをする。 いい天気だからすこし散歩に行こうか、それともこのままあたたかい飲み物を注いで映画でも観ようか、まだ寝ぼけた頭で考える。少なく

          ガラスの瓶に星の砂

          こんにちは、ねこです。 あっという間に11月になりましたね。ここ最近は冬みたいな寒さの日があって、ついつい電気ストーブや毛布を用意してしまいました。 今年ももう60日もないのかと、クリスマスカラーに染まりはじめた街を眺めながら、心にも忙しなさを感じています。 先日、誕生日を迎えた日にパートナーからチェキをプレゼントしてもらいました。綺麗に撮るのがなかなか難しいのだけれど、その不便さがどこか面白くて楽しい。 ファインダーを覗いて「パチリ」とフラッシュと一緒にかわいい音が鳴

          ガラスの瓶に星の砂

          金木犀の香る道を

          こんにちは。ねこです。 とても久しぶりのエッセイになってしまいました。みなさまいかがお過ごしでしょうか。 わたしはというと、この10月で4年間働いていた場所を辞めることにしました。なんだかいい区切りだなと思って、いくつか綴りたいこともあって、久しぶりに言葉たちを打ち込んでいます。 あれは専門学生の、たしか2年生になった頃。 わたしは高校生からずっとアルバイトをしたことがなくて、周りがみんな働いていく焦燥感に駆られて、家の近くにあったパン屋さんに応募したのがきっかけでした。

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          午後の電車

          晴れの日。 映画を観に行こうと、午後3時発の電車に乗って、空いている席に座る。席が空いているのには相応の理由があって、大抵は車窓から陽が差しているから、首元があつくなる。手にするスマホも反射して、何が写っているのかよく分からない。 わたしは、いつもそれを忘れてそちら側に座ってしまう。座った後「あぁ、そういうことか…」となっているのを悟られまいと、平然とした顔つきでその場所に座り続ける。はやく着かないかな…と思いながら。 最近は、電車の窓がすこし開いているから、風が通って

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          なんでもない日に、ひとかけらの愛を

          なんでもない日に、プレゼントを。なんでもない日を彩るように、花束を。なんでもない日が、特別な今日になるように。なんでもない過去が、何かあった未来を救うように。 そんな風に思って、よくパートナーだったり大切な人に、なんでもない日だけどケーキを買ったり、ちょっとだけいいお菓子を買ったり、好きだと言っていたものを買ったりしてしまいます。 会えたことが何よりうれしくて、それで笑ってもらえたらうれしいななんて。あげすぎるとそれもよくないから、たまーにこっそり買うのが好きです。 会

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          眼前に広がる海原の向こうへ

          こんにちは、ねこです。 約2ヶ月ぶりのエッセイとなってしまいました。待ってくださった方がいたら、なかなか書くことができなくてごめんなさい。 2月の末から3月のはじめ頃、件の流行り病にかかってしまってからというもの、なかなか気分が上がらず、ずっと文字とにらめっこしているような日々でした。もうすっかり元気になり、ようやく書いてやるぞ!という気持ちになれたので、またまっさらな場所に文字を落としています。 さて、ここ最近は春の気候どころか夏の光や風が訪れ、桜もいつの間にか満開にな

          眼前に広がる海原の向こうへ