【詩人の読書記録日記】栞の代わりに 青空文庫特集!9月19日~9月25日
はじめに
こんにちは。長尾早苗です。中秋に入り、だんだんと秋の深まりを感じた方も多いのではないでしょうか。今回は事情がありまして、移動図書館の日に用事が入っているため、青空文庫特集をやってみたいと思います。大学では近現代日本文学専攻、元司書のわたしとして、できるだけ面白いものをみなさんにご紹介していきます。すべて検索すれば無料で読めますので、ご活用ください。
9月19日
ソラリ、というアプリでスマホ読み。こんなに字が大きく映って、ページをめくる感覚でスワイプしていくのは面白いですね。kindleとは少し違う感触がしました。今日は晴れなのでスーパーで買い出し。色々寄稿作品を提出できたので自分祝いといきましょうか!
・小川未明『月夜とめがね』青空文庫
大学時代に朗読で惹かれた作品。月夜の美しい夜、おばあさんのもとに不思議なめがね売りがやってきます。おばあさんは針仕事を深夜までしていました。そのめがねをかけたときにやってきたのは一人の不思議な少女。その少女は実は……。ほっとするラストです。小川未明の短編は、心がざわざわするものと、ほっとするもの、少し不思議なものと色々あって、どの作品も短く読めますのでおすすめです。
・夏目漱石『自転車日記』青空文庫
夏目漱石先生、自転車がめちゃくちゃ苦手! みなさんは上手な方ですか?わたしは全く乗れません(笑)自転車に乗れる人はこの日記は大うけすると思いますが、漱石先生も自転車に乗れないわれわれもどきどきしてしまいます。ただ、抱腹絶倒間違いなしではありますね。漱石は俳人でしたし、なんだか『吾輩は猫である』がデビュー作、というまなざしが人とは違ってユーモアにあふれているので、そんな彼の自転車苦労話、つきあってあげてください。
・ドストエフスキー『地下生活者の手記』青空文庫
2回か3回、休憩を入れるのをおすすめします。それくらいの熱量とエネルギーを使って書かれた一冊です。わたしは毎週金曜日、追っかけ配信でらじるらじるの亀山郁夫先生のドストエフスキー講義を聞いているので、ドストエフスキーが「世界」「ロシア」に求めていたもの、「ひと」に対して求めていたものを少しずつ理解していきました。この地下生活者の手記では、ある男の一人語りで語られる、愛と憎悪のまじりあった世界への復讐のような物語です。彼にも「心」というものはありましたが、うまくそれを表現できず、愛されたくても愛されなかった。そんな救いを誰に求めたのか、最後まで読むしかないと一旦休憩を入れながら読みたいと思ってしまいます。
9月20日
今月最後となる寄稿詩第一締め切り。推敲するところが多々あり、時代物の詩を書く方・小説を書く方を本当に尊敬しました。
・トルストイ『イワンの馬鹿』青空文庫
バカって、なんなんだろう。ひとを受け入れ、ただただ自分たちの幸せの為に暮らす、一生懸命手を使って仕事をする。兵隊の兄や商人の兄は栄光や金銭によって不幸になりましたが、それは全部悪魔の仕業。イワンはバカというより、自分の「きほん」に立ち返ってよくよく考えた男なのだと思います。だからこそバカだけど今の社会のみんなが忘れていることを彼はしました。立派な王様だと思います。そして当時のロシアの背景なども考えるとまた違った読みもできそうですね。(トルストイには『戦争と平和』という名作もあるのですが、それはまた別の機会にお話しします)
・宮沢賢治『オツベルと象』青空文庫
月曜日か金曜日に読みたい作品。どこからともなく現れた白い象を持ったオツベルは、あまりにも過酷な労働を象に押し付けます。しかし、仕事の充実感にあふれた象は、いくら食料が足りなくても仕事をし続け、しまいに倒れて仲間を呼ぶことにしました。ひとの欲と、ひとのむごさ。そして「働く」ということのすがすがしさ。今日も頑張っていこうと思います。
9月21日
2か月ぶりに髪を切りに。今日は移動図書館の日でしたが、美容院が入っていたため、こういう企画もやってみたいと思い、青空文庫特集にしました。みなさん紹介した作品を読んでくださるといいなあ。中秋の名月、8年ぶりの満月だったので20年前からつけていた日記をすべて取り出してきました。お月見団子と秋刀魚を食べました! おいしかったなあ。
・太宰治『お伽草紙』青空文庫
戦時中に書かれた物語です。たぶん、太宰自身はお父さんとして子供に絵本を読み聞かせていた体験がもとになったのでしょう。この頃、文筆家にはかなりの打撃を与えるものがありました。それは、戦争礼賛の物語を推奨され、そうでないものは出版できませんでした。太宰治はそれでも「書こう」としたのが『お伽草紙』になります。浦島太郎、桃太郎のような誰でも知っているおとぎ話を太宰治風にアレンジ。大人になってから「嘘」というものの浅はかさを知って読むとまたおとぎ話も違った感触で読めると思います。
・ゴーゴリ『外套』青空文庫
わたしはロシアに行ったことがないのですが、家族がロシアを旅していたこともあり、色々と話は聞いていました。空が一日中曇り空であること、クリスマスマーケットの様子、など。また、雪がとてもきれいなこと。この作品では「気候」と心情が見事に織りなされていきます。ペテルブルグが舞台の小説ですが、天気や気温とその土地や環境で、人は生活する時色々な感情を抱くのだなあと思いました。
9月22日
今日は朝から仕事をしながら、武者小路実篤『友情』の朗読をらじるらじるで聞いていました。若いころに恋するとなんだか自分で自分を追い詰めてしまうんだなあ。作品群が一つのデータにまとまり、第二次締め切りまで原稿を書いたりなど。伊吹有喜『風待ちのひと』回送中。
・寺田寅彦『科学に志す人へ』青空文庫
わたしが大学の日本文学科にいた時、毎日勉強できたのはまわりが勉強していたからです。そういう「学友」がいないときっと心が折れていたと思う。図書館へ行けば自習をしている学生がいました。だからこそわたしも負けじと勉強していた。本を読みました。それが今につながっていたのだと思うと懐かしいです。今のご時世では「学ぶ」ということに心が折れてしまう人が多いのもわかる気がします。ただ、この本の中でもあるように、誰か勉学に励む同志を持つことは大事だと思います。オンラインで自習とか、どうですかね……例えばこのYoutube音楽ライブチャンネルを聞いている間に課題を終わらす、とかSNSで宣言したり、ライングループで励ましあったり、zoomで画面オフにして時折質問したりしながら勉強するとか。友達って、勉強にも必要なことなんですよ。
・中勘助『銀の匙』青空文庫
男の子ってこんな感情を持ったりするよね、かわいいなあと思える年代にわたしも入ってしまいました。この作品は著者の自伝的作品です。引き出しから銀の匙を見つけた語り手が、幼少期からの自分の子ども時代を回想します。学校の思い出、けいちゃんへの初恋、そして入院の夜。父親との絆も垣間見られるのですが、子どもの頃ってみんなこんな感情を持っていたんじゃないかなあ。少し長編ですので、休憩を1回ほど入れるのをおすすめします。
9月23日
昨日から十年ぶりに裁縫をしていました。原稿の推敲が終わり、連絡業務だけになった時に連絡を待つのにちょうどいいと思っているからです。どこでも持ち運べる小さなショルダーバックができあがりました。写真に撮るとアラが映るのでわたしだけのもの。お会いした時に「あ!」って言われたら最高ですね。10歳の頃の自分から日記にお便りがつづられていたのでお返事。5冊目の手帳が届きました。来年はどんな日々を紡いでいこうかな。新作1編。
・太宰治『困惑の弁』青空文庫
太宰治って、自分のことを「大作家」と内心思いながら、実は悪名の方が知れ渡っていることの方に気づいていたのかもしれません。作家として何を書くか、そういうものを教える、というものに非常に困惑しているエッセイです。単著を出版すると「先生」と呼ばれるようになる、という文壇ならではの常識はあるのですが、彼らはその呼び名にとても困惑しながら生きています。太宰治の困った顔を思い浮かべます。
・夏目漱石『硝子戸の中』青空文庫
今回は夏目漱石の作品を2作取り上げてみました。この作品は晩年、作者が風邪で床に伏したときに書いていたエッセイです。外に出られない、というのはこの時代であってもフラストレーションのたまるものだったのかもしれません。漱石が考えていた「家」、自分の半生、そして文学の事はすべて日常からできあがっているということ。今この状況になってもう一度読み返すと、リアルタイムで漱石の時代から手紙が来たように思います。
9月24日
エッセイ2作。精神の休息、というのは映画『耳をすませば』で雫のお父さんが執筆に疲れて寝てしまった雫に言うセリフですが、そんな感じ。ストック詩が200を超えました!
9月25日
昨晩、丸山薫賞の発表があり、納得の結果なのでよかったなあと思います。昨日の朝に提出した詩にすべてを注いでしまったので、ほぼ疲れて寝ていました。スマホの機種変更をしました!カメラが3つついていて、楽しみ、楽しみ。武田百合子『犬が星見た ロシア旅行』回送中。新作エッセイ1作。
・夢野久作『創作人物の名前について』青空文庫
夢野久作といえば『ドグラ・マグラ』なんですが、あんなに不思議で複雑な小説を書く彼がこんな軽い随筆も書くんだな、と半ば安心。そうですよね、小説の人は登場人物の名前、どこからつけているんでしょう……。作者にとってみたらその問題はもう「神経衰弱」ものだそうです。わたしは詩で名前を出すのは自分以外あまりなく(観念的な要素が強いので)、小説論評をしていた大学時代はその登場人物の名前を『漢字源』という辞書で調べていました。小説の中で、非常に意味を持つ「名前」。きちんと考えられていると読み手としてもうれしいです。
最後に
今回はちょっと特別編でしたが、いかがだったでしょうか。寝ながらでも読める、疲れていてもパッと取り出せてスマホで読める、というのが発見でした。栞をちゃんと挟めるところもいいですね。読了後の写真、載せておきます。
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