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自己中心バイアス(egocentric bias)について

自己中心バイアス(egocentric bias)とは、人が物事を自分を中心にして捉え、他者の視点や状況を十分に考慮しない心理的傾向を指します。このバイアスは、自分自身の知識、感情、経験を基準にして他者の行動や考え方を推測する際に現れるため、コミュニケーションや意思決定において誤解や判断の偏りを生むことがあります。

主な特徴

  1. 自分の貢献を過大評価する
    グループ作業や共同作業で、自分が行った貢献を他者よりも多く見積もりがちです。
    例: チームでのプロジェクトの成功を、自分の努力が主な要因だと考える。

  2. 他者の立場を過小評価する
    他者の視点や感情を十分に理解できないため、相手の意図や行動を誤解することがあります。
    例: 自分が明らかだと思っている情報を、他者も当然知っていると無意識に思い込む。

  3. 自己の価値観を普遍化する
    自分の価値観や信念が、他者にとっても同じように重要だと考えてしまう。
    例: 「自分ならこうするから、相手もそうするはず」と思い込む。

日常の例

  • 職場での誤解: チームでの成果を上司に報告する際、自分が果たした役割が強調される傾向がある。

  • 交渉の場: 自分の利益や希望を優先的に考えすぎて、相手の妥協点や関心を軽視してしまう。

  • 人間関係: プレゼント選びなどで、相手の好みよりも自分が「良い」と思うものを選んでしまう。

克服する方法

  1. 他者の視点を意識する
    意図的に相手の立場に立って物事を考えるようにする。
    例: 「相手がこの状況で何を感じているか?」を考える。

  2. 客観的なデータを利用する
    判断や意思決定を行う際に、主観的な感覚ではなく、客観的な情報やデータに基づく。

  3. フィードバックを受け入れる
    他者からの意見を積極的に聞き、自分の視点だけに囚われないようにする。

  4. 共感力を鍛える
    他人の気持ちや考えを尊重し、積極的に理解する習慣をつける。

自己中心バイアスを意識し、これを克服することで、より円滑な人間関係や効果的な意思決定を実現することができます。

具体的なシーンで体験してみましょう。
以下は、とある企業の、営業部課長と技術部課長が会話を通じて自己中心バイアスを示しているシーンの例です。


登場人物

  • 鈴木 営業課長 : 自己中心バイアスが強く、受注は営業部の働きによるものだと確信している。

  • 田中 技術課長 : 自己中心バイアスは多少あるものの強くなく、営業部の功績も公平に見ようと努力している。


会議室にて:案件受注の成功に喜んでいるが、その時の会話


鈴木(営業部課長)

「いやー、今回の受注はまさに営業部の努力の結晶でしたね。最初からお客様のニーズを引き出して、何度も提案を練り直して、最終的に競合を抑えて勝ち取った。技術部も頑張ったけど、今回の営業部の対応がなかったら、この案件は絶対に取れませんでしたよ。」


田中(技術部課長)

「営業部がしっかりとお客様の要望を拾ってきてくれたのはありがたかったですね。今回の案件は特に技術的なハードルが高くて、私たちの開発チームが早急にプロトタイプを仕上げたり、特殊な技術的要求に対応した部分も大きかったと思います。その結果がお客様の信頼につながったと思います。」


鈴木

「もちろん、技術部の作業も重要でしたが、営業部がしっかりヒアリングして、具体的な方向性を示したから、技術部が動けたんじゃないですか?」


田中

「技術部も毎回打ち合わせに参加していましたから、お客様の要望は把握しています。ただ、お客様を説得していただいた努力には感謝していますよ。技術部は、要望を実際の形にするために相当努力しました。結果を出したことでお客様の信頼を得られたのは確かです。」


鈴木

「まあ、技術といっても、受注は結局、営業部が長年築いてきた関係性の上に成り立っていますから。技術がいくら良くても、今回は特にですが、うちの部員たちの交渉力と粘り強さがなければ、契約に至らなかったでしょう。」


田中

「お客様との関係を繋いでもらったことは、営業部が培ってきた信頼の結果ですよね。でも、それに加えて、『このレベルの技術提案を期待していなかった』と評価をいただいたので、それも重要な要素だったかと。お互いが補完し合った結果ではないでしょうか?」


鈴木

「うーん、まあそういう見方もありますね。ただ、最初の接触から最後の契約締結まで、営業部がどれだけ動いたか技術部の方はわからないですかね、技術に没頭していれば良いのですから。」


田中

「確かに営業部のフットワークの軽さと粘り強さは、さすがだと思います。ただ、技術部の貢献も忘れないでいただければと思います。」


シーンの要約

  • 鈴木 営業課長は、受注の功績をほぼ営業部の努力によるものだと考え、技術部の貢献を軽視している。

  • 田中 技術課長は、営業部の功績を認めつつも、技術部の役割を無視する鈴木に対し、技術部の功績を説明する。

  • 鈴木の主張は終始「営業が主体だった」という一貫したトーンだが、田中は「双方が補完し合った結果」というバランスの取れた視点に修正しようとしている。

このような会話は、組織内の部門間の争いでよく見られる、自己中心バイアスの典型的な例です。

鈴木営業課長は少々バイアスが強いようです。
二人のその後を見てみましょう。


  • 鈴木課長(営業部): 自己中心バイアスが強さは、「自分こそが功労者」と考える癖があるので、一部の部下からも良く思われていない。

  • 山本(営業部): 鈴木の部下

  • 田中課長(技術部): 温厚で冷静な性格

  • 木村(クライアント): 今回の案件の主要な取引先担当者


さて、案件受注後、そのプロジェクトで重要な納期が迫る中、顧客の要求が急遽変更されました。対応のため、営業部と技術部の連携が必要な状況です。


営業部

鈴木課長
「山本くん、この案件、お客様から新しい仕様のリクエストが入った。すぐに技術部に伝えて対応させてくれ。納期も守るように調整するんだ。時間がないぞ!」

山本
「しかし課長、実績から言って、納期は厳しいです。そのまま受けるかどうか、先に新しい仕様の詳細をお客様と技術部で確認した方が良いのではないでしょうか。」

鈴木課長
「まず受けろ!営業がリードするべきだろう?
君は自分の仕事に集中すればいい。これは日頃から顧客との信頼関係を築いてきた私のやり方だ、技術部には是が非でも受けさせろ」

山本
(まただよ。全部自分の手柄みたいに言うけど、俺たちが駆けずり回って出してる結果なのに)

山本
「技術部に話に行ってきます。」


技術部に情報が伝わる

田中課長
「山本くんから話があったそうだな。うーん、仕様が曖昧で、これじゃ短い納期で具体的な対応は難しいぞ。」

技術部員A
「こちらにばかり負担を押し付けてきますね。」

田中課長
「木村さん(クライアント)と話をできないか?」

技術部員A
「ちょっと捕まらないです。メールは打ちますが。」

田中課長
「とりあえず動こう。ただ、こんな急な変更ではな、まるまる受けるのは厳しい」


顧客への納品日

木村(クライアント)
「鈴木さん、この仕様変更について少し確認させていただきたいんですが。要求は網羅されていますが、次の試験で一番重要な機能の品質がこれでは.. 今後の開発に影響が出ますよ。」

鈴木課長
「えっ… 技術部に確認しますが、何かミスがあったともいます、申し訳ありません」

木村
「ですが、今回の案件、仕様内容は営業部から十分伝えてあるからと、すぐに動くことを優先されましたよね? 情報共有不足が原因では?」

鈴木課長
「……伝えたのですが、誤解があったようです…」

木村
「正直、不安が無かったといえば嘘になります。私も責任を感じますが… 鈴木さんは、この最重要機能について今ここで説明できますか? 技術部には”あなた”から伝えたのでしょう?」

鈴木課長
「……」



営業部と技術部

鈴木課長
「田中課長にもう一度対応を頼む。技術部でフォローしてもらえればなんとかなるだろう。」

山本
「… 状況が状況ですので、課長から直接お願いした方がいいと思いますが。」

鈴木課長
「君、ちゃんと伝えたんだよな? ミスは私がカバーするが、責任は果たしてくれ」

山本
(この人、また自分だけ逃げようとしてる)


技術部の反応

田中課長
「営業部からまた追加の依頼が来たが、さすがに今回ばかりは無理だな。こちらもリソースが限られているし、営業部がこれまでのような態度では、こちらも協力しづらい。」

技術部員B
「そうですね… 他が忙しいのに、あの人のために頑張ろうという人はいませんよ。木村さん(クライアント)とすぐ話した方が良さそうです。 今となっては、あの人邪魔ですね。」

田中課長
「オンライン会議を緊急で設定、頼めるか?」



エピローグ

田中課長はクライアントとオンライン会議を行い、重要機能に絞った試作品を順次納品することで合意し、開発スケジュールの遅れを最小限に留めた。

鈴木課長はクライアントの信頼を失う。上層部からは厳しく指摘を受け、営業部内でも孤立。技術部や営業部員からの信頼を回復するには、今後の態度を改める以外に道がなくなる。

教訓:
鈴木課長は、極端に自分の貢献を過大評価し、他者の貢献を過小評価する人物でした。その製品にしばらく携わっているので、新たな顧客の技術的要求も十分理解できていると自己を過大評価し、自らのやり方で状況をコントロールしようとしたことで、チームの積極的協力を得られなくなりました。

鈴木課長のケースは極端ですが、自己の過大評価は、ほぼ全ての人が持っている特徴です。人は必ず、自分を過大評価します。
それが精神を保つ元気の元、性なのかもしれません。しかし、過剰はいけませんね。自分のバイアス強度・傾向を日頃からチェックする癖をつけること、友人などの、「客観的意見」に耳を傾けることは重要ですね。😊

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