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中国語小説の翻訳教室――神の代弁者になるために(『永不瞑目』29−35章)

 一週間たってから、彼女はようやく更生施設に入った肖童を再訪します。彼は順調に回復していましたが、監獄のような暮らしが嫌で、一日も早く外に出たいと訴えます。彼女は仕方なく、施設の責任者と相談をしました。その人は、麻薬への心理的な依存を断ち切るためには、彼を毎日見てやれる家庭が必要だと言います。彼女は帰宅すると父に事情を説明し、協力を求めます。若者を更生させることに意義を認め、父も同意します。

 こうして肖童は欧慶春の家で、新生活を始めました。彼女の父との関係も良好で、共に規則正しい充実した日々を送ります。父は彼と話をする時に、麻薬については決して触れようとしませんでした。

【原文】

 父亲和肖童※1讲得最多的,倒是个人品德和为人处事,讲的是做人的规矩。譬如他对肖童说※2,庆春比你大好几岁你不应该直呼其名※3,至少该叫声姐姐,再熟也要有礼貌。肖童对父亲的种种教诲百依百顺,唯独对这条充耳不闻。

【和訳】

 (父が肖童に)※1最も多く話してやったことは、人としての品格や処世訓の方で、人の道を歩む上での決まり事を説いた。例えば(彼は肖童に)こんなふうに言った※2。慶春の方がずいぶん年上なんだから名前のまま呼んではいかん※3、せめてお姉さんと呼ばないとな。親しき中にも礼儀あり、だ。肖童は父の教えを何でもよく聞いたが、これだけは聞こえなかったふりをした。

※1 主語を省略可能だが、省略しなくても違和感はない。

※2 主語を省略可能。こちらは省略したい。

※3 「呼び捨て」とした方が自然だが、今までの和訳では「慶春さん」とし、本当に呼び捨てにはさせていないので、少し言い回しを変える。

 年上の女性を「お姉さん」と呼ぶ習慣はもちろん日本語にはありませんが、ここではそれほど不自然には見えないので、そのまま訳出しても問題ないと思います。しかし「再熟也要有礼貌」という、「親しき仲にも礼儀あり」に当たる言葉が出て来るとは驚きです。あんまり「客気」すると、おれとお前の仲だろうと怒られるのが中国だと思っていたのですが。

 肖童は同じ家で生活する欧慶春に時おり親しみを示し、優しい言葉をかけます。彼女は未来への希望を失わせないよう冷たくはせず、一定の距離を維持します。それは余りにも早く、肖童と李春強のどちらかを選びたくなかったからでもあります。今はまだ、どちらとも恋愛している場合ではありません。彼女はそれよりも、二人の男性の間に友情を芽生えさせ、少なくとも平和的に付き合わせたいと思いました。ちょうどそのころ、李春強の誕生日が近づいていました。彼女は彼を自宅の食事に誘います。

 さて、ここからは30章ですが、個人的には本書で最も印象深い、起伏に富んだ章だと感じています。ぜひとも全文を翻訳紹介したいところですが、そういうわけにもいかないので、要所要所を細かく見ていきます。

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