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「星を編む」凪良ゆう
最初に手にしたのは「流浪の月」。2020本屋大賞「汝、星のごとく」を昨年読んで、いつになく感動した。その後「滅びの前のシャングリラ」も楽しく読めた。今回2023本屋大賞の「汝、星のごとく」の続編、アナザーストリーを読んだ。装丁が好き。淀む心に、澄み渡る寂寥感がある。
前作は、瀬戸内の島に住む高校生の櫂と暁海が、夢を抱き、挫折して悩み、SNSの嵐に翻弄され、誰かに支えられ生きてゆく。櫂と暁海の立場を反転させながら物語が進行する。
今回は櫂と暁海に関わった、北原先生の過去、植木編集長と二階堂編集長の奮闘、櫂亡き後の暁海と北原先生。3つのストリーが各々の思いを時間を超えて惑い進む。
「春に翔ぶ」
穏やかで利他の人、北原先生。倒産した旅館の息子として、金銭の苦労から大学院を中退し高校教員の道を歩む。父親の情けは人の為ならずという言葉を正しいと思えども、持たざるものの苦悩に夢を諦め翼をたたみ込む。
病院長の娘 明日見菜々は妬みの中で孤立する。夢に羽ばたく少年の子どもを宿すが、煩わせたくないという思い、両親の反対での葛藤。北原先生が自分の子として結と名付けて引き取るが、菜々は、父の院長から流産と伝えられて、家を飛び出し音信不通となる。北原先生は、瀬戸内の島の教員に流れ着き、結を育て慈しむことで、情けは人の為ならず 父親の生き方に寄り添うことができ、希望を手にする。
後に傷ついた暁海を世間の目から守るために、互助会としての結婚で支えてくれたのが北原先生。前作の話につながるエピソードゼロ。
「星を編む」
櫂の才能を信じて尚人と結びつけて、下積みを重ね人気漫画家に上り詰めるが、尚人のスキャンダルから連載中止へと急転直下。櫂の病、33歳で亡くなった前作。
本作品は、未完の漫画の完結させようと奔走する植木編集長。失意の櫂が亡くなる前に自伝小説を書き上げることを全力で支えた二階堂女史。別の出版社の戦友としての友情。昭和の父親とキャリアウーマンの正反対の夫婦関係を抱える二人。作家、作品への熱い思いが二人の編集長を駆り立てる。クリエイティブな作家は星。編集者は、星を紡ぐ。
意見を交わす食事の場面が多く、活きている躍動感が伝わる。作家を体を張って守る編集者の気持ちが痛いほど沁みわたる。出版社側から、作家の対岸から見るストーリー。
三浦しをん「舟を編む」を感じた。
「波を渡る」
櫂の遺稿の小説が出版された後、暁海と北原先生の夫婦の物語。重版が続き、互助会夫婦がお互いを思いやり、思いやり過ぎるなかで、本物の夫婦になる。
瀬戸内の島の花火は、時を経ても暁海を櫂のもとへいざなう。しかし、北原先生と共に時を紡ぐことでで、互いを思いやる気持ちは愛情へ。北原先生が育てた結が結婚、離婚して島に戻る。櫂の小説が映画化され星は輝き続ける。
瀬戸内の島の夕暮れには、いつも夕星が佇んでいる。
思いを言葉にできずに伝えられない、思うあまりに言い過ぎてしまう。思いは時の流れで変わる。受け入れられる思いと、受け入れられない思い。
親も子も一人の人間として、心の葛藤を抱えて生きている。読書は楽しい。言葉にするのは難しい。