交渉相手の階層ごとの興味(interest)を利用する
交渉相手のinterest、興味を理解することは効率的に交渉を進める上で重要です。その興味は、交渉相手の中でも分類され、それが目の前の交渉相手個人のinterestなのか、その個人が所属する部門のinterestなのか、相手の会社全体のinterestなのか、その会社が供給する製品の最終顧客である消費者のinterestなのか、それぞれに同じ部分もあれば、異なる部分もあります。
それぞれのinterestをどのように理解し、それらのinterestを、どのように実際の交渉に組み込んで使用すれば良いでしょうか?
1. 相手のinterestを階層ごとに分類する
交渉相手のinterestは、以下の階層で分類できます:
個人のinterest: 目の前の交渉相手自身のキャリア、目標、評価。
例: ボーナスや昇進につながる結果を求める。
部門のinterest: その人が属する部門の目標や優先事項。
例: 部門の売上向上、コスト削減、新規顧客の獲得。
会社全体のinterest: 経営方針や企業目標。
例: 市場シェア拡大、株主価値の向上。
最終顧客のinterest: 相手の製品やサービスを利用する消費者のニーズ。
例: 製品の品質、コストパフォーマンス、利便性。
2. 各interestを理解するための情報収集
以下の方法で情報を収集します:
(1) 個人のinterest
質問を活用:
「今回の案件で特に重視されている点は何ですか?」
「あなた自身として、何が最も重要とお考えですか?」
観察:
相手の態度や発言から、何を強調しているかを読み取る。
(2) 部門のinterest
背景調査:
部門のKPI(重要業績評価指標)や現在の課題。
最近の部門の動きや成果。
直接確認:
「この提案は御社の○○部門にどのようなメリットをもたらしますか?」
(3) 会社全体のinterest
事前リサーチ:
企業のミッションステートメント、プレスリリース、財務報告書。
交渉中の確認:
「御社の全体的な方針として、どのような方向性を考えていますか?」
(4) 最終顧客のinterest
市場調査:
消費者レビュー、業界トレンド。
直接確認:
「最終顧客がこの提案をどう評価するかについて、どのようにお考えですか?」
3. 各interestを交渉に組み込む
理解したinterestを交渉に反映するには、以下の方法が有効です:
(1) 個人のinterestを活用
相手のモチベーションを高める:
「この提案により、御社内部でのあなたの評価が高まる可能性がありますね。」
「迅速に対応することで、あなたの目標達成に貢献できると思います。」
(2) 部門のinterestを活用
提案を部門の目標に結びつける:
「この価格設定であれば、貴部門のコスト削減目標に貢献できると考えています。」
(3) 会社全体のinterestを活用
会社の戦略的ゴールをサポート:
「この提案は、御社の市場シェア拡大に寄与するものと考えています。」
(4) 最終顧客のinterestを活用
顧客価値を強調:
「最終顧客にとって、これがどれほど魅力的な改善かを一緒に強調しましょう。」
4. interestの相違点と共通点を整理する
異なる階層のinterestが衝突する場合があります。その際には:
共通する利益を見つける:
個人としても、会社全体としても、顧客満足も高まれば全員にメリットがある
優先順位を確認する:
この場では、どの項目を最優先にするのが適切か?
5. 交渉のフレームワークとして活用
交渉の準備段階で、各interestを明確に把握し、それぞれに対する提案を用意する。
会話の中で、新たなinterestが浮かび上がることがあるため、柔軟に対応する。
相手のinterestを正しく理解し、それに基づいて戦略的に交渉を進めることで、双方が満足する結果を引き出しやすくなります。
交渉相手のinterestと最終顧客のinterestが異なる場合、以下のような状況が考えられます。それぞれの例を挙げながら解説します。
1. コスト vs. 品質
状況
交渉相手(企業の購買担当者)は、コスト削減が主要な目標である一方で、最終顧客は高品質な製品を求めています。
具体例
交渉相手:
自動車部品メーカーの購買担当者は、部品の価格を削減したい。最終顧客:
車の購入者は、安全性や耐久性に優れた部品を望んでいる。
バランスの取れた提案が必要です。安全性や耐久性をないがしろのはできないことを否定できる購買担当はいません。しかし、それも含めて「なんとかしろ」という態度に出ることは多いですが、これがどの階層のinterestが強く影響しているか理解を深めることで、よりよい解決策が見つかる可能性が高まります。
2. 短期利益 vs. 長期的ブランド価値
状況
交渉相手(小売業者のバイヤー)は利益率を重視し、低価格での仕入れを希望している。一方、最終顧客はブランド価値やプレミアム感を求めています。
具体例
交渉相手:
小売チェーンのバイヤーが、高級チョコレートをディスカウント販売したいと希望。最終顧客:
高級感を重視する顧客が、ディスカウント販売によってブランド価値を疑問視する可能性がある。
例えばですが、
限定版パッケージやプロモーションを提案し、最終顧客のプレミアム感を維持しつつ、バイヤーの利益率を確保する方法を提示。
バイヤーに、ブランド価値の維持が長期的な売上拡大に寄与することを説明。
3. 短納期 vs. 安定供給
状況
交渉相手(流通業者)は、短納期や即時対応を優先しています。一方、最終顧客は長期的な安定供給を期待しています。
具体例
交渉相手: 食品流通業者が、早急な納品を要求。
最終顧客: 消費者が、品質が安定し、信頼できるブランドを期待。
短納期によるリスク(品質低下や供給不足)を説明し、安定供給を優先するスケジュール案を提示、および最終顧客の信頼維持が、流通業者にも長期的利益をもたらすことを強調する
交渉相手と最終顧客のinterestが異なる場合、共通の利益を見つけることが鍵です。これには、長期的なメリットやブランド価値の重要性を具体的に説明することで、理解を促すことができます。
交渉相手を最終顧客のinterestに気づかせる
交渉相手 佐藤氏:
家電メーカーの購買担当者。コスト削減を個人の評価基準と考え、それに固執している。提案者: スマート家電部品のサプライヤー。
最終顧客:
スマート家電の購入者。便利なアプリ連携機能を求めているが、交渉相手はその機能を削除してコストを下げたいと考えている。
提案者:
「佐藤さん、まず今回のコスト削減を重視されている点について、非常に理解しています」
佐藤さん:
「ありがとうございます。この部品の機能を少し簡略化すれば、かなりコストを抑えられると考えています」
提案者:
「おっしゃる通り、機能を減らすことでコスト削減できますね。
ただ、一つだけ気になる点がありまして。この機能が削除されると、最終的に家電を購入されるお客様にはどのような影響があるか、弊社も調査したのですが、何かデータをお持ちですか?」
佐藤さん:
「うーん… 多分そこまで大きな影響はないんじゃないかと。どんな情報をお持ちですか?」
提案者:
「実は、この機能に関して、私たちが実施した市場調査では、消費者の65%、特に20代30代では80%以上が『アプリ連携』を重要視していることが分かりました」
佐藤さん:
「価格が下がれば多く消費者ニーズに適うのでは?こちらの調査では確か7割以上のお客様が価格低下を期待しています」
提案者:
「価格を下げることは常に消費者のニーズにありますよね。他社の競合製品では、価格低減と、アプリ連携を売りにする方向での二極化が見られます」
佐藤さん:
「確かに、競合の製品はその方向に進んでいますね…。しかし、うちの部としてはコストを削減しないと、なかなか厳しいんですよ。」
提案者:
「佐藤さんのお立場での成果は本当に大切だと思います。ただ、長期的な視点から見れば、過当競争に巻き込まれず、利益を維持できる可能性があるのではないでしょうか。コスト削減と、高機能化の両面から検討を進めさせていただくことではいかがでしょう?部内でも受け入れやすのにではないかと思いますが」
佐藤さん:
「長期的に、ですか…。確かに、それも理にかなっていますね」
提案者:
「では、コスト削減案以外に、連携機能を保持した仕様を提案させていただく方向でいかがでしょうか? 最終顧客のニーズを取り入れ、柔軟な決定に導けると思います。弊社の調査資料も一部お渡ししますよ」
佐藤さん:
「それなら、上司にも説明しやすいですね。その方向で進めましょう。」
行動変容を促すポイント
相手のinterestを尊重して共感を示す:
最初に「佐藤さんの目標を理解している」と伝えることで、相手の安心感を得る。
最終顧客のinterestをデータで示す:
消費者の需要や市場トレンドを具体的な数字で説明することで、感覚ではなく事実として気づきを与える。
長期的視点を提案:
相手の短期的な評価に加え、長期的な成果が佐藤さん個人にも、部門にも良い結果につながることを示す。
具体的な解決策を提示:
リスクの少ない「試験的導入」という選択肢を提案し、行動を起こしやすくする。
このように、相手のinterestを否定せず、最終顧客のinterestを明確かつ柔軟に提示することで、相手に気づきを与え、行動変容を促すことができます。
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