政府主導の経済が自由市場の経済に勝てない経済学的証拠
2024年1月の世界経済フォーラム(通称ダボス会議)から、アルゼンチンの大統領でありオーストリア学派の経済学者でもあるハビエル・ミレイ氏の演説を紹介したい。
ミレイ氏はオーストリア学派の経済学者だが、オーストリア学派では財政支出は無駄な公共事業を積み上げるだけで国民の幸福には繋がらず、生産性向上のためには民間セクターにおけるイノベーションと努力が必要だと考えている。
ミレイ氏の経済学的論証
ミレイ氏はそれを論証するために経済統計を持ち出す。
彼は次のように述べている。
ミレイ氏が語るのは世界の1人当たりGDPの成長の歴史である。指数関数的なグラフとは、最初はほとんど上昇を見せないが、途中から物凄い勢いで上がってゆくグラフのことである。
驚くべきことだが、19世紀になるまで世界の経済成長は極めて緩慢だった。より詳しくは次の通りである。
厳密には今の成長率と比べると無成長に見えると言うべきなのだろう。昔にも多少のイノベーションは積み重ねられてきたのだろうが、今のイノベーションと比べると僅かということになってしまう。
産業革命と1人当たりGDP
だが19世紀にはそれが変わる。19世紀に何が起こったか。産業革命である。
ミレイ氏は次のように続ける。
ここから現代的な成長率へと変わってゆく。
産業革命以降は大量生産の時代である。大量生産ということは、単に金銭的に豊かになるというだけの話ではなく、より多くの人にものが届けられるということである。
そしてそのトレンドはまだ加速している。ミレイ氏は次のように続ける。
だからミレイ氏は、特に政府が支出を増やすべきだと主張し、自由市場を批判し政府の経済介入を支持する左派の人々の向けて次のように言う。
これは政府が大きく徴税し大きく支出する「大きな政府」と、それを最小限にする「小さな政府」の問題である。
「大きな政府」は日本の自民党やアメリカの民主党であり、小さな政府はほとんど存在しないが今のアルゼンチン政府か今のギリシャ政府、あるいはスイス政府くらいだろうか。
「大きな政府」はお金が費やされる先を消費者ではなく政治家が決定するという意味で本質的には共産主義である。世界最大のヘッジファンドを運用するレイ・ダリオ氏なども、先進国のほとんどが多額の財政支出をしている状況を共産主義的と呼んでいた。
「大きな政府」の問題を指摘するには共産主義国の失敗を指摘するだけで十分である。だが経済学者のミレイ氏は経済の歴史を振り返り、資本主義の時代とそれ以外では経済成長がまったく違うことを示した。
日本の自民党やアメリカの民主党のような、村の権力者が財政を勝手に決めるような村社会は太古の昔からあったはずだ。だがそれでは経済成長は0.02%のままだった。「大きな政府」も共産主義も、その時代の経済成長に戻すことを意味しているのである。
それは人々に貧困で死ねと言っているのと同じである。だが日本の自民党やアメリカの民主党のような左派(誤植ではない)の人々、あるいはMMTという宗教家たちは人々を経済停滞から救うためには財政支出しかないと言う。
面白い冗談ではないか。東京五輪や大阪万博がインフレと円安で苦しむ市民をどう助けるのか見てみたいものである。
財政支出は倫理的か
財政支出は一般的に「誰かのため」という名目で行われる。年金問題に関しても、明らかに今の若い世代が老人になった時の資金は残っていないにもかかわらず、今の老人世代への給付が減らされないのは「お年寄りのため」というわけだ。
だからミレイ氏は次のように言う。
年金問題であれば政府支出の問題点を理解する人々でも、他の問題ならどうだろうか。震災が起きた場合の被災地の支援であればどうだろうか。
被災地を助けるのは良いことだ。だが問題は、その資金の出処である。被災地を助けたい人が居たとして、その人が自分の金で被災地を助けるのであれば何の問題もない。本来、本当に心優しい人々はそうするだろう。だが多くの人々は何故か政府の金で被災地を助けることを要求する。そして政府の金は徴税によってファンディングされているので、それはつまり他人の金である。
しかも日本の自民党のように、被災地支援が被災地への旅行支援という意味不明の政策(困っていない地域だけが旅行者を受け入れられる)によって行われているのを目にするとき、刑務所に放り込むという脅しによって強制的に徴収された税金がそのような使われ方をされていることに同意する人が果たしてどれくらい居るだろうか。徴税とは強制的な資産の奪取である
だからミレイ氏は次のように言う。
税金と政府支出とは、政治家が本人の許可を得ずその人の資金を勝手に他の人のところへ移し替えることである。そしてその資金が誰に移し替えられるかは、政治家によって恣意的に決定される。
同じオーストリア学派の大経済学者であるフリードリヒ・フォン・ハイエク氏は、著書『貨幣発行自由化論』において、それをはっきり窃盗だと言っている。
だからミレイ氏は次のように言う。
結論
しかしミレイ氏の議論は本当に政治家のものとは思えない。本職の経済学者なのだから当たり前なのだが。米国の財務長官を務めた経済学者ラリー・サマーズ氏(彼は左派である)の他に、政治の世界に関われるまともな経済学者という稀有な人材が出てしまった。自由万歳!